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最弱種族ヴァンピールとして転生した男は妹を探す  作者: 玉子
第一章『異世界』
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第一章 2.『黒い女』





 パチパチと火の手が迫る中、喉の治療を続けるバラゴはしばらくの間動けずにいた。

 そして岩の杭に打たれた少年……山崎時雨(やまざき しぐれ)もピクリとも動かない。


だが、炎以外に動くものがあった。


 眩しいほどに輝く白髪(はくはつ)を際立たせるように、黒い、ドレスのようなものを身に付けた若い女だ。


 肌の露出が多く、戦いには不向きとしか言い様のない装飾に、ヒラヒラと彼女の動作に合わせて動くうっすらと透けたスカート。

 腕にも透明な布がかけられ、酷く艶めかしさを醸し出していた。

 それだけ見ればどこぞの令嬢だと騒ぎ立てられるのだろうが、その手はどす黒く変色しており、血の匂いを発していた。

 その変色はこびり付いた血のせいだけではなく、鱗があり、獲物を逃さぬ紅色の鉤爪があり……それはまるで龍のような、

 ──否、龍の手そのもの(・・・・)であった。


「あら、こんな所にも獲物が残っていたのね」


「!?」


 バラゴが振り返り、急速に喉を塞ぐ。焦って魔法をかけたせいで多少息がしにくいが、

 妙な瘴気を放つ目の前の脅威と比べると屁のようなものだ。


「……その串刺しになってる魔族の少年はどうしたのかしら? まさか国潰れるからと、奴隷に腹いせでもしたの?」


冷や汗が頬を伝うなか、なるべく手元を悟られないように答える。


「……その少年は禁忌魔法を使い召喚した」


「……なんですって?」


 当然の反応だろう。串刺しにした少年の見た目は明らかに人族では無い。そして魔物を召喚した事例など、世界中のどこにも記載されていない。


「……事情は知らないけれど、今は負傷したあなた1人。私には勝てないわよ」


 おびただしいほどの血を流す数々の死体を見渡すレインに対し、バラゴは確信めいた笑みを浮かべる。


「そうだな……だからッッ」


 その瞬間、バラゴの手の中から目を焼くほどの光が放たれる。魔鉱石だ。

 咄嗟に腕で目を隠してしまうレインは、音も遮断された状態でしばらく停止していた。


「……逃げられたわね」


 ほんの3秒程の一瞬。だが、男の姿が消えていた。

周りに逃げた形跡は全くない。

 この感覚、あるいはデジャブと呼べるそれにレインは心当たりがあった。


「転移魔法……」


 本来、転移魔法とは使い手が少ない光魔法と更に少ない陰魔法を併用した特殊なものだ。

 魔鉱石で視界と聴覚をくらまし、魔法で転移を成功させる。先程の男は、相当な実力の持ち主だったのだろう。

 静かになった部屋の中、コツ、コツと歩き出しどこか扇情的な仕草で少年を見上げる彼女はふと周りを見渡し、この状況を考察する。


「大きいロウソクに大掛かりな魔法陣、そして串刺しにされた鬼……ヴァンピールの少年。そしてゴロゴロ転がる死体の数々」


 召喚術で呼び出した鬼の少年を戦いの利用に失敗し、暴走した少年を手懐けれずに自ら壊滅状態に陥ったのだろうか。

 あの男の発言のことも考えると、ほぼ確信と言える。ただ、1つ気になることがあるとすれば……


「ヴァンピールは筋力も人族より弱く、眷属を作らないと戦うことさえまともに出来ないはずなのだけれど」


 最弱種族ヴァンピール。今や人族や魔族にまでもそう呼ばれるこの種族は、肌は不健康な白色だが、

 容姿が整っている者が非常に多いため、奴隷にされやすいのだ。


「それにしても、子供達の自由を奪い汚い金で回していた国が、最期は子供の手によって崩壊するなんて、皮肉なものね」


 言いながら、黒い女は黒く染めた立派な腕を起用に扱い岩を砕いてゆく。──少年が傷つかないように優しく、優しく……


「大変だったわね……」


 呟き、彼女はそのまま少年をお姫様抱っこの形で抱き、闇へ紛れてゆくのであった。




──────────




 目が覚めると、そこは見知らぬ天井だった。

決して豪華とは言えないが木製の、簡素な作りの

天井。

 それにあわせてかベッドも木製でどこか懐かしく感じる香りが充満している。

 布団は何かの動物の皮なのか、内側は少し冷たく心地いいが、外側はザラザラしていた。

 触れたことの無い感触が神経を刺激し、完全に覚醒する。


「ここはどこだ?」


 この世界で2回目の感想をこぼし、視線を彷徨わせる。


「うおっ」


 すると……ベッドの端には眩しいほどの白い髪を腰まで伸ばし、触れた瞬間氷のように砕けてしまいそうな肌の、喉が詰まるほどの美人がもたれ掛かり、

 すやすやと寝息を立てていることに気づいた。


「ふぅ……」


 ……落ち着け俺。よし、落ち着いた。状況の整理だ。

まず最初に目が覚めた場所は“暗黒の龍兵団”という厨二集団に滅ぼされかけていて、

 その国が滅ばないよう禁忌に手を触れて俺を、俺たちを呼び出した。


「……その後、何が起こった? 何も覚えてねぇ」


「何も、知らないまま召喚されてしまったのね」


「どひゃうぇ!?」


 素っ頓狂な声を上げ思考し、思考した末に目の前で先程まで眠っていた女性が発したのだという当たり前の結論に達する。


「そんなに驚かなくっても……とりあえず、あなたの名前を聞こうかしら」


 “シミひとつない美しい手”でどこか悩ましい仕草をする美少女を相手にシグレは急速に頭を回転させる。


「俺は、山崎時雨。まだ、この世界のことは何も知らない。だから、俺は俺が助かった事実を差し引いても今のところ君とこの場所を信用はしていない。君は?」


「…………私はレイン・シュバリエローズ。ここの副団長、のようなものを務めているわ。あなた、シグレくんは……これからの予定とかはあるのかしら?」


「若くて綺麗で地位もあるとか泣けるぜ……朧気だが、たしか俺は、なんとか国ガレオンが“暗黒の龍兵団”とやらから危機を脱する為に召喚されたが、何故か助ける気になれなかった。俺は、その“暗黒の龍兵団”とやらを探し出すつもりだ」


 すると、訝しげな顔をする彼女。


「何故か、を聞いてもいいかしら? もしかして、その兵団に親でも、殺された?」


「親じゃ、ねぇ。けど的を外してるわけでもねぇ。唯一の家族、妹の雫はその兵団に攫われたっぽいんだよ。多分死にはしてない。希望的観測抜きにしても、召喚を禁忌としてるこの世界じゃ召喚者は貴重だ。そうだろう?」


「間違ってはないわね。召喚者は特別なチカラを持ってることが多いから……待遇の善し悪しはそのチカラで決まると言っても過言ではないわ。でもなんで“暗黒の龍兵団”が攫ったと、そう思ったのかしら?」


 ナニカを思い出そうとし、頭が痛くなる


「それは、あの男が、そう言ってそれで、妹も召喚されたことを知って……あ」


 シグレは思い出した。自分が甲冑を着た彼らの喉をぶち破いたこと、腕を貫通させた感覚、蹂躙の限りを尽くしたあの日のこと


「は……はぁ……はぁ、はァ……」


「落ち着いたかしら? その妹を攫ったというのは“暗黒の龍兵団”ではないわ」


若干違和感を覚える言い方にシグレは首を傾げる。


「なん、で……分かるんだ? もしかしてお前も関係者か……? だったら、答えろレイン! 今! 妹はどこに!!」


「妹さんの場所は知らないわ。今どこにいるか検討もつかないもの」


煽るような物言いに堪忍袋の緒がキレかけ……


「ようこそ、“暗黒の龍兵団”へ。今日からあなたを私たちの仲間にするわ」


「はぁ……!?」


ちょっと何言ってるか分からなかった。




──────────




 暗黒の龍兵団。なら、ここはそのアジトなのだろうか。


「ここは、暗黒の龍兵団の……拠点、と言うべきかしら。あなたのような子を引き取って、1人で生き残れるように訓練させるのよ」


「ちょっと待て。俺がいつそんな意味のわからねぇ厨二集団の仲間になるって言ったんだ。俺はここを出て雫を探すぞ」


「あら? 妹さんを探すあてはあるのかしら。それとも何も出来ずに外で野垂れ死にたいの? 妹さんは生きているのだし、ひとまずはここで様子見した方がいいと思うのだけれど」


 釈然としないが、レインの言う通りだ。来てそうそう命を失いかけた身、とりあえずはここで……


「……おい、待て」


 ──妹さんは生きているのだし


 彼女は今、そう言った。確かに先程生きている可能性が高いとは話したが、何故確信を持った言い方なのか。


「何で俺の妹が生きてるって知ってるんだ。もしかしてここにいるのか? 龍兵団とやらに無理やり入れさせるために黙ってたとしたら、俺は力ずくで雫と逃げるぞ」


「人族の妹さんはここには居ないわ。本当よ。ただ、鉄脈国ガレオンのような強力な国を潰すのは今の私達だけじゃ無理だから、とある2つの集団を金で雇ったのよ」


 恐らくそのどちらかが妹さんを攫ったのね。とレイン。

 しかし、雇っていたのなら連絡を取って確認するくらいは出来るんのではないのか、とぼやくが


「無理よ。あくまでお金の関係。そもそも雇えたのもお互いの目的が一致した偶然のことだったのよ」


「……………」


 信用はまだ出来ない。だがここで駄々を捏ねていても埒が明かない。

 雫の安否は気になるが……ひとまずは冷静になる事が最優先だろう


「わかったよ、レイン。今の俺は行くあてもねぇただのガキだ。とりあえずは理解はした。納得はしてねぇけど……」


「頑固ね」


「うるせぇよ。……そういや、ここの目的ってなんなんだ? まさかとは思うが、俺みたいなやつを訓練してあとは自由にしてください、だけじゃねぇんだろ?」


「最終的な目的は世界の奴隷制度、亜人差別。それらの常識を全て破壊し多様性を認め合う世の中にする事よ」


「めっちゃかっこいいじゃん……」


 不覚にも心を打たれてしまった。いかんいかん。俺はそんなにチョロくない。そう意地を張るが……


「そうか、奴隷が普通にあるのか」


 日本は平和平和と耳にタコができる程聞いたせいか日本は不平等だ不公平だと言い張る捻くれ者(俺含む)が後を絶たない訳だが……

 そうか、人権を尊重し、奴隷がいない。そう考えたら日本もまだマシなのだろう。


「亜人、については興味が無いのかしら?」


「いやあるよ。大いにあるし。つか俺も多分その亜人ってやつの1人なんだろう?」


「いえ、厳密にはあなたは知能のある魔物として分類されるわ。でも猫族などとまとめて亜人と呼ばれる事が多いわね」


 猫族。これ以上なくイメージしやすい種族名が出てきて心躍るが……聞きたいことはそこじゃない


「レインは俺が異世界人だって知ってるみたいだが、案外異世界人はレアじゃない系?」


「物凄いレアだし、尚更、亜人の異世界人なんて聞いたこともないわ」


「スーパーレアだった!」


 亜人、魔物。爪、翼……ようやく実感が湧いてきたが、せっかく転生したんだ。

 まずは雫を見つけることが最優先だが、チート能力開花させて異世界最強まっしぐらってのもいいかもしれない。


「そういや俺の種族ってなんて呼ばれてんの? 吸血鬼?」


「最弱種族ヴァンピールよ」


「ふざけんなよクソが!!!」


 この世界に来て1番デカい声が出たかもしれない。ていうかなんだ最弱種族ヴァンピールって。男心くすぐる名前なのに?


「ヴァンピールって弱い種族なのか? 強そうなのにっ!!」


「微妙に精神年齢が下がった気がするのはこの際置いておくけれど……そうね。

通常、人族よりも筋力は少なく、身体も脆い。ヴァンピールは眷属の数に比例して強くなれるのだけれど、今は眷属の呪いをレジストする魔道具が出てきてから力は皆無と言っていいわね」


「俺の異世界チート路線が……」


 すると、未だにシグレが潜っていた布団とベッド(意外に心地いいのだ)に揺れが生じる。規則的な揺れだ。足音……?


ドバン!!


と、勢いよく扉が開き、心臓が飛び跳ねた。


「あ、レイ姉だ!! おはようレイ姉!! わ! その子誰!? 新しい子!? わーい!! 私ウリエル!! よろしく!!!」


 太陽に輝くオレンジ色の髪をツインテールにし、パッチリしたお目目は青色に輝いている。その耳はピンと尖っており


「え、え、もしかしてエルフ?」


「あら、この世界に来てまもないのにエルフ族を知ってるのかしら?」


「知ってるも何も、俺の元いた世界じゃエルフはそりゃあもう崇めたてられてたぜ。中学生んとき馬鹿みたいに沼ってたネトゲとかで」


「ねとげ……? そう……嬉しいわ! ありがとう! あなたは?」


「山崎時雨だよ。好きに呼んでくれていい。あとこんななりだが多分君より年上だよ。いくつに見える?」


「ヤマか!! そうかそうか! 私より年上か!! んー……150歳くらい?」


「待って、君いくつ……?」


「32歳!! まだまだ子供だよー」


う、うわぁ…エルフ族、合法ロリ製造機じゃん…


「25歳です。よろしくお願いしましゅ…」


「……急にしおらしくなったわね」


 そらそうだ。前の自分より見た目も態度も幼くて、健気で無邪気だと思った相手がなんと合法ロリおばさんだなんて。


合法ロリおばさんだぜ? パワーワードすぎる


「むー、今とっても失礼なこと思ってなかった?」


「な、なんでもないよ」


いやぁ……異世界恐ろしいよほんと。




──────────




 その後、昼ごはんの時間らしく腹も減っていたシグレは同行することにした。




 ──そこには亡くなったはずの母がいた。



友達に勧められたものを嗜んでいただけなので、シグレくんのオタクレベルは低めです!!


評価、そして感想のご指摘ありがとうございます( *´꒳`*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 世界観が膨らんできて、ストーリーが動き出した感がありますね。これから大きな戦いの流れになるのかと思うと、ワクワクが止まりません。
[良い点] 他の方もおっしゃってますが〆方が実に良いです。 それとヴァンピールはヴァンパイアとダンピールを 掛け合わせた感じですか? いずれにせよ、先が気になります!
[良い点] 次へボタンを押したくなるような上手い締め方。自分も参考にしたいです。
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