第10話 能ある鳥は姿を隠す
僕はウッドゴーレムのドベリ。
今日は僕を作ったビルザ博士と試作品の魔導具の動作テストをしている。
博士はいつもと違う眼鏡をかけている。サングラスのような魔導具の眼鏡だ。
「博士、それじゃあ、投げますよ」
「ああ。いつでもきてくれ」
僕は柔らかいボールを博士に向かって投げた。
難なく博士はそのボールをキャッチした。
「博士。うまくいきましたね」
「まぐれだと思うよ。それに耳も結構疲れるよ、この眼鏡は」
博士は魔導具の眼鏡を外し、いつもの眼鏡に付け替えた。
試作の魔導具の方は、視界を隠して完全に見えなくなる目隠し眼鏡だ。
前世で超音波ソナーという視覚障害者用の機器があった。
例えば、コウモリは口から超音波を出す。
その反射音を聞くことで周囲の状態を把握する。
だからコウモリは光のない洞窟を自由に飛べるのだ。
超音波ソナーは、それを機械化したものだった。
反射した超音波を、ソナーが人間に聞こえる音に変える。
その音をイアホンで聞けば、前方に何かがあると判別できる。
目の不自由な人の中では、舌打ちの反射音で前に壁があるかが分かる人もいるらしい。
魔道具の眼鏡は中心部から前方に超音波を出し、眼鏡のモダン(耳にかける箇所)から反射音を聞く。
さっきビルザ博士は完全に目隠しした状態で、飛んでくるボールを取ることができた。
「面白い機能だな。これが完成すれば、以前試した燭台の魔導具も使いやすくなるよ」
「確かにそうですね。自分は魔道具の光を見なくてすみますから」
「それにもう一つ。『姿を消す魔導具』も作りやすくなる。あの種の問題点は、自分も周りが見えなくなることだ。この眼鏡はそれを解決してくれるかもしれない」
「姿を消す魔導具って、自分からも見えなくなるんですか?」
「光を完全に遮ればそうなるよ。風景と完全に同化する『姿を消せるマント』を試作したが、使用者は真っ暗になった」
青いネコ型ロボットの漫画で面白い道具があったな。被れば『見えているけど気にならなくなる』とか。
どうすれば、相手からだけ見えなくできるか。
幾ら姿を消せても、自分からは見えないと困る。
例えばハーフミラーみたく、一方だけ光を通すか。
でも、うっすらと相手に見えてしまうかも。
なんとかできないものか。
「博士お得意の幻術で自分の姿だけ消せませんか?」
「それも試作したことはある。隠れるだけならある程度は使えたが、少しでも動けばバレたな」
保護色みたいなものかな。隠れられるなら緊急用には使える?
「それにだ、ドベリ君。まだ他にも問題があるんだよ。以前作った『姿を消せるマント』では、この眼鏡の魔導具は使えない」
「あ、そうか。マントを被ったら、そこで音が反射するか」
「それに音の聞こえ方も耳の形も、種族によって異なるよ」
博士は自身のとがった耳をいじりながら言う。
たしか、前世の超音波ソナーでも耳の形が重要だったと思う。
例えば、目を閉じていても音が鳴っている方向はわかる。
音の左右については、両耳の聞こえ方で判別している。
では前後はどうやって判別しているだろうか。
耳に直接入る音と、わずかに遅れて入る耳たぶでの反射音で、前後がわかるらしい。
だからエルフ耳と人間の耳では効果が異なるかも。
「まぁ、すぐに解決させるのは難しそうだ。気長にいこう、ドベリ君」
残念。ソナー眼鏡はいいアイデアだと思ったのにね。種族を限定して使うとか……
待てよ。聞こえない音じゃなくて、聞こえる音で魔導具を使えない?
「ビルザ博士。音を使った魔導具ってどうでしょう? 相手を怪我させずに無力化するとか」
「音楽がだせる鋤の神具なら作ったよ。ドベリ君も試したろう」
「いや、もーちょっとこう。一つの方向だけに嫌な音を大音量で響かせるとか」
前世で音響兵器ってのをテレビでやってた。石油を積んだタンカーを狙う海賊を撃退するとかだっけ。
「あまり気がすすまないよ。エルフは人間より耳がいいからね。人間には無害でエルフだけ被害を受けるかもしれないんだ」
まぁ、博士の立場だとそうなるか。
「武器ではないが、音で戦闘にも役立つ魔道具はあるよ」
ビルザ博士の手に魔法陣が現れた。そこから小さな物体が出てきた。
手のひらサイズの雪ダルマ? いや二頭身で雪ダルマに似たフクロウ?
「フクロウ型の伝令用使い捨てゴーレム。名付けて『ブーブリンギ・ウグラ』だよ。予め覚えさせている相手にメッセージを届けることができる」
今、不穏当なことを言わなかった? 僕の気のせい?
「博士。伝令用はわかりますが、使い捨てって何ですか?」
「一回だけメッセージを届けたら消滅するんだ。だから使い捨てゴーレム」
「ダメだよ。こりゃダメだよっ」
僕は思わずツッコミを入れていた。
「心のあるゴーレムには人権があるんですっ。差別反対!」
僕の言葉に同意するかのように、フクロウはホゥホゥと鳴いた。
「ドベリ君はともかく、このフクロウにはそんな機能はつけてないよ」
「そんなぁ。屋敷の先輩たちはどうなるんです?」
聞いてみると、アララさんとロギム先輩は人間の記憶をコピーしているそうだ。
屋敷の先輩ゴーレム達にも心に似た機能はついているんだって。
フクロウにはそれはついてない? でも今鳴いたよ。
「さすがに私だって、心のあるものを使い捨てにはしないよ」
「この前に話していたボール型ゴーレムにも、感情とか心があるみたいでしたが?」
「あれはそういう風につくったからね。まぁ、このフクロウもいちおう確認しておくか」
ふと、ビルザ博士がさっき言ったことが気になった。
「博士。このフクロウ、戦闘にも役立つって言ってましたよね?」
「このフクロウは音を出さずに飛ぶことができる。敵と戦う時、こっそり背後に回って、耳元で鳴くこともできるんだ。耳元で喋らせることもできるよ」
何それ怖い!
「ただ、その使い方でも消滅する」
「それは使えませんね。消滅する機能をなくせませんか」
「難しいな。機密の重要メッセージを残さない、という意味もあるんだ。疑似生命を維持できる魔力の問題もあるしね」
「この鳥、ぼくがもらっていいですか」
「よした方がいい。情がわくと、いざというときにつらくなるよ。メッセージを送る必要があるとき、君は使うのを迷うだろう。この鳥はそれ以外には使えないよ」
博士は魔法陣を操作してフクロウをしまった。
「ビルザ博士。僕は、心を持っててよかったんでしょうか。ない方が迷わずに素早く行動できることだってあると思います」
「少なくとも私にとっては、ドベリ君はドベリ君でよかったと思うよ」
そうなのかな?





