19
アルヘルムの結婚相手探しは難航していた。頭の痛くなる思いで、ギルヘルムは自室にて書類を何度も見返した。
「ギルヘルム様、こちらを。」
今日も追加で分厚い束で候補達の記録紙が渡される。ギルヘルムは目眩を起こしそうになった。
「なぁ…ヨゼフ、誰かいないか。」
「私に言われましても。」
「はぁ…。」
ヨゼフと呼ばれた男は、ギルヘルムの側近を務めている。平民の出だが、憲兵だった頃、ギルヘルムに剣の腕を買われ、近衛兵に所属となった。剣の腕はさることながら、頭も切れる男であり、近衛隊隊長に上り詰め子爵の地位を与えられた。
ヨゼフはギルヘルムに絶対の忠誠を誓い、ギルヘルムはヨゼフに絶対の信頼を置いていた。
「そういえば…ルードリッツ家にも年頃の娘がいますよ。」
「マルクスにか?」
マルクス・ルードリッツはこの国の宰相だ。この国でその名前を知らない人はいないだろう。こんなにも近くにいたのに盲点だった。
「マルクス様はご家族の話になると口を閉ざしますからね。」
マルクスは仕事に関わる話には饒舌だが、家族の話となると口を開こうとしない。平民の後妻を娶り引け目感じているという噂も飛び交っているが真実は分からない。
王室が開いたパーティーで一度見かけた後妻の女性は妖艶で美しかった記憶がある。
「娘は美人なのか?」
「そうですね。奥様とはまた違った可憐さをお持ちです。これまで紹介にあがった令嬢の中では群を抜いているかと。」
「よし。それに、ルードリッツ家はジュール国とも繋がりがあったよな。」
「前妻の方が、ジュール国の姫でしたね。」
ジュール国は今やビスタルクと肩を並べる程の大国だ。繋がりを深めるのに越したことはない。
「ただ、ユリアンヌ様は今の奥様の子ですので…アルヘルム様がお気に召すかどうか。」
「そこは、私が説得する。」
ギルヘルムはそう言うと、立ち上がってなにやら身支度を始めた。
「どちらに?」
「ルードリッツ領の視察だ。領地を見れば、ルードリッツ家の度合いが分かる。」
「お待ちください!そんな急に…。」
「善は急げというだろう。」
「公務はいかがなさるおつもりですか。」
「これも公務だ。」
ギルヘルムは地図を取り出し、大きく丸をつけた。
「ここへ行く。」
ヨゼフが地図を見ると、眠らない町ハイケンに丸がついていた。




