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最弱種族ヴァンピールとして転生した男は妹を探す  作者: 玉子
第一章『異世界』
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第一章 7.『魔法』



──事はシグレが錬金魔鉱石を腹に埋め込まれた直後まで遡る


 鋭い岩の槍に串刺しにされたシャウザール、地面に仰向けで倒れるミッチェル、そして極度の痛みで意識が飛んだシグレ。順番に見渡しながら、

 鎧を身につけた仮面の男は顎を触れ──仮面を外した。その男は40代半ばであり、仮面を取った瞬間、なんと髪色が変化した。

 その仮面は髪の色を変える魔道具だったのだ。そして晒されたものは、所々白髪が見えるが、立派な黒髪だ。


 その顔には額から左目、左頬にまで……まるで狼に抉られたような3本の傷を残している。

 そのため片方の眼球は機能していないらしく、薄目から除く中身は白く濁っていた。“顔に3本の傷を持った男”は、すぐに立ち去るはずだったが、

 仮面を外していながらも表情が読みとれない面影で、シグレを暫く眺めていた。

 そして、男の右手が気を失っているシグレの肩に触れようとする。──直後


「おい、あんたがもう立ち去るって言ったんだろう。早く魔邪国グロータスに戻ろう」


 男は一瞬だけハッとした顔になり、仮面を付けた直した。たちまち根元から輝かしい金髪になり、鎧と重なり見栄えが良くなる。


「……あぁ、行くか。ルギウス」


 地響きと錯覚しそうな重苦しい声で答えるが、不機嫌かどうかは本人しかわからない。怒っている時は怒ってると言う、とは本人の言葉だ。

 ルギウスはあまり気にしないことにし、これ以上の犠牲が出ないことに内心安堵していた。


──その様子を静かに木の影から見張るものが1人。レインだ。


 レインは万が一に赤毛の男が覚醒しても大丈夫なよう辺りにある草木で簡単に縛り(と言っても螺旋状にしたとても頑丈なものだが)すぐに駆けつけたのだが、

 シャウザール達が殺されていないことを確認するや否や得意の隠密魔法で身を隠し、一部始終を覗いていた。男の顔は見たが、ガレオンにいた(・・・・・・・)魔法使いではない(・・・・・・・・)ことはすぐに分かった。

 ……ただ、この顔を知っているような気がして


「昔のことかしらね……」


 意味ありげにそう呟き、ルギウスらが完全にその場を去ることを確認すると、命が危ないシャウザール達をものすごい力で一気に担ぎあげた。

 それも片腕で、だ。下の方からシャウザール、シグレ、ミッチェルという動きやすさを究極化した完全な大中小形態であるその光景は少々間抜けであるが、

 レインは気にせずある一点を見つめ、昔のことでも思い出したのか……悔しそうな顔をしていた。



──────────



 今現在、シグレ達は魔法の訓練という国のイベントへ徒歩で王城の庭に向かっている。リリスの実家の時もそうだったが、この国は本当に狭いのだなと再認識させられる。

 途中、リリスが魚屋らしきおばちゃんや、精肉店のおっちゃんに「おや、リリスじゃないか! 大きくなったねぇ」と、声をかけられたほどだ。相変わらずシグレは蚊帳の外だったが。


「で? 魔法の訓練なんて何するんだ?」


「ただ訓練するだけじゃ国民が集まらないから、大会形式にするみたい」


 国民なら誰でも参加できるというが、それだととんでもない人数にならないだろうか。


「元々の企画としては、国の武力向上のために騎士団のみで行われるはずだったんだけど、どうせするなら規模が大きい方がモチベーションも高まるんじゃないかって。国王が」


「大分ぶっとんでんな……国王も」


「若いからね」


「いくつなんだ?」


「21歳」


「いや若すぎるだろ……」


 今からそんなものに参加する訳だが、もちろんリリスと俺はシャウザールのおっさんに許可は頂いている。

「えっシグレ君、参加するの? 私も行きたい!!」と子供のような発言は、傷だらけのシャウザールの発したものだ。


 まだ全身包帯ぐるぐる巻きで、完治していないので流石に自制してもらったが、止めていなければ本当に参加するつもりだと伺えるほどの勢いだった。

 そしてレインには無傷に近い状態だったので勧めたのだが、「いざと言う時にいつでも動けるようにしたいわ」

 との事だ。それもそうである。シャウザールの方がおかしいのだ。

 ……リーダーがどちらか、本当に疑わしくなる。ただ、シグレを見るその瞳にはまたしても何かを隠している様な印象を与えていたのはやはり懐疑的であったが


「………………」


「………………」


──静かだ。


 歩きながらでの会話のネタは、接点の少ないふたりには特になく、静かな事が苦手なシグレは簡単な話題を探すことにした。


「気になったんだけど、リリスって恋人いんの?」


 こちらに眉を寄せ、怪訝な雰囲気を醸し出すリリス。


「……なんでその話題にしたのか意味が分からないのですが。シグレ様の脳には何も詰まってないんですか?」


「あぁ、俺は馬鹿だぜ? ……それにしても辛辣だな。その辛口はどっから出てくるんだ? まさか甘い物を食べた事ないとか?」


「頭がお花畑という事がわかりましたね。甘い物は大好きですよ」


「見えねぇなぁ。ケーキとか食いながら無言でゴミ箱に吐き出しそうなのに」


「失敬な……あ、ほら、あれがバルカン城です」


リリスはそういい、目の前を指す。


 指の先には威風堂々とした城が無機質ながら異様な空気を放っていた。



「す、すげぇ。これが王城か……でけぇ」


 それが、知隣国バルカン城を初めて目にしたシグレの感想だった


 見張り台の機能がある塔が正方形の形で囲い4つあり、1面の城壁にパラスとよばれる、いわゆる中の住人などが生活をする場所がくっついている。

 そして目前に見えるのは高さ10m程の大きな開門した扉だ。恐らくここを通れば王城の庭というものにたどり着くのだろう。

 それにしても巨大だ。もし、敵として攻めようと考えたとして、その巨大さに威圧されるばかりで動けないだろうことを伺わせる。


 ゴクリ、と喉を鳴らしまるで城を敵のように凝視す。そんなシグレをよそに、リリスはスタスタと歩いていった。

 置いていかれないよう小走りでついて行き、扉の前についた。


 すると、艶のある黒髪をポニーテールにし、純白の上下に輝く金の装飾という完全に王子様スタイルの女性が、切れ長の目と鼻を顔に揃え、なにやら城の入口で用紙を配っていた。

 当然だがシグレ達にも例外ではなく、近づくと用紙と高そうな羽根ペンを渡された。


「君もこのイベントに参加するんやんな? せやったら、ここに名前と年齢を記入してな」


(異世界に来て、まさかの関西弁かよ!?)


「あ、受付はマチルダさんが担当してるんですか? 大変ですね……今日は頑張りましょう」


「せやなぁ、リリスも頑張ろうな? 今日は魔力使うでー」


 肩を回しながらマチルダと呼ばれる女性は切れ長の目を輝かし、張り切っていた。

 顔見知りなのだろうか。そういや、リリスは元々王城で働いていたというらしい。となれば仕事仲間、シグレが挟む余地は無さそうだ。

 そう思っていると、リリスが門の中へと先を行き、振り向いた直後からかうように言った


「では、あたしはお手本役を務めさせていただく身ですのでここから分かれますが、せいぜい初級魔法くらいは使えるようになって下さいね。──二度と皮膚がただれないように」


「うっ……」


 息をするようにトラウマを掘り起こすリリスに、若干苦手意識が芽生えかけるシグレだった。


「ほんならリリスは行っちゃったし、これ書いてくれる?」


 言われた通り、先程渡された用紙に名前と年齢を書く。やはりペンはもちろん、用紙の質もなかなかに良さそうだった。

 仕事柄用紙に触れる事が非常に多いためわかる事であったが、マチルダの関心は別のところにあった。


「あれ? この文字……もしかして異世界人やった?」


 しまった、と思うシグレ。文字に触れる機会が無く、無意識に日本語で書いてしまったが、どうやらこれでは伝わらないらしい。

 しかし何故、シグレがこの世界の人間ではないと気づいたのだろうか。通常、意味のわからない文字を見ても怪訝に思うだけではなかろうか。


「あぁ、ウチの先祖さんが異世界やからね。ウチの名前、マチルダ・トール・オーサカって言うんやけど、どや? 異世界人っぽくない?」


 フルネームを聞いたところで特に感じるところはない。──否


「オーサカ? 関西弁の所以はそこにあったのか……まんまじゃねぇか」


 確かに納得の行く答えであったが、先祖……大阪さんはどれほど昔に生きていた住人なのだろうか。異世界色に染まりすぎているフルネームにはやはり違和感がぬぐえない。

 そしてマチルダは、せやろ? と言いながら、シグレが記入した用紙を眺める


「この訛りはオカンの贈り物やから、大事にしてんねん。にしても、これじゃ文字がわからんなぁ。リリスの友達やし、用紙はええから名前と年齢言うだけで勘弁したるわ」


ありがたい、と思うがシグレの実年齢は25歳。この成りでは信じて貰えないだろう


(偽るか……?)


 嘯くか否か、考える仕草をするシグレになにやら誤解したのか、マチルダが気を使ってくれた


「あぁ、心配せんでええよ? 年齢制限は設けてへんし、異世界人が差別される風潮とかそんなんないから。それに、何か言われたらウチに言ったらええ。どついたるから」


「あ、あはは……山崎時雨って言います。いや、シグレ・ヤマザキだな。年齢は……12歳、です」


 結局、虚言を吐くことにしたシグレだが、気を利かしてくれようとしたマチルダに罪悪感を覚えないでもないが、無駄なやり取りをするくらいなら偽る方が気を揉むことは無いだろう。


「ん、シグレ君。ウチも教える側やから、あたった時はよろしくな?」


 首を傾け笑顔になるマチルダは、まるで宝塚の王子役のような爽やかイケメンと呼ぶにふさわしい風貌だった。



──────────



 城内へ入ってみると、辺り一体更地のような特に何も無い広場で、外から見る想像よりは狭かった。

 と言っても東京ドームほどなので狭く感じる訳では無いのだが、やはり城壁の威圧感のせいだろう。


 そんな場所にはおよそ100人ほどの人数が集まっており、その中には黒、茶、金の髪色が多く、緑に近い色の人間も多々見かけた。

 この国には兵団以外の魔族はいないようで、人族の純粋な髪色の多さに少々圧倒された。


 しかし、ここに入る際マチルダからもうすぐ始まると聞かされていたのだが、開催はまだだろうか。

 そんなことを考えていると、パラスからはみ出たルーフバルコニーからなにやら人影が現れた。

 その人物が誰なのか、それはシグレを含めた全員が佇んでいる方向を見上げ、気づいてすぐだった。何故なら、誰もを魅力される美声でこちらに呼びかけてきたからだ。


「集まっていただき感謝する!! 私はこの国の王グリモン・トール・バルカン!! これより……国存続のための魔法大会を開催する!!」


「「オォォォォォォォォォォォォ!!!!」」


 大勢の国民たちが歓声に近いものを上げ、あわててシグレは耳を塞ぐ


 ハリのある肌に自身の満ち溢れた男だ。身長は凡そ180cm前後の長身であることが因果なのか全体た的にスラッとした印象を受ける。

 身につけるものはマチルダの物より金の装飾が多く、緑色の髪が異質さと優雅さを引き立たせていた。


 そしてなんと言っても……枯れた花が復活しそうな程の甘い美声だ。これがカリスマ性というやつなのだろうか。

 この男の言うことならなんでも聞いてしまいそうである。──そして、先にリリスから聞いていたが、やはり若い。

 何故こんなにも若い者が国王なのかはわからないが、根拠は無いが存続できる力を持っているのだろうと思わせる。そんな王だった。


 そのまま、グリモンはその甘いマスクを晒しながら少し間をあけ、続けた。


「たった今から魔法大会の流れとルールを説明する!! よく聞いてくれ!!」


 明言した通り、国王グリモンは一連の流れを説明した



大会は加点式である。


 まず、魔法を使ったことの無い人が多いため10人のグループに別れ、それぞれに1人の教師が配属される。

 その教師に基礎から魔法の説明を受け、実践を行う。まずは専用の魔道具で得意な属性魔法を3つ調べ、その属性の初級魔法を取得で5点


任意で中級魔法を取得で10点


 その後、集まった各々のチームで魔法の精度を競い合い、互いの教師役が判断し勝ったチームに

10点


 最後に、トーナメント個人戦……実戦ではなく、より精度の高い初級魔法を顕現させた方が勝ちだ。

 対戦相手は抽選でランダムに決められ、1度勝つ事に5点となる。


 細かいルールは教師役がその場で解説する手筈になっている。


これで以上だ。


「やっぱりグリモン王は素晴らしい方だ」


「任意で国民に力を付けてくれる国なんて……バルカンだけでしょうね!」


 国王の説明を聞き終わると、様々な声が飛び交うが、1人、その国王の説明に対し疑問を抱く少年がいた。


「すいませーん!! 点数を1番多く取った人にはどんな賞品があるんですかー!!」


 シグレが叫んだ途端、およそ100人もの視線がこちらに向いく。当然ではあるが、少し萎縮してしまう。

 すると、国王グリモンがこれまた美声で返答した


「あぁ、すまん!! 忘れてた!!」


(……大丈夫かよ、国王さん)


 だが、そもそもこの大会の真の目的は、国民全体的な武力の向上にある。それに商品を欲するなど少々傲慢かもしれない。

 そう思うのも束の間、即座に頭の回転を巡らせた国王は「決めた」と前置きをした後、ある提案をした。


「1位になった者には…………王宮図書を好きに読める権利を与える!!」


 周りが一気にざわめいた。民たちは互いに顔を見合わる


「「オォォォォォォォォォォォォ!!!!」」


 そして民達はまたしても本能的に萎縮してしまうほどの野太い声を上げる。

 それは拳を固め腕を挙げるもの、目を見開くもの、口を押え絶句しているもの、反応はそれぞれだが、国王の発言には全員が興奮と期待が寄せられているものだと誰もが察せるだろう。

 しかしまたしても、釈然としない表情を固める者がいた──黒髪の少年、シグレだ


「………………」


 王宮図書とは何なのだろうか。それに皆が興奮している理由もわからない。

 だがしかし、本来の目的は魔法を使えるようにな(・・・・・・・・・・)()という事だ。

 優勝出来たらラッキー、そのくらいに捉えておこう。そんな楽観的な事を考えるシグレだった。



──────────



「…………」


「であるからして──」


「…………」


「それで魔力が──」


「もうその説明いらなくねぇか?」


「しばいたろか。少年」


 訛りの効いた口調で関西弁のねーちゃん──マチルダ・トール・オーサカは、退屈そうな少年シグレに怒りを顕にしていた。

 シグレ含む10人のグループに集まり魔法の知識を教わっているのだが、なんせシグレは二度目なのだ。しかも教える工程まで同じと来た。

 退屈しない方が不思議である。


 そう1人頷いていると、すごい剣幕でつるっぱげの男がシグレに迫ってきた。


「君はもう知っているかもしれないが、僕達は魔法について触れたこともないんだ。それにこの方を知っていて言っているのか? 国王様の側近だぞ? まだ幼いからそういう所はわからんのかもしらんが──」


「あ、はいすいません」


 ここは素早く謝るのが吉。そう判断し、欠伸を挟みながらもシグレは真面目に聞くことにした。

 マチルダ先生の講義は、やはりリリスから授かった知識と同じだった。──しかし


「で、ウチはこうも思ってる。──魔法はやろうと思えばなんでも出来る」


(おや……?)


「例えば大昔の人族でこんな奴がおった。水もない食料もない、あるのは視線の先まで見える砂だけ。せやからその人族はなんとか生き延びようと、枯渇しかけた魔力を体全身で振り絞り水と雷の魔法を合わせ、なんと大雨を振らせることがに成功した。融合(・・)ってやつやな。ウチはいつか、この奇跡の原理を紐解こうって考えてる」


 両方の人差し指と親指で宙をつまみまるで目に見えない糸を解く仕草をするマチルダに慢心顔でシグレは答えた


「要約すると、結局は自分の気持ち次第という事か? その男は強く生きたいと願い、見事奇跡を起こし生き延びたって訳だろ?」


 魔法とは、やろうと思えば何でも出来る。これは覚えておいていいかもしれない。

 しかしシグレが真剣に耳を傾けた矢先、マチルダはとんでもない事を言い出した。


「いや、死んだ。あっけなくね」


「……どういう教訓なんだそれ!?」


「強いていえば、魔力は絞り出すものではないっちゅう教訓やね。確かにそいつはほんのちょびっとだけは生き延びれてたんやけど、カラダのなかの魔力が無になった途端に血管が破裂して、死んでもうた」


 魔力というものは血や骨と同じものである、とマチルダは続けた。


「言うならば、自分で減らすことの出来る命や。それを削りまくったら死ぬんは道理。せやろ? ……せやけど、融合魔法っちゅうもんはそういう時にか答えてくれへん。でも、いつかウチはなんでも出来る(・・・・・・・)この力で、この国を護りたいと思うとる。素敵やろ?」


 形のいい歯を見せ、子供のように笑うマチルダの姿は、やはりカッコよくて、そして羨まかった。


──彼女には、護るものがそばにあるからだ


「あ、はなし逸れたわ。今から初級魔法の取得に移るからその前にそれぞれの適正属性を調べさせてもらうな?」


 そういいポケットから取り出したのは水晶を小さくしたもの、ちょうどビー玉にそっくりの代物だ。

 それに目を当て、透かせて左から順番に見ていく。そして、最後にシグレを確認し、なんだか曇る表情をした。


(これはまさか……見たことない属性魔法が見えたりしたとか!?)


 そう思うのも束の間、集まった10人に淡々と3種類の属性魔法を伝えていくマチルダ。

 最後はシグレの番だ。まるで本当に子供のように目をキラキラさせながらマチルダの言葉を待つ。


「シグレ。あんたに合う属性は、無い」


「……は? なんつった?」


「シグレ。あんたに合う属性は、無い」


「聞き取れなかったんじゃねぇよ!?」


 口調、間までも同じ言い方をするマチルダ。無い、というマチルダの顔はなんとも言えない表情で今もよく理解していない様子だ。

 しかし、先程まで他の人達には普通に伝えていたではないか。それとも、シグレには実は魔法の力が強すぎてそのビー玉には査定できない程強力な魔力が備わっているとかだろうか。


「ないわそんなんもん。それにこれはビーダマとちゃう。質の良い魔鉱石をまるまる使った希少であり確実な魔道具や。嘘なんてつくかいな」


 ただ、考えるとすれば……とマチルダはシグレと魔道具を見比べるように視線を落とす


「精霊達にめっちゃ嫌われてるか、これはあんま考えられへんけどシグレが精霊王の禁忌に触れる魔法を使用したか、やな」


「でも、発動はしたんだよなぁ……」


「え、何? 魔法使ったことあるん?」


「あぁ、『無感情(ノマ・ショナル)』と『火種(イア・イード)』だけな。前者は感情が昂って大暴れして、後者は右腕焼き爛れたけど」


「余計に意味わからんやん……」


 得意な属性は無いとなると、どうすればいいだろうか。


「……とりあえず、自分が使いたいやつでええよ。ほら、他のグループに遅れてるからはよ決めて」


 少々雑になってくるマチルダに文句を垂れたい気持ちになるが、堪える。とりあえず、錬金魔鉱石を破壊するための陰属性は確定だ。


 あとは、なるべく取得が容易そうであり、尚且つ安全なものがいいだろう。魔法の知識を授かったとはいえ齧った程度だ。

 せっかく目の前に教師がいるのだから、シグレは聞くことにする。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥、だ。


「簡単で安全なやつ? (ノマ)系やな」


「断固拒否します」


 無属性魔法はこの世界で初めて使ったと同時に、最大の失敗に終わった魔法でもあるのだ。


「もうええから、2種類でええやろ? じゃ、全種類の初級魔法教えるから皆聞いといてな」


 流されてしまった。非常に遺憾だ。皆の顔を伺ってみると、全員が揃って今にも怒鳴り出しそうな雰囲気を出しているので、決して口には出来ないが。


「初めに、ほぼ全員に適性があった(オタ)系から行こか。ない人は手本として周りの人の見といて。絶対に1人で使わんように」


 言われた通り、ひたすら傍観をするシグレ。それぞれ成功する姿を見るのはやはり退屈だった。

 次は(イア)系、次は(オン)系、と次々と皆が取得していき、難色を示す人にはコツを教える。

 それをただひたすらに、傍観していた。


10分ほど経ち、やっとこちらに向いた。


「で、最後にシグレ。陰属性と無属性はあんただけやけど、飛ばしてもいい?」


「なんでだよ? やだよ」


「チッ」


 今舌打ちが聞こえたような気がするが、気がするだけだと自分に言い聞かせる事にした。

 教えて貰う立場は偉そうにしては行けない。不服だが今は我慢だ。


(とかいいながら永遠に我慢してそうだな、俺)


 が、シグレは様々なパワハラや理不尽に耐えてきた元スーパーサラリーマンだ。気持ちを抑えるのは慣れている。

 面倒そうにしながらも、マチルダは教えてくれた。案外姉御肌なのかもしれない。


「手本見せるからちゃんと見といてな? まずは(アド)系や。自分の影を動かす魔法……『陰影(アド・クライ)』」


 唱えた途端、マチルダの影がみるみる浮かび上がっ(・・・・・・)てきた(・・・)。影を動かす、とは地面に写される影を自在に動かすものではなく、分身を作り出すものらしい。

 しかし、色はなく、黒に染ったものであり、触れることも出来ないので実用性はないという。

 マチルダの影は表情の読めない顔で立っていると、すぐに本体の陰に戻って行った。


そして、シグレも少々緊張しながら唱えることにした。


「……『陰影(アド・クライ)』」


 己の影を見つめ、力んでも影は出現しない。魔力操作が大事、と言っただろうか。

 アニメなどではよく血の流れと同じような感覚が巡る、などと言うが、およそそれと呼べる感覚は皆無に等しい。


 冷や汗が額に垂らしながら、少し考える。感じ取れない魔力を集中させるより、自分の影が浮び上がるビジョンを想像する方が現実的ではないだろうか? と。


(影……自分の、影が浮び上がる)


 暗示するように頭の中で浮び上がるイメージする。すると、身体の中の何か、敢えて言うなら精神力、もしか魂の1部を持っていかれるような気色の悪い感覚を受け、嘔吐感に襲われる。


 瞬間、影の色が深く染まったかと思うと……シグレの影から、ニョキニョキとシグレと同じシルエットが浮かび上がる。


「お……おぉ!! 成功か!?」


 両手を空に掲げ、初めて完璧に取得した喜びを最大限に表すと、シグレのカゲも顔は無いが嬉しそうにぴょんぴょん跳ねた。


「すげぇ!! こいつ跳ねてる! あははは!!」


 周りにいる大人たちも、子供が年相応にはしゃぐ姿は微笑ましいようで、優しい拍手を送ってくれている。

 しかし、影とハイタッチをするシグレに、信じられないものでも見たようにマチルダが冷や汗を流しながら焦っていた


「ちょ、ちょっと待って!! それどうやって動かしてるんや……? しかもこれ、実体やん!!」


「え、動かす? こいつ勝手に動いてんぞ? 成功出来てよかったぜ!!」


「……んなアホな! 『陰影(アド・クライ)』は初級の初級や! 自分と同じ形の影を浮かび上がらせるだけで、勝手に動くもんとちゃうし触れるもんでもないわ!」


 つまり、これは成功ではないということだ。

しかし影を動かすと言っていたので根本的には成功していると言える。言葉の綾など知らない。


「はぁ、なんか疲れるわぁ」


 弱音とも取れる発言をするマチルダ。腰に手を当て俯くマチルダを見て、ドヤ顔のシグレとは反対に、カゲは心配そうにあたふたしている。

 そんな自分の影を横目で見ながら、シグレはふと、疑問を口にした。


「で、これはどうやって戻せるんだ?」


「……え?」


「……え?」


 シグレが口にしたあと、数秒の沈黙があった。しかし、それは戻らないのではないかなどの懸念ではなく、ご飯はどうしたら食べれるのですかと聞かれるような、当たり前すぎて口を噤んでしまったと言うだけだ。


「魔力操作を断ち切ればええだけや」


 そして、時間差はあるが当然のように答えるマチルダ。だが、理由は分からないが魔力操作以前に魔力を感じることも出来ないのだ。


 そこでシグレはやはり、魔力を感じ取ろうと努力することをやめ、カゲがシグレの影の中に戻るイメージをすることにした。

 ──すると、カゲの足が沼にハマるように沈み出した。魔力など感じる必要はなかったのだ。


「コツさえ掴めば魔法なんてラクチンだな……ぅ!?」


 そう漏らした瞬間、影がシグレの顔面目掛けて思いっきり殴っていた。



──────────



 冷たい床、無機質な壁、そして3cmほどの太さを持つ無数の柱。牢獄とも呼べるそれの中にいるのは赤い髪の毛をぼさぼさにさせる青年がいた。

 決して体格のいいほうでは無い青年の両手にはやはり厳つい手錠が掛けられており、ハンマーで叩いてもビクともしないだろうという枷。

 それをあっけなく、腕をまるで水蒸気のように透けてさせ、そこから抜け出した。そして復讐のような憎悪を染み込ませながら言った


「……もう待てない。あなたを殺されたんですから、あいつらも殺したっていいですよね。そうだよね? ユエルダ。いや、──母さん」


 暗黒の龍兵団……否、知隣国バルカンの危機とも呼べる脅威がここに迫っていた





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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後に今後の騒動を匂わせる描写を持ってくる。 いつもながら締め方が上手い! 自分も見習いたいです。
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