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最弱種族ヴァンピールとして転生した男は妹を探す  作者: 玉子
第一章『異世界』
4/13

第一章 4.『信頼』




 シャウザールは柄にもなく焦っていた。

胸からは血が溢れ今もこぼれ続けているが、痛みなど些細なこと。全くもって問題ではない。

 まず、『幻影城』が破られたことなど今まで1度もない。

 扉を複数に分け、破られた時に中の者たちをバラバラになるように設定したのはシャウザールだ。


 それも奇襲された時まとめて皆殺しにならない為だが、それは間違っていたかもしれない。

 いくら転移でみなの所へ直ぐに駆けつけれたとしても、1度に全員の所へ向かうのは不可能だ。

 だがそれも万一破られた時のことを想定してである。

 そもそも、『幻影城』を開くにシャウザールが脳に直接“鍵”を渡した者しか入れないはず。

 何故、破られたのか。


考えられるのは……

シャウザール以外に鍵を持った者、レイン、ルギウス、ライジェルの中の誰かが裏切り。

 しかしこれは内部から行うのは難しい。もちろん信じたいというのもあるが、恐らく違うだろう。


 もしくは『幻影城』の原理そのものを破壊させる。

 例えばシャウザールと同じヴィスコ族が木々の中の“歪み”にピンポイントで『幻影城』の設定を上書きさせる、等だ。

 現実的ではないが可能性は十分に有り得る。

 不自然な歪みから発生した爆発も気になる。

扉を開く度に爆発的が発生する。間違ってもシャウザールはそんな危険な設定はしていない。


 このように決して呪文を唱えれば勝手に開く、というような簡単なものでは無いのだ。

故にシャウザールは焦る。


 ──妹の息子であるルギウスが、手を伸ばしても届かない所へ行ってしまいそうで……



ー20分前ー



 そこは森林が無く、辺り一面なにもない更地である。そんな場所に忽然と姿を現す者がいた。

 軽そうな鎧と黒に近い紫の髪を後ろに流した男。シャウザールだ。

 その場にはルギウス、ミッチェル。


──そして仮面を被った鎧の男がいる。


「シャウザールか……」

「シャウさん!!」


「……邪魔が入ったようだな」


 声が篭もって聞き取り辛いが、その男が発したその言葉は、敵、と認識させるには十分だった。

 シャウザールは即座に自らの背中にある“赤いコア”を意識し、敵の背後へ移動した。

 すぐさま腰の短剣を抜き仮面の男の生の首筋に突き刺す。


 がしかし、鉄が弾ける音がした。無防備だった首筋を確認すると、刺した部分のみをガードできるほどに小さな四角形の鉄板が敷かれている。

 防がれたのだ。

刹那、悪寒がし反射的に後ろに飛ぶ。


「……『土壁(ラド・エジ)』」


 こもった声で仮面の男が呟いた。

土壁(ラド・エジ)』は実際にある地面を利用し、変形させ檻の形にする魔法だ。

 しかし、魔法をそのまま言葉にする魔術師は未熟と呼ばれるご時世。仮面の男はあまり魔法は得意ではないのかもしれない。


 そして、(ラド)系は地から顕現する魔法だ。

咄嗟に地面を警戒し、宙へ飛んだ。


──その瞬間、仮面の男が笑った気がした。


 どこから現れたのか、唐突に出現した鋭い刃がシャウザールの胸を貫く。


「ごふっ……!?」


 あの男は剣を持ってなどいなかった。そもそも宙に浮いてる状況で地面から投げたなら刃は斜めに刺さるはずだ。

 しかしこれはシャウザールの胸、心臓のあたりを真っ直ぐ綺麗に貫いている。

 重力に従い、シャウザールは地に落ちる。刃が地面に触れず肉体を更にえぐらなかったのは不幸中の幸いだ。

 そして、背中の“赤いコア”も奇跡的に破壊されていなかった。

 しかし時間差で現れた土の檻が顕現し、シャウザールの身体は刃に貫かれたまま固定された。


「これで邪魔は無くなった。ルギウス君。今でさえ君はただ傍観することしかしなかったんだ。何故ここで踏みとどまる」


「……それは」


「ミッチェル君もだ。君はルギウスと違って力があるのに戦わない。本音を言うと君を連れて帰りたい。……別に無理やりでもいいが」


「……っ」


「まて!! ……ミッチェルは、関係ない。それに僕が望んだんだ。行くよ」


とルギウス。その言葉にシャウザールは悟った


──この子が“鍵”を渡したのか。

何故、と思うがもう遅い。


「兄さん!! なんで!!」


「お前を幸せにするためだ。それに悪い条件ではなかった。」


「そんなの、ぼくの勝手だよ!! 兄さんが父さんの役目を果たす必要なんてないじゃないか!!」


「……もういいだろう」


「ぅ……」


 仮面の男はそう残し、ミッチェルが気絶した。

唐突にだ。


「おい、ミッチェルに何をした?」


「見ての通り、気絶させただけだ。行くぞ」


 そう言い、踵を返す仮面の男にルギウスはもう何も言わない。だが、シャウザールは違った。


「待て、お前の目的は、何だ……」


 意識が朦朧とする中、できるだけ聞き出そうと試みる。

 目的……ルギウスをそそのかし何をするつもりなのか。少なくとも無差別な皆殺しでは無かったのだろう。

 実際、シャウザールは串刺しにされ身動きさえも取れないが、トドメを刺されていない。

 ……放っておけば死ぬと思われたのかもしれないが


「……それは、企業秘密と言うやつだ。──『土槍(ラド・ランス)』」


「グ……」


 男が放った途端、大地が割れ、そこから身動きを封じられたシャウザールの右肩を貫いた。瞬間、既に朦朧としていた意識が完全に失う。


シャウザールはもう動かなかった。


 地に横になるミッチェル、串刺しにされ動けないシャウザール。それらをルギウスは数秒眺め、

 悔しそうに顔を歪ませていたことに仮面の男は気づかない。


「おい、待て仮面野郎!! はぁ……はぁ、はぁ……疲れた……」


 ざ、と足が動き出し、今度こそこの場を離れんとする2人にまたしても、声がかけられる。


──シャウザール、では無い。


 赤髪を倒してすぐ、レインに場所を聞いたシグレが、仮面の男を引き止めていた。息を切らしながら。


「…………。違う」


 既視感のある煌びやかな甲冑を装備している仮面の男は、数秒こちらを眺めたあと、聞き取り辛い低い声でしらを切る。その態度にシグレは…


「あ、そうなの。すまん、人違いだった」


「何しに来たんだ……」


「冗談だよ」


 シグレの態度に呆れる仮面の男。しかし、シグレはまばたきの瞬間息が当たるほどまで迫っていた。




──────────




 割れる大地に横になる赤毛を見下げ、シグレは高揚していた。


「すげぇ、マジで勝てた! 信じられねぇ!!」


「……うるさいわね」


 今、シグレはこれ以上にないほど全能感に満ちている。なんせ、喧嘩で勝ったことが1度もないのにレインと同等レベルの者を倒せたのだ。

 一瞬で。


「すまん。ちょっと興奮してた」


「……最初、あなたはあの男に首を締められていたけれど、妹さんの情報を知るために手加減していたの?」


「違ぇよ、あんときは本当にビクともしなかった。だが途中から急に力がみなぎってきてな。ガラじゃねぇが……イケる、と思って」


 そんな馬鹿な……と思うのはレインだけでは無い。シグレ自身、本当の本当に驚いていた。


「……ともかく、この男は私が拘束しておくから、あなたはルギウスたちの所に行ってちょうだい。シャウザールが心配よ」


「あぁ、わかった、その男は殺すなよ? 絶対の絶対に殺すなよ!!」


 殺して欲しいの?と口に出してしまいそうになるが、堪えてルギウス達の場所を教える。ここから真っ直ぐなので問題ないとは思うが……


「わかった、任せてくれ!!」


 シグレはこの調子である。不安にならない方がおかしい。チラ、と気絶した男を見下げ、

 そして「気をつけて」と言うつもりでシグレの方を見るが、既に吹き上がる砂埃と共に姿が消えていた。

 足跡はあるので、転移魔法ではない。だとしたら物凄い速さだ。そして、レインは呟く。


「ヴァンピールは、こんなに日が照っていたら虫さえ殺せないはずなのだけれど……」


 彼女の声はシグレにも、気絶した男にも、誰にも届くことはなかった。




──────────




「はぁ……はぁ……」


 呼吸を乱し、膝を付くのは、仮面の男──ではなく、覚醒したと思われるシグレだった。

 奇襲を仕掛け、手加減抜きの強烈な一打は、軽々と、それも不自然な程にいなされた。

 目の前の男は、それほどまでに強者だった。


「やっぱり、喧嘩が強くなっても俺は俺か……」


 仮面の男は、恐らく転生初日に見かけた男だろう。名前は……たしかバラゴと言っただろうか。その、身につけるその鎧はあの時のものと同じだ。


──しかし、妙に速い。強くなっている。


「……お前はやはり魔物(・・)か」


 相変わらず、くぐもった声で喋る仮面の男は、確認するようにシグレに問いかける。


「? あぁ、ヴァンピールって言うらしいが……」


 なんか最弱種族らしいな、と言うつもりが、腹の当たりに腕が生えていることに気づく。

 否、生えているのではなく、仮面の男の腕が腹の中に入っていたのだ。途端、とてつもない痛みがシグレを襲う。


「ぐ……ぅあああああ…!!!!」


 腕を引き抜かれ、大量に血が吹きこぼれる。痛い。


痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

………痛く、ない。


 永遠と思われた痛みは、唐突に終わりを告げる。

 最初ははヴァンピールという種族が破壊された肉体を再生させているのかと思ったが……違う。

 横たわったまま自分の腹を見てみると、男の引き抜いた血まみれの腕が淡い光を放ち、その手のひらを腹へかざしている。治療を、されているのだ。


「何のつもりだ……?」


 未だ治療を続ける男の顔色さえ見えず、シグレは素直に恐怖した。


「……お前の腹に錬金魔鉱石を埋め込んだ。もう魔物ではない」


途端、視界が闇に飲まれた。


 あぁ、あの時もこんな感じだったな、と呑気なそう思いながら……


──シグレは気を失った。




──────────




『シグにぃ、今日のご飯何がいい?』


『シグにぃ、牛乳はコップに注いでってば』


『シグにぃ、朝だよ。起きて──』


「……雫!?」


 意識が覚醒し周りを見渡す。が、木製の簡素な作りのベッドに特徴のない部屋のみである。

 雫はいない。変わりにいたのは、掠れた金髪を晒す、ライジェルだ。


「……ライジェル、か。その包帯はファンションか?センスねぇな」


「うるせぇよ新人。お前の方こそ目の色変わってんじゃねぇか。……ヴァンピールじゃなかったのかよ」


「……なに?」


 反射的にベッドから降り、姿見に移る自分の姿を見る。目の色はもちろん、鋭かった爪がなくなり、食事の際に世話になった牙もない。

 極めつけだったコウモリの様な翼。これも、ない。


「元に、戻ってる……」


 いや、厳密には子供の姿のままだが、些細なことだろう。そして思い出す


「仮面の男に、何かを埋め込まれた……?」


「とにかく、今はいい。ここはバルカン地点だし、あとでわかるだろ。ついてこい」


 乱暴な奴は苦手なんだが……と文句を垂れるシグレを無視してライジェルはスタスタと歩き出す。

 そこからまたもや豪華な廊下があるのかと思うが、普通の廊下であり、先程までいた同じような部屋がいくつもある。

 その部屋は学校の教室ほどの広さがあり、窓も複数ある、学校のような、というか、家具以外は見た感じ学校そのものだった。


 途中、どこに行くんだ。と尋ねてみるがついてこりゃいいんだよ、としか返してこないのでただ静かに歩いていると、突然ほかと変わらない扉で立ち止まった。


「ここだ」


 そう言いライジェルは扉を開くと、レインとウリエル。ミッチェルとナナはいない。

 そしてベッドには、ライジェルより酷い、所々血が滲む包帯を全身に巻き付けたシャウザールの姿があった。


「おっさん!!」


「………君は、うん? シグレ君、か?」


 記憶喪失、という単語が頭をよぎるが、そうでは無いことをすぐに悟る。姿が少し変わったからだろう。


「あぁ、確か、錬金魔鉱石とやらを仮面の男に埋め込まれて、恐らくだが普通の人間にされたんだと思う……それより大丈夫なのか?」


「大丈夫か否かを問われているのなら、答えは否だ。……ルギウスが裏切った」


 回りがざわめくなか、その場にいるシグレだけがポカンとしていた。

 ルギウスの裏切り。この言葉の重みは、正直シグレにはわかり兼ねるが、当然だろう。

 まだここに来て目覚めた直後だ。わかれという方が無理な話である。

 しかし、シャウザールのその悲壮感に溢れた顔を見れば、そんな不敬は誰にだって働けないことは一目瞭然である。


「そっか……力になれず、申し訳ない」


「いや、いいんだよ。だが、それでも君はよくやってくれた。あの赤毛の男を倒してくれたのだろう。レインから聞いたが、一瞬だったようだな」


「いや、あれは偶然っていうかなんというか……急に力が湧いてきたんだ」


すると、レインは何か言いたげな表情ででシグレを眺めていた。


「シグレくん。それについては後で話があるわ。……それよりも、妹さんの場所がわかったわ」


「!?」


 それは本当か、どこだ!? と、はやる気持ちを隠さないシグレにレインは早口でまくし立てる


「落ち着いて。分かったと言っても、今すぐに行ける場所では無いわ。……それに、今あなたは人族になっている。これは、少し問題なのよ」


「……とにかく、どこなんだよ。遠回しな言い方はやめてくれ。嫌いなんでな」


 イライラを抑えているシグレには、レインが躊躇っているのか全くわからない。そんなに行くのが難しい場所なのだろうか。


「ここから遠く離れた国、魔族の集う、魔蛇国グロータスよ」


 魔族の集う国。つまり人族は入れない、という事だろうか。しかし、それなら雫だって不可能なはず。


「……俺が人族であることに問題があるのはなんとなく分かった。でもなんでそこまで躊躇する必要があるんだ? 生きて、いるんだろ……?」


 聞かずにいようと心に閉まっていた問いが、思わず口からこぼれる。緊迫感により心臓の音が鮮明に聞こえていた。


「結論から言うと、生きているわ」


「じゃあ、なんなんだよ!! レイン、はっきり言ったらどうだ!!」


「人族の妹さんは……恐らく奴隷にされている可能性が高いわね」


「……は」


──奴隷? 奴隷、どれい、ドレイ……


 奴隷、という言葉は、シグレの身体を蝕むようにしばらく残響していた。




──────────




 奴隷。つまり、物と同じように扱われるのだ。様々な最悪の可能性が頭をよぎり、早くもシグレは気が狂いそうだった。


「それは、信憑性があるのか?」


「赤毛の男から聞き出したのよ。ウリエルが『風読(オン・レイド)』で嘘をつけばすぐにわかるようにしたから間違いないわ」


 人族が入れないなら、シグレは迷わずヴァンピールに戻るだろう。問題は戻れるかどうかだが


「……腹に埋め込まれたこいつを破壊でもしたら元に戻れるか?」


 無理だ、とシャウザールは言い、


「埋め込まれた錬金魔鉱石は破壊する事は不可能に近い。それに、それ程の行為をすれば本体が死んでしまうからな」


「じゃあ、どうすりゃ……」


「そもそも、錬金魔鉱石とは人族が様々な魔族の呪いを打ち消すために開発された医療具だ。それを取り除きたいと思う者などいない」


 そんなの……絶望的だ。もはや、雫の姿を見ることも、二度と…


「私が行くよ」


シグレが絶望に浸るなか、唐突に誰かが声をはさんだ。


「本当か!?」


 そう言うのは、本人の意思に応じるようにオレンジ色の髪を跳ねさせた女の子、ウリエルだ。


「私なら簡単に潜入できるし、女の子だから妹ちゃんの信頼も得られるかもしれないから」


 ……しかし、この子は何故危険をおかしてまでここまでしてくれるのだろうか。

 女の子に行かせる男という絵面が嫌だ、と言うわけでは無いが、ウリエルとも本当にあったばかりであり、信頼、絆といったものは皆無に等しい。

 だがウリエルの眼は真っ直ぐで、今もシグレの目を見ている。


「なんで? って顔してるね。ヤマはあんまり自覚無いかもしれないけど、私たちはもう仲間なんだよ? 助け合うのは当然! えへん!」


「それでも、俺のことはまだ何も知らないだろ? こんなやつに雫を任せられるか、なんて心配じゃあない。なんでそこまで良くしてくれる理由がわからないんだ……」


「……。頑固、意固地! いじっぱり!!」


「………………」


「さっきからいってるけど、私たちは仲間になったの!! それだけでいいの、私がヤマの妹ちゃんを探す!! これで話はおしまい!」


「そっか……本当に、ありがとう。もちろん、雫も俺も離れ離れにならないことが1番だったが、ここに来れてよかった。本当に」


 と、そのやり取りを見ていたライジェルが何かを言いたそうにしていた。


「……ん?」


「あぁ、いや、なんだ。……あの赤毛の男を倒してくれたみてぇだな。俺らはあいつに殺されかけたんで、そのお礼を、ってな」


 そう、ライジェルとウリエルは赤毛の男に苦戦し、割と命が危ない状況にまで陥っていたのだ。

 即座にここ、バルカン地点で治療を受けていなければ、そして、もし赤毛の男を止めれていなければ、今ここには居ないかもしれない。

 そんな不器用に感謝を述べようとする男、ライジェルにシグレは……


「え、お前、あんなやつに殺されかけたのか? 俺のへなちょこパンチでくたばったやつに!? ブフェッ!!!」


茶化してやると、即座にゲンコツを食らってしまった。くそ痛い。いやまじで痛い。


「ってぇなおい、俺は今お礼を言われてたんじゃねぇのかよ、おい!?」


「てめぇがオレのプライドに生ケツで座ろうとするからだろぅが!!」


「生ケツじゃねぇよ、せめて土足だろうが!!」


「どっちでもいいわ生ケツ!!!」


「おい待て、だれが生ケツだコラ!!」


「ふっ」


 と、そんな程度の低いやり取りに、ふと笑い声が刺した。レインだ。……え、レイン?


「あははは!! 反りが合わないのかと思って不安だったけど、すごい仲良しじゃない! あはははは!!」


 ライジェルとシグレ、2人してマヌケな顔で固まってしまう。レインが笑うところなど、初めて見た。違和感が凄い。

 つられて、ウリエル、シャウザールも笑う


「あはははは!!」


「がっはっはっはっはっは、ゴフッ……!?」


「大丈夫かよ、おっさん!?」


「大丈夫、ちょっと血を吐いただけだ」


「大丈夫じゃねぇだろそれ……」


あははは、とまたしても笑いが起こった。

 雫の事は心配だが、今のようにたまには息抜きしないと、上手くいくものも上手くいかないものになってしまう。


 ──ここは信頼できる。転生し、全てに不信感を抱いていたシグレがそう思えた瞬間だった。




──────────




 先程の部屋に居なかったものたち──ミッチェルとナナは、薄暗い部屋にいた。


「……ぼく達の問題なのに、巻き込んでしまってごめんなさい。ナナさん」


濃い紫の前髪を揺らすその姿は、未だ消えないミッチェルの心の迷いを表しているようであった。しかし、ナナはその姿含め全てを全肯定するように応える。


「いいのよ。それにあたしにとっても好都合よ。それにあたしには野望がある。手伝ってくれるよね?」


「ぼくが魔剣を手に入れて、そして……」




「あたしの創造者を……殺す。絶対に」


 そんな物騒な事を口にするナナ。

……その瞳には、涙の雫がながれていた。

 





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― 新着の感想 ―
[良い点]  第一章 4. 「信頼」まで拝読しました!  ヴァンピールが最弱種族~w。意外な設定が面白いです(今は人族の姿に戻っちゃってますけど)!  主人公の目的が「妹を救い出す!」とハッキリして…
[良い点] 軽快でサクサク読めますね [気になる点] 背景描写が希薄でストーリー説明されているだけのような気分になってきます。
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