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マリアンヌの毎日は、朝一番に体を清めることから始まる。
朝食の後は、昼食までエリザベスからさまざまな知識を教わる。昼食が終わると、夕食まではマリアンヌの時間となる。読書をしたり楽器演奏をしたりとし、有意義に過ごす。アフタヌーンティーは気分次第。時には、エリザベスに内緒で厨房に足を運びリベルトのお菓子作りを手伝うこともある。夕食後はすぐにバスタイムにし、使用人達を下げて自室に籠ることにしている。
マリアンヌには誰にも言えない1番の楽しみがあった。
それは、日が沈んだ夜、手鏡と町へ赴くことだった。
鏡の中の者は言った。手紙は自分で届けろと。
叔父との手紙のやりとりは国境を跨ぐ。ましては冷戦状態の国同士である。手紙を送ろうとするならば、必ず本邸を通さなければならない。手紙の中身を確認されたり、書き換えられたりすることも考えられる。
叔父の手紙は、本邸に届く。マリアンヌに宛てた手紙は、そのまま別邸に届けられたが、勝手に返事を書くことは許されていない。代わりに、マルクスが近況を記した当たり障りのない手紙をルードリッツ家からの返事として送っていた。誕生日になるとプレゼントも手紙と一緒に届けられたが、全てユリアンヌに流れ、マリアンヌの元に届くことはなかった。
そのことを知っているのか、鏡の中の者は窓から外に出る手段を教えると町へ行くことを促した。始めは尻込みしていたマリアンヌだが、次第に別邸の外の世界にも興味を示すようになり、一度町を訪れてからは、すっかり自由な町の虜になってしまった。
そこへ行く道も、全て鏡の中の者が教えてくれた。教えられた通りの道を進むと、別邸から町まではさほど時間は掛からなかった。
マリアンヌは、なぜこんなにも色々と知り尽くしているのか気になり、鏡の中の者に尋ねたことがあった。だか、その疑問の答えは返ってこなかった。そこからマリアンヌは、それについて聞くのをやめた。
自分の運命を変えることに成功したら、もう一度答えを聞こうと考えた。
マリアンヌは、鏡の中の者からギードという男を頼れと言われていた。彼の行きつけの店や彼の風貌を教えられ、やっとの思いで彼を探し出した。
ギードは、マリアンヌと同じ年頃の掃除屋の男で、大柄な2人の仕事仲間と一緒にいることが多かった。顔にはいつも煤が着いていたが、目鼻立ちが整っいて歯は真っ白だった。そして何よりも深い藍色の瞳が印象的だった。
彼は、国境付近の小さな村で生まれ、仕事を探してここへ辿り着いたいう。町の中では、彼の知り合いが多く、皆から慕われていた。町だけでなく、様々な場所で顔が効くようで、どうやっているのか分からなかったが、手紙を確実に届けてくれた。
マリアンヌは、町では"シルヴィア"と名乗り、ルードリッツ邸で働く使用人のふりをした。マリアンヌの輝くブロンドは町では目立つため、屋敷を出る時には必ず、厨房から拝借した小麦粉を髪全体にはたき、三角巾を被った。
ギードと出会い、数回の交流で仲を深めてからマリアンヌは、彼にこう相談した。
マリアンヌ様が自由にしたためた手紙は、政治的な問題で書き換えられてしまう可能性がある。どうにかして届ける方法がないか…と。
ギードは考え込む素振りを一切見せず、俺に任せろお安い御用だと自信満々の返事をくれた。
半信半疑だったが、その後届いた叔父の手紙の中に、マリアンヌが質問したことの答えが書いてあり、確信へと変わった。
そこから、毎回ギードに手紙を送り届ける依頼をしているのだった。




