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放置令嬢の立て直し  作者: 道野草花
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 男性が食べた残りを食べるなんて…しかも、かじった残りを…。

 マリアンヌの脳裏にエリザベスの顔が浮かんだ。噴火しそうな勢いで紳士淑女のマナーについて説く姿が想像できた。マリアンヌは自責の念に駆られながらも、冷静さを必死で取り戻した。


「…別にここじゃ普通のことよ。誰だってするわ。」

「へぇ、そうなんだ。」

「そうよ。なにも気にする事じゃないの。」


 ジークハルトは感心したような様子を見せた。残りの酒を飲み干すと、彼はゲルタを呼んだ。

 本当にこの人は良いところの坊ちゃんなのね、もしかしたら貴族かも…とマリアンヌは考えた。

 

「ねぇ、シルヴィーはお酒飲める口?」

「えぇ、大丈夫。」

「そう!なら良かった。おかみさん、ワインある?一番美味しいのを頼むよ。」


 ゲルタは、あいよと返事をして厨房に行った。少しすると、まだ栓の開いていないボトルとグラスを2つ持って戻ってきた。


「久しぶりに素敵なお兄さんに会ったからね。特別に昨日入った酒、開けちゃうよ。」


 周囲の客からは、ずるいという野次が飛び交った。周りを見渡すと、いつの間にやら20ほどある席はほぼ満席状態になっていた。ジークハルトは、ゲルタに向かって「ここにいるみんなの分もお願いします。」と言った。

 その言葉を聞いて、周りの客は大いに盛り上がった。ゲルタは、すごい客が来てくれたと嬉々として厨房に戻り、同じボトルを更にもう2本持って来てカウンターに置いた。

 あちこちで乾杯の声が上り、ジークハルトは喜んだ客たちに肩を組まれ揉みくちゃにされていた。初めて訪れた場所でジークハルトは皆の中心にいた。

 3本のボトルは一気に空になり、マリアンヌは自分の分を飲み干すと静かに席を立った。お勘定を…とゲルタに告げると、ゲルタは首を横に振ってこっそりとジークハルトを指差した。どうやら代金を支払ってくれたらしい。

 マリアンヌはお礼を言おうとしたが、ジークハルトは客たちに絡まれたままだった。

 ゲルタに「彼によろしく伝えておいて。」と伝えると、ゲルタはウインクをして返した。



 マリアンヌは店の外へ出た。来店時よりも賑やかな声が店外に漏れていた。店の外では、身なりの整った通行人が数名、賑やかな店を覗き込んでいる。


 空を見上げると、幾つもの星がチカチカと輝いている。マリアンヌは歩きながら、通行人が少なくなったのを確認すると、鞄の中から手鏡を取り出した。


「随分盛り上がってたな。」


 あくび混じりに鏡の中の者が話しかけてきた。眠いらしい。


「ジークハルトという人に会ったわ。」

「聴こえてた。」

「でしょうね。今日はギードに会えなかったけれど、とても面白かった…。」

「そうか。でもあの声、聞き覚えが…」

「え?」

「いや何でもない。それより、イモリ食ったのか?」

「食べたわ。」

「げー。」


 鏡の中の者は舌を出して、心底嫌そうな顔をして見せた。


「鏡さん、そういうもの好きそうだけれど。」

「俺はグルメなんだよ。」


 マリアンヌはそれを聞いて吹き出したのだった。


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