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最弱種族ヴァンピールとして転生した男は妹を探す  作者: 玉子
第一章『異世界』
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第一章 6.『仲間』



──知隣国バルカン



 それはこの世界において1番小さな国として有名だ。しかし、この土地の狭いバルカンは特段裕福でもなく武力も皆無に等しい。

 では何故、そんな国が存続していられるのか。



 魔道具(・・・)の存在だ。



 この小さな小さな国の中には、小さいから故に生活をより便利にしようと躍起になる研究員が昔から少なくないのだ。

 そしてその研究員達によって新たに生み出されていくのが魔道具だ。それが他国の市場にも流れ、金が回り込みなんとか保っているという訳だ。


 しかし今の時代、武力が無ければ他国や戦闘部族から攻められた時木っ端微塵になるのは目に見えている。

 そこで国王グリモン・トール・バルカンは、バルカン地点としての拠点を与えるのと引き換えに暗黒の龍兵団に、いざと言うときは護る、というような盟約を交わしたのだ。


 幼い頃からグリモンは奴隷制度に疑問を持ち、知隣国バルカンにおいて奴隷制度を廃止した先駆者ということで偶然に互いの目的が一致し、

 それもあってなんとか武力の一旦を手に入れたのであるが……


 王宮会議中の今、グリモンは早速煌びやかな緑の髪をくしゃくしゃにし、頭を悩ませていた。


 代々、国王の側近として国を支えてきた一族の女性──マチルダ・トール・オーサカが朝からずっとうるさいのだ。


「だから!! 武力がないのが悪いんとちゃう、それを国が育ててきた騎士やなくて、ほかの、赤の他人に武力面ぜーんぶ任せんのがおかしいって言うとるんですよ!!」


 この独特すぎる喋り方であるこのオーサカ一族特有の訛りと、美しい切れ長の目で睨まれるとその剣幕で今もうんうんと頷いてしまいそうになるのだが、その策というものが問題なのである


「バルカン騎士団を積極的に魔物狩りへと出発させる、か」


 しかし、そうは言っても彼らは人族となんら変わらない。そもそも人族とは違うという前提条件が付いた魔物(・・)という呼び方がおかしい。そしてグリモンは続ける


「はぁ、今朝も言った気がするが……魔族(・・)を狩ったところで唐突に騎士団のレベルが上がる訳では無いし、例え上昇したとしても、その魔族達には僕達と同じ家族がいる。

 恋人もいるかもしれん。そんな非人道的な事を働いたと知れれば、半数程の国民からも信用を大きく失うだろう」


「なんでやねん!! グリモっち、あんたはいっつもそうや!! ええもん。今にこの国も痛い目に会ったらええねん!! ばーかばーか!!」


「グリモっちって言うな」


 敬語も忘れるマチルダはそう言われた途端、会議中であるにも関わらず大きな扉をバンと開き出ていってしまった。


 同じ年で、幼少期から唯一の遊び相手であったマチルダとは友達のようなものだが、国王になった今でも愛称で呼ばれることがある。


 国王、それは困っちゃう。


「…………」


「ご、ごほん」


 グリモンは視線を感じる。そう、ここに居るのはマチルダとグリモンだけでは無い。

 知隣国バルカン最高峰の権力者、王国関係者が集まるこの会議で、マチルダは言ってしまったのだ。何とか話題を戻さないと


「……マチルダの武力うんぬんの言及について、誰が思うことはあるか?」


 すると、無精髭が似合う白の研究服を纏った30代の男が、顔を(しか)めつつ意見を放った


「国王様の側近についてはちょびっとだけ話したいことがあありますが……ごほん、とりあえず、国本来の力不足については否めない現状。おれはなにか策を考えるべきだと思います」


 研究者代表マルキネス・ドーラ

この知隣国バルカンにおいて、最も精密な魔道具を創造し続ける男だ。

 そしてその男の言うことは事実である。即戦力がなければ、強者にねじ伏せられるのは明らかだ。


 そも、マルキネスの前で思うのも不躾だが、魔道具でなんとか成り立ってしまっているのが良くないのだ。


「にしても、国本来の強さ、か。バルカン騎士団について、特に魔法の訓練くらいは考え直さないと行けないな」


 バルカン騎士団は、国が成立した当初から配属される親衛隊のようなものだ。

 しかし長い歴史の間戦いを避けてきた武力は知れていて魔法はもちろん剣術さえ国王であるグリモンと同等かそれより劣るかもしれないのだ。


 それは幼い頃に父の勧めでとある国の剣術の師範に直接鍛錬し続けられた結果なのだが、国全体の武力が上がる訳では無い。マルキネスの言う通りなにか策をねらなければならないだろう。

 さもなくば、知隣国バルカンは恐らくお先真っ暗だ。


「……せめて、魔法のノウハウを学べる場を設ければいいのだが、な」


 知隣国バルカンの国王は、今日も頭を悩ませるばかりであった。




──────────




原っぱ以外には何も無い庭で、なにやら怪しい男女のふたり組がコントを繰り広げていた。


「こうか?」


「違います」


「じゃあ、こうか?」


「違いますってば」


「……こうだろ?」


「違うって言ってるじゃないですか!」



「じゃあどうしろってんだよ!!」



……たった今シグレは、リリスに教わった通りに手のひらを空に向け、魔力を集めさせている。 はずだ。


 リリスいわく、基本中の基本中の基本である、『魔力操作』をしているのだが、早速挫折しそうである。



「何度も言いますが、魔力を身体の中で感じて、手のひらに集めるんです。こうです」


「何度も言うが、魔力なんて感じ取れねぇから、手のひらに集めるもクソもねぇんだよ。こうか?」


「違います」


…………。



「……魔法ってのは詠唱したら勝手に応じてくれるもんなんだろ? 実際、無属性魔法とやらは発動してくれたし」


「いや大失敗だったじゃないですか……」


無感情(ノマ・ショナル)』は、唱えただけで発動はしたのだ。


「それは形のない、いわゆる強化魔法だからです。例えば火属性の初級魔法『火種(イア・イード)』とかだと顕現するにも想像力だけじゃ不可能です。ほら、こんな感じで。……『火種(イア・イード)』」


 すると、彼女の手のひらから小さな炎がメラメラと火球が出現する。


「おぉ……『火種(イア・イード)』」


つられてシグレも唱える。


……腕全体が見事に燃え上がった


「……っ!! アッチぃぃぃい!!」


やばいやばいやばいやばい

熱い熱いやばい熱い


「うっわ!! え、えっと『水玉(オタ・オール)』!!」


……リリスが慌てて巨大な水の玉をシグレ目掛けて噴出させ、無事、消火に成功する。


 しかしシグレの腕は見るも無惨に焼け、皮膚がただれていた


「もう無理!! 魔法絶対無理!! オレ! マホウ! ムリ!!」


「そりゃあ『魔力操作』を怠るとそうなりますよ! 勝手に使わないでください!! ……『光合超再生(サン・パーシエル)』」


 リリスが唱えた瞬間、シグレの爛れた腕はみるみる元の形は戻っていく。すごい力だ。


「す、すげぇ……さすが死にかけたシャウザールのおっさん達を治しただけはある」


「……いや、太陽が照っていなければ危ないところですよ、ほんと」


 魔法とは万能なもの等ではなく、天候や湿度、温度にまでも影響するものが多い、とはリリスの言葉だ。


 はぁ、と分かりやすくため息を吐くリリス。


「若いうちからため息吐いてると幸せが逃げちゃうぞー」


 そんな彼女にシグレはからかうように真顔で言うが


「やかましいですよガキの分際で。……魔法は保留ですね。付いてきてください」


(うっわ辛辣)


「えっと、リリスの父に会わせてくれるんだよな。なんだか緊張しちゃうなぁ」


「……その言い方はよしてください。語弊を生みます」


 キッ、と睨むリリス。魔鉱石などの研究員というリリスの父なら何かわかるかもしれないとのことだが、

 シグレは正直ヴァンピールに戻れるかどうかにはあまり興味がなかった。


 魔法が使えなくなるかもしれないからだ。……今は使えてるとは口が裂けても言えないが。

 そしてシグレは何も言わずついて行くことにする。


──壁の影に背をつけ腕を組みながら、ひっそりとこちらを見つめ続けるレインに気づかないまま




───────────




 バルカン地点から離れ、スタスタと歩くシグレは疑問を口にした


「今更なんだが、あそこから離れてもよかったのか?」


「普段から手を抜かず頑張っているんです。これくらいは許してもらわないと困ります」


「メイドさん、主に伝えるくらいはしとこうぜ……」


 困惑顔で言っていると、リリスの家に到着したらしく2人は足を止めた。


「ここか。なんというか、なんというかだな……」


 目の前にある家は、一言でいえば木でできたオンボロ屋敷だ。窓を見てみると無数の蔓が巻き付いている。


「家は貧乏なんですよ。最近は帰ることが少なくなっていたから家族に会うのは久しぶりなんですけど、変わらなそうで安心です。……ただいま〜」


 言いながら、まるで昨日もそうしたように、ノックもせず扉を開けるリリス


「え!? リリス!?」


 突然の出来事に驚く彼女は、リリスと同じ茶色に近い赤髪をポニーテールにした、お淑やかという言葉が似合う女性だ。


「帰ってくるなら手紙くらい寄越しなさいよ。……おかえり」


 うわ、ちょっと泣いてる……そんなに久しぶりなのに、リリスはあっさりし過ぎだろう。


「ごめんなさいお母さん。突然なんだけど、マルちゃんって今どこ?」


「その後ろの子を説明する気は無いのね……研究室よ」


 話の流れからして「マルちゃん」が父だろう。なんだか食品を何種類も作ってそうな愛称だな…………仲のいい家族だ。


「ありがとう、じゃあ、行きましょうか」


「あ、あぁ……」


 シグレはお義母さんにペコりと会釈し、ひょこひょことリリスの跡をついていく。


「あ、間違えた。お義母さんじゃなかった」


「……しばきますよ」


あはは、とシグレは愛想笑い。


 研究室、とは地下にあるらしく、下に続く階段に入っていく。そしてリリスは立ち止まり、家に入る際にはしなかったノックをする。

 ドーラ家のルールなのだろうか。


──コン、コン


しばらくの沈黙の末、中から返事が聞こえた


「…………入って」


 早速リリスはドアノブに触れ、中に入ると床には様々なガラクタのような物が転がっていた。

 そしてマルちゃんと呼ばれる男は、今も机に突っ伏して何かをいじっている。そしてこちらをチラっと見たあと


「あぁ、リリス。ちょっとそこら辺にある黒の魔鉱石を取ってくれない?」


「あー、これ? はい、どうぞ。久しぶりなのにあっさりしてるね」


どの口が言っているのだろうかこの娘は


「ん、そうだな…………ほえ? リリスぅ!? なんでここに居るんだ!? わかったぞ!! おれ、極度の疲れと魔道具に囲まれた生活で、幻覚が見えるようになったのか!! くそう、おれもここまでかぁ……」


「マルちゃん、相変わらずうるさい……疲れてるのかは知らないけど、幻覚じゃないよ」


「えぇ、帰ってきてくれるなら言ってくれよぉ。うう……」


全然あっさりじゃなかった。マルちゃん泣いてるし


「うん、いきなりで申し訳ないんだけど、ちょっと聞きたいことがあって……錬金魔鉱石の、その効果を打ち消す方法ってなんか無い?」


「後ろにいる男の子の事?」


あ、自己紹介しないと


「えっと、シグレって言います。暗黒の龍兵団ってとこの。リリスとは……まぁそういう繋がりです」


 何を緊張しているんだ馬鹿か俺は。恋人がいた事がないのも忙しかったからだし、だいいち、別に俺はこんなことに動揺する性格じゃ……だから俺は何を戸惑っているんだよ。はぁ


「あぁ、幼いから検討もつかなかったよ。兵団さんの方だったのかい? やっぱり凄いなあ君たちは」


「あはは……」


 リリスとの関係はあんまり気にしてないみたいだな。いや、子供だと思われているからか。


「あ、解除する方法だったね。うーん……ある、かな。その錬金魔鉱石の属性さえ分かればだけど」


お、まじか……


「ですって。で、シグレ様の中にあるそれはなんの属性なんですか?」


「え、知らねぇよ? そんなの」


 すると蔑んだ目で「えぇ……」と言われた。俺もそんな目で言われて「えぇ……」て感じだよ。

 だから、そんな顔すんなって怖い怖い。

ほら、マルちゃんもこっち見てるから……


「えっと、シグレ、君かな? 君はどんな魔族の呪いを掛けられていたの? それになんで戻りたいのかな?」


「あ、いや、俺元々魔族なんです。戻りたい理由ってのは……妹を助けたいから、かな」


いや、厳密には平々凡々な元サラリーマンなんだけどな。ややこしいけど


「えぇ!? 純粋な魔族が、これ程までに人族に近ずけるのか……ふむ、興味があるな」


「マルちゃん」


 恐ろしい剣幕のリリスが横槍を入れてきた。なんか家族だなぁ……


「あぁ、悪い悪い。ちょっとここで待ってて。とりあえずあの部屋から鑑定する魔道具持ってくるから」


あ、行っちゃった。


 ていうか便利だな、魔道具。今度機会があったらちゃんと見てみるか。


「にしても、割とあっさり戻れそうなんだな」


「ここは魔道具の国ですよ。舐めないで下さい」


いや知らないよ。魔道具の国とか初めて聞いたよ。


「魔道具って簡単に作れるのか?」


「わたしも詳しくは無いですが、純粋な魔鉱石から読み取った脈を数値化して説いたラダ・ウ論を把握してダモ・ア論と組み合わせれば──」


「まてまて詳しい詳しい。わからねぇよ」


「毛も生えてない素人がしゃしゃり出ないでください」


「あ、はい」


 やっぱり、この子は辛辣だなぁ、と悲しみに浸っていると……

「おまたせ〜」と軽々しくいいながら、マルちゃんが破壊光線を放てそうな望遠鏡の形のをした秘密兵器を持ち、その銃口をこちらに向けてきた。


「これで鑑定するよ。シグレ君、動かないでね」


 いいながら、素早い動きでライフルをリローディングするような仕草をし、スコープ部分を覗くマルちゃん。


 途端──ガチャ、キュイーンという何やら物騒な音が部屋中に響く。


(え? これ、殺されないよね?)



「じゃ、行くよー。はい、バター」



「……チーズだろう!!」



 瞬間、部屋が光に包まれる。頭の中にチーズの声が残響し、シグレは頭を抑えていた。


「よし、鑑定終了っと。ビックリさせてごめんねー。おれ、不器用だから」


「……死ぬかと思った」


 言いながら、マルちゃんは望遠鏡を覗きながら、なにやらブツブツ言っている。


「ふむ……これほど精密な。しかもこんな希少な物……どこで手に入れたんだろう。……あ、属性自体はシンプルな物だな」


「あの……マルさん?」


すると、顔を上げこちらと目が合う


「あはは、マルちゃんでいいよ少年。色々分かったぞー、それは光属性の錬金魔鉱石で、破壊する方法は比較的簡単」


すると、間を置いてから言葉を紡ぐ


「錬金魔鉱石の対になる属性を吸収させ続ければ、器に水を入れ続けたらこぼれるように魔鉱石の効果も打ち消せるんじゃないかな。

 試したことは無いけど、やってみるといい。多分普通に壊れる」


「えっと、俺は具体的に何をすればいいんです?」


「うん、本体である君が陰属性魔法を数回使い続けるだけだ」


「俺、魔法使えないんすけど……」


リリスはまたしてもため息を吐いていた。




──────────




「はぁ……何も上手くいかねぇなぁ……やっぱり定期的に妹成分摂取しねぇと、頑張れねぇし頑張りたくねぇ」


「うわぁ」


 今2人は家を出て、バルカン地点へと戻る最中である。

 戻れる方法はわかったはいいが、魔法が使えないと無理だという。綺麗に振り出しに戻った形だ。


「今頃、ウリエル達が上手いこと立ち回ってればいいんだがなぁ」


 こんな弱音をこぼしてしまうばかりであるが、本当に気がかりなのは暗黒の龍兵団を襲撃した、あの仮面の男だ。


──何故、初めて会ったら時より素早く

──何故、俺を殺さなかったのか

──何故、人族にしたのか。……心残りだらけだ。


 すると、2人の後ろからひょろひょろの男が走ってきた。


「お〜い!! リリスぅ!! シグレくぅん!! まってくれぇ〜」


 クタクタになりながら、手を振り上げる仕草をするこの男を観察し、シグレは思った。


「リリスのお父さんってなんか変わってるよな」


「それな」


「……おーい聞こえてるぞー」


あ、帰ってきた。どう言い訳しようか……


「マルちゃんって変わってるよね。無精髭くらい剃ったらいいのに」


 直截的(ちょくせつてき)が過ぎる物言いをする娘の言動を「そ、そうだね〜」と華麗ではないスルーをし、シグレに提案をした


「えーっと、確かシグレ君は魔法が使えないって言ってたよね? 近頃、国王様直々に大掛かりな魔法の訓練を開催するみたいだから、君も参加するといいよって思って。どうかな?」


「……国王自らってすげぇな。リリス、どう思う?」


「なんであたしに聞くんですか。いいんじゃないです? あたしも参加しますし」


「リリスも参加するって初耳だぞ」


「初めて言いましたから。なんか国王様直々に執筆した手紙が届いて、教師の1人に選ばれたみたいなんですよ」


「まじかよ……」


 一応拒否する事は可能だったようだが、なにやらお金が発生するらしく、喜んで引き受けたんだとか。

 だがシグレの方はまだ少しだけ迷っていた。なんせ、1度は片腕が使い物にならなくなるかもしれない恐怖を味わったのだ。物怖じして当然である。


「まぁでも、魔法を使わないことには何も始まらないしな」


「うん、決まりだね」


 こうしてシグレは、知隣国バルカンで無償で開催するという、魔法の訓練に参加することになった




──────────




「……ライジェル、ルギウスの様子は?」


「変わらず。まだ機会を伺ってるとこだ。ウリエルはどうだ? シグレの妹は見つかったか?」


 今、二人は赤鬼族が経営してる宿屋にいる。

魔蛇国グロータスへ来てそうそう仮面を被ったルギウスらしき人物をみつけ追おうとしたのだが、

 ヴィスコ族の彼なら即座に転移で逃げることを予測し、しばらく様子を見ることにしたライジェル。


 そして、時間がかかると判断したウリエルは、危険な状況にある可能性が高いというシズクを単独で探そうとしたのだ。そして、ライジェルの問いに答える


「実は……見つけたの。結論から言うと、奴隷にはされてなかったよ」


「そうか……!! ならとりあえずは……」


 奴隷にされてないと言うのなら、ひとまずシグレにも良い報告が出来る。そして少々気を抜くライジェルは気づく。

 ウリエルの表情が……いつになく曇っていることに


「奴隷になってないって事がどういう意味か分からないの? それはこの国と共存できる程の力を持っているか、この国が必要と思ってるからだと思う。それは、単に見つけてすぐに、ウチにおいでーって言える状態じゃないって事」


「…………」


「悔しいけど、ルギウスとシズクちゃんは安全という事はわかったから……1度帰りましょう。帰りは徒歩だから、少し時間がかかるけどね」


 安全、はたして本当にそうなのか。もう少し観察する必要がないのか。ライジェルは様々な可能性を巡らせる。


「なぁ、ウリエル。ルギウスはなんで裏切ったんだと思う?」


「……そんなの、知らないよ」


「本当にルギウスの事が心配なのか?」


「っ……当たり前じゃない! 心配だし、なんで皆を危ない目にあわせたか、ちゃんとお話したい! でも! ……でも、今は帰らないと、皆が危ないから」


「……なら、ウリエル。あんただけでも帰ってくれ。俺はここでもうしばらくシズクを観察して、ルギウスを探す。1週間後に帰るつもりだが、もし帰ってこなかったら……察してくれ」


「……!? そんなの……!! 馬鹿じゃないの!? 私は、シズクちゃんの事も、ルギウスの事も、見捨てるなんて言ってない!! これ以上潜伏したら今度こそ赤毛の男(・・・・)に殺されちゃうかもしれないから、帰ろうって言ってるのに……! 自分から1人になるとか死にたいとしか思えない!!」


 涙目になりながら必死に訴えようとするウリエル。しかし、シグレの妹の事ももちろんあるが……と前置きし


「ルギウスは、俺の友達なんだ」


「……っ」


 そう言い放った。だが、そんな事ウリエルとて同じである。森の奥深く、仲間だった者達に裏切り者の濡れ衣を着せられ、

 長い間育ててもらった親にまでも見放され追放された所をルギウスに見つかり今の暗黒の龍兵団へと入ったのだ。


 当時の事だって鮮明に覚えているし、その場面には必ずルギウスが居た。


「……わかってる。俺のわがままだ」


「なら……!! 私もここに残るっ」


 ほっぺを膨らませるウリエルの姿はふざけているようにしか見えない。が、古い付き合いのライジェルにはわかる。

 ウリエルはいつだって、どんな時だって真面目だということを。



──だから、ライジェルは答える



「それは困る。真面目に考えてみろ、レイン達にはルギウスとシグレの妹の無事を一刻も早く報告しなきゃならない。それにもちろん、暗黒の龍兵団が今危ない状況にあるってこともな。──ウリエルはどんな時でも真面目だ(・・・・・・・・・・)。わかるだろ?」


「…………ずるい。不真面目、おたんこなす、あんぽんたん!!」


「うるさいな32歳。じゃ、ちょっくら行ってくるわ。無事、帰って報告してくれよ?」


 あたかも、コンビニに寄っていくような口ぶりでそういい、扉を開け出て行こうとするライジェルにウリエルは何も返せなかった。


「う……ひぐ……ばかぁ……」



──ただ、その泣き声だけを残して







10/17日

グリモン王の髪の色の描写を入れるのを忘れ、

修正しました。


申し訳ありません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 異世界と大阪弁の組み合わせ方が新鮮で面白いと思いました、関西弁キャラは星の数ほど存在しているでしょうが、このパターンは初めてでした、勉強になります。 ブクマさせてください。
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