23
ギードに手紙を託してから数日が経った。ベッドの上でマリアンヌと手鏡が話をしている所に、自室のドアのノック音が忙しなく鳴り響いた。マリアンヌは、またか…と溜息を着く。このノックの後はエリザベスの焦る声が聞こえることは、日頃の経験で予測できている。
「マリアンヌ様、マリアンヌ様!」
ほら、やっぱり…とマリアンヌは呆れたように言う。手にしていた手鏡からは、失笑が漏れた。
マリアンヌが立ち上がるのと同時にドアが開いた。ここまで慌てているエリザベスは珍しい。余程ユリアンヌの機嫌が悪いのか…。
「エリザベス、騒がしいわ。落ち着いて。」
「…失礼しました。」
「ユリアンヌが来ているのでしょう?」
「はい。」
「今行くわ…。」
マリアンヌは台の上に鏡を置きに行く。その途中でエリザベスは衝撃的な言葉を口にした。
「それが…アラン様からの手紙をお持ちなのです。」
「なんですって。」
危うく手鏡を落とす所だった。手鏡を台の上に置くとすぐにマリアンヌは勢いよく部屋を飛び出した。
いつもは本邸の使用人がエリザベスに渡しているのに…。
「待ちくたびれたわ。ご機嫌よう。お姉様。」
大広間に着くと、そこに置かれたソファでふんぞり返っているユリアンヌがわざとらしい笑みを見せた。警戒しつつ、マリアンヌは挨拶を返す。
「ご機嫌よう…。今日は急にどうしたの。」
「お姉様がお元気か気になっただけよ。ついでに手紙も持ってきてあげたわ。」
ヒラヒラと手紙を見せつけてくる。取りに来いということなのか、緊張を滲ませてマリアンヌは受け取りに行く。
「お父様が、また返事を書かなきゃいけないのかって嫌そうだったわ。」
「そう…。」
ユリアンヌの発言は本当か分からないが、どうやら久々にマルクスが本邸に帰ってきているらしい。受け取った手紙は封を切られている様子は無い。マリアンヌは、ほっと胸を撫で下ろした。
「そうそう、お姉様に嬉しいお知らせがあるの。」
クスクスと笑い出す姿を見る限り、こちらが今日の本題なのだろう。聞きたくもないが、一応何か尋ねないとユリアンヌの機嫌を損ねてしまう。そうなるととても面倒だ。
「嬉しいお知らせって?」
「アルヘルム様の婚約者候補に選ばれたのよ。」
「…誰が?」
「やぁだ、お姉様じゃないわよ。わ、た、し。」
遂に来てしまった。
マリアンヌの手が震える。
アルヘルムとユリアンヌの婚約がトントン拍子で進むと、私は今以上にぞんざいな扱いを受ける…。別邸の使用人の数も更に削減され…周囲の記憶からマリアンヌという存在が薄れていく…。
皆から放置された私は……。




