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第1話 隙あらば弾き語り

挿絵(By みてみん)

バナー作成:ちはやれいめい様

 シャララン……

木の葉が擦れ合うような音が聞こえる。

ここはどこだろう。僕は周りを見た。

暖かい七色の光が僕を包んでいる。綿雲のような光の塊が現れては消える。

光の粒が帯のように集まり、そして柔らかい薄絹のように伸びていく。


 光の帯はヒダのように折れて、オーロラのような光のカーテンになった。

そして、ゆらめきながら辺りを包み込んでいく。

僕の体はゆっくりと浮上して、やがて目が覚めたことを自覚する。


 ここはどこだろう。僕は仰向けになっているようだ。


「知らない天井だ」


 僕は思わず声を出していた。一度言ってみたかったセリフ……かな?


「やぁ。やっと起きてくれたかい。予想より遅かったから、てっきり失敗したかと心配になったよ」


 しっぱい? ……失敗って何だろう?

どんな失敗かはわからないし、不安だよ。

無事なの? 僕。


 僕はベッドに寝かされていたようだ。

身を起こしつつベッドの横を見ると、金髪で眼鏡の女性が立っていた。

暖かそうな厚手の服の上に、お医者さんのような白衣を羽織っている。

その女性は長い金髪に幅広のハチマキみたいのものを巻いている。見かけは二十代かな。

よく見るとこの女性は耳の先がとんがっている。人間ではないのかな。

妖精だとすると、もっと年上かも?


 女性の後ろでは大型犬……いや、ネコなのかクマなのか、よくわからない赤茶色の生き物?が鎮座している。


「ここはどこでしょう。っていうか、僕は…… あれぇ?」


 僕は自分の手を見てびっくりした。なんじゃいこりゃあ!!

両手は木でできた義手のようだ。精巧な人形の手に見える。


 じっと手を見る。確かに木だ。木目の手袋ではない。

薄い茶色の木でできた手。もしかしてサイボーグ?

一般的なサイボーグって、木でできてるのか?


 にぎにぎ… グーパーグーパー。

僕は手を握ったり開いたりした。関節の造形が見事だな。

ダブダブの服を着ているようだが、袖をまくると腕の部分も木でできている?


「キミの名前はクゥズ・ドベリだ。私が造ったゴーレムなのだよ」


「……はい?」


 ゴーレム? 本当かなぁ。うまく思い出せないが、なんとなくこれまで生きてきた記憶はある。

僕は日本人で男の子? あれ? 何歳だっけ? それに、前世の僕はどんなふうに死んだのだろうか。


 例えば暴走トラックが迫ってきて、ひかれそうな猫を助けて身代わりになったか?

それとも…… 怪獣災害で町の人の避難を手伝って、ビル崩壊に巻き込まれた?

それとも…… パソコンゲームの最中にモニター画面を殴って感電死?

いや、死んだとは限らないか。魂だけこっちに来ていて、前の体は眠っているとか。


「僕は異世界からやってきて、ゴーレムに憑依か転生したんですね。どうやれば元の世界に帰れますか?」


「転生なんかしてないよ。キミは私が作ったゴーレムだ。異世界の住民の記憶をコピーさせてもらっただけだよ。コピー元の人物はちゃんと向こうで生きてるよ」


「じゃあ、ここにいる僕はいったい誰なんでしょう?」


「だから、私の助手のゴーレムだよ。ドベリ君」


 むぅ。いや、そんなはずはない。

前世の名前もどんな人生だったか思い出せないけど、僕は確かに……


「私の名はビルザルン・アルーブ。しがない魔道具作りをやっている者だ。ビルザと呼んでくれたまえ」


 なるほど。白衣着てるからお医者さんと思ったけど、科学者の方か。マッドな科学者でないことを祈ろう。


「了解。ビルザ博士」


「博士? そう呼ばれるのは久しぶりだ。さて、ドベリ君。身体の調子はどうだい? 起きて歩くこともできるはずだよ」


 そう言われて僕はベッドから降りた。僕はその女性……ビルザ博士より背が低いようだ。


 軽く足踏みしてみる。両方の腕を交互に上げてみた。

自由に動く、本当にゴーレムか? そういうコスプレなんかじゃないかな?


 周りをみると、部屋の壁に大きな鏡があった。鏡の周囲は(ツタ)みたいな枠組みになっている。いかにも高価な姿見だ。

あれぇ? さっきまでこんな鏡、そこに置いてたっけ。まぁいいや。ゴーレムとかいう自分の姿を……って、あれぇ?


 確かに頭部は木の人形だ。昔、中国の二足歩行ロボットの写真を見たことがあるが、あれよりはマシか。

僕の身体は体形がなんというか、背が低くてずんぐりしている。

昔見たタイムスリップもののアニメを思い出した。三人組の悪役の太っているほうに似ているかも。

……ワイ、人形になってまんねん……


 わかることは、これが本当に今の姿だということだ。

喋ることができるゴーレムっているんだね。

心さえまともなら贅沢はいえないけど…

ヒーローに転生ならともかく、これだとやられ役では?


 僕はなぜか薄水色の清掃員か作業員のような服を着ている。

似合っている気もしなくはないが。


「えーと… ビルザ博士? この服はいったい」


「キミの仕事服だよ。ちゃんと休みの日の私服も作ってくれるはずだから安心したまえ。まぁ私が作るわけではないがね」


 聞いてみるとこの屋敷には僕の他にも人型のゴーレムがいるらしい、服やら食事とかを作ってくれるとか。


 僕はビルザ博士に連れられて、別の部屋に移動する。

犬かネコかわからない謎生物はさっきの部屋に残り、壁際で丸くなっていた。

途中の廊下に小さな窓があり、外が見えた。雪が降っている?

でも寒さを感じないのは僕がゴーレムだからか? ビルザ博士が厚着している理由がこれか。 


 窓の外は雪が積もって銀世界だ。細長くて高い木がいっぱいあって、枝にも雪が乗って真っ白だ。

なんか前世のスキー場を思い出す。


「ドベリ君。キミは窓の外を見てどう思う?」


「すごい雪ですね。でも、寒くなくてよかったです」


「なるほど。キミは雪を知っているんだね」


 ビルザ博士はそういうとニッと笑った。


「実はその窓で見えるのは幻影なんだ。雪景色が映るようにしているが、雪を知らない人には正しく見えないんだよ」


 はい? 僕は窓を見る角度や立ち位置を変えてみた。

木や雪も本物そっくりに見える。これはこれですごい。

微かな違和感も、言われなければ気づかないだろう。

にわかに信じがたいが、博士がこれを作ったのか。

だけど、気になるな。窓の外はどうなっているんだ?

なんだか不思議な感じがするが。


 博士の話では、この屋敷は外界と隔離された特殊な空間にあるそうだ。

さて、しばし歩いて作業場のような部屋に案内された。

部屋の中は、なんとなく前世での友達の家で見たガレージに似ている。

あそこはいろんな珍しい工具があったなぁ。

この部屋も壁に道具らしきものがたくさんぶら下がっていた。


「博士は錬金術師ですか?」


「似たようなものだ。私は魔道具とゴーレムを作るのが仕事だよ」


 僕が転生したのは剣と魔法のファンタジー小説みたいな世界のようだ。

博士によると、ゴブリンとかトロールといったモンスターがいて、それらと戦う戦士とか魔法使いもいるそうだ。

で、その人たちが使う武器や道具を博士が作っているらしい。


 ただし、博士が作る『作品』はお店に並ぶものではなく、戦士とか冒険者とかに直接配ることはしないそうだ。

こことは違う複数の異世界をつなぐ場所で、『トゥギャザー』と呼ばれる会合が不定期に開かれるらしい。

そこでにたくさんの世界の神々やその代行者の集まるとのことだ。


 会合のなかで作品の品評会のようなものもあって、ある程度評価の得たものが『神具』として認定されるんだって。

選ばれた神具は色々な異世界で神殿に送られたり、ダンジョンの中の宝箱に収められたりするらしい。

その世界の鍛冶屋や錬金術師に『夢のお告げ』などで製法を伝えることもあるとか。

で、運よく神具を入手できた冒険者やら勇者とかが、それを使って活躍するわけだ。

なるほど、神様からもらう武器か…… 魔法の剣とかかな?


 ビルザ博士は小さな丸テーブルの上で手をかざした。作業机にしては高級そうだな……


「魔道具の実物を見てもらった方が理解しやすいだろう」


 博士の手が淡く輝き、空中に光輪が現れる。

光の輪の中に文字なのか記号なのかよくわからない線が描かれる。

これってもしかして魔法陣とかいうやつかな。円形の迷路かアミダくじのようにも見えるな。

光の輪から長い木の棒のようなものが出てきて、テーブルに置かれた。

ボートを漕ぐときのオールかな? いや、これは……


「博士。これってスコップですか?」


「これでも立派な武器だよ。ドベリ君。(すき)という農具に刃をつけたものだ。名付けて『スピラ・スパーダ』だ。短槍として使うことも、斬りつけることも可能だ。もちろん、戦闘時以外は農具としても使えるのだよ」


「……これがですか……」


 僕はまじまじとその農具を見た。

前世でよく見る土木作業のスコップとは違って、土をすくう部分も平たい板でできている。

金属の刃は土をすくうところの先端と両側についている。

土を深く掘るより、畑を耕すのにむいていると思う。

僕は、自分がこれを持って戦う姿を想像してみた。百姓一揆?


「槍なら槍。剣なら剣の形のままの方が使いやすいと思いますよ。農具の形にする意味がわからないです」


 強いていうと、畑仕事をしている人の護身用か?

村に野良モンスターが出たときなんかは使えるかも。


 ビルザ博士はフッと笑った。


「もちろん、この形にしたのはちゃんと意味があるんだよ。こう使うのさ」


 博士はその農具の柄を左手で持ち、土をすくう個所がお腹の前に来るように構えた。

その上に右手を添える。なんか、ギターを構えているような……って、まさか!


 …ポロン♪… …ポポロン♪…


 博士が右手がつま弾くような動きをみせると、それに合わせて音がでた。

弦もついてないのに。まさしくエアギターだ。


「ダメだよ。こりゃダメだよっ」


 僕は思わずツッコミを入れていた。


「意味がわからないです。これって武器になるんですか」


「その通り。これは冒険者達が使う場合は後衛用だ。演奏する音楽に応じて、仲間の能力が上がったり、回復力を高めたりできるんだ。弦楽器が得意な者が使うと、特に効果が高まるのだよ」


 博士の手の動きが速くなり、調子のよい曲になった。


「使い手が頭の中で音楽を想像すると、この鋤がそれを再現してくれるのさ。さらに言うと、他の楽器の演奏を聴かせることで鋤の能力を強化できるんだよ。使い手の演奏能力によっても効果に差が出るんだよ」


 言われてみれば、音楽で仲間を支援するのは、ファンタジーとしてはありかも。

でも農具を使う意味がわかんない。

ギターを持った渡り鳥みたいな風来坊ならかっこいいけど、農具だとねぇ……


「ビルザ博士。音楽で支援するのはいいとして、その音楽は敵にも聞こえるんですよね。敵が音楽好きだったりすると、敵の方が強くなったりしませんか?」


「するどい指摘だね。ドベリ君。冒険者の中ではそういう事例も確かにあったらしいよ。だから、使用者が意識すれば仲間にだけ聴こえて敵には聞こえないようにもできるんだ。ただし、敵にだけ聞かせて味方には聞こえないという使い方はできない」


「それができるなら、初めから敵に聞かせる必要はないような……」


「誰でも簡単にできるわけではないが、神を讃える曲をうまく演奏できれば、死霊等を除霊することもできたらしい」


「きけば力が抜けるとか、精神的ダメージが入るような音楽は味方に被害がでるんですね。もしかして、音楽を使って敵をおとなしくさせることもできるのでしょうか」


「対象によっては可能だ。とはいえ、実際にその使い方をするのは少数派のようだな。味方の闘争心も減って、おとなしくなった敵を倒すのに抵抗がでたらしい」


「なるほど。倫理的にはよくても冒険者としては仕事にならないかも。でも、やっぱり農具を武器や楽器にするのは常識的にどうかと……」


「常識と思っていることが、常に常識とはかぎらないんだよ。さ、キミもぜひ試してくれたまえ。私が作った神具をね」


 博士はディアなんとかという農具を僕に差し出してきた。

僕は受け取って、ギターみたいに構えてみた。

前世で友人がギターを使ってて、触らせてもらったことがある。

弾き方を軽く教わったけど、すぐに指が痛くなったな。

でも、この農具だと指が痛くないし、弦の調整もいらないのか。

音楽プレーヤーと考えれば、これはこれですごいかもしれない。


 僕は特撮ヒーローソングを心の中で歌いながら、この『楽器』をつま弾いた。

ビルザ博士にとっても珍しい音楽なのだろう。楽しそうに聴いてくれている。


「ドベリ君、なかなかいい曲じゃないか。それ歌声もなかなかだよ」


 ……おっと、いつの間にか声に出ていたか? 

前世は日本人だった僕が、これからは異世界でゴーレムとして生きていくのか。

まぁ、第二の人生、何とかなるかな? そう思いながら僕は演奏を続けた。

なろうでは初投稿です。ほとんどの人は「初めまして」だと思います。

(「お久しぶり」の方もいらっしゃいますか)

十数話の短期連載のつもりで書いています。


なお、お話のプロットはかなり前に作ったものです。

ゴーレム君の前世の記憶?は一昔前と思ってください。

ネタが古すぎる他、液晶ディスプレイだと殴っても感電死しないと思う。


このお話は各話にちょっとした仕掛けがしこまれています。

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