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最弱種族ヴァンピールとして転生した男は妹を探す  作者: 玉子
第一章『異世界』
10/13

第一章 10.『城の生活.1』

最初の方はちょっとした内容の整理です!!

ごめんなさい!



 シグレは、20人にも増えたカゲを消滅させるためもう一度バルカン城のあの庭へと足を運ぶ途中……この異世界へと来た当時のことを考えていた。



 少し振り返ってみよう。まず、後にレインから聞いたが、シグレはバラゴ・シュタインという男が率いる鉄脈国ガレオンの兵達に魔族であり子供の姿となった状態で召喚された。

 しかし、通常異世界人というものは少なくない中、魔族の転生者など一人もおらず、尚且つ子供であるシグレは異例中の異例らしい。ちなみに子供の異世界人は確認されているが、数は少ない。


 その後、何かが作用し理性が吹き飛んだシグレはバラゴ以外の兵を無惨に殺してしまうが、残ったバラゴは聞き取り不可の詠唱(マチルダいわく魔法を悟られないための高等技術だとか)により気絶してしまう。


 目覚めた先は妹を攫った疑いのある暗黒の龍兵団の隠れ家だったが、そこに妹はおらず、攫ったのは別の組織だったと知る。


 32歳のエルフ族である少女(・・)ウリエルに昼食に誘われ、そこには少々残念なおじさんのシャウザール、紫の髪を伸ばす無愛想なルギウス、その弟の濃い紫髪をマッシュにした控えめなミッチェル、歳の割に落ち着きのない獅子族のライジェル、そしてシグレの母と瓜二つのナナ。

 そんな個性的なメンツと出会うが、唐突に襲撃に会いヴァンピールだったシグレは人族に変えられてしまう。


赤髪の魔族ダンブレイズ・ヴェイプスと、

怪しい力を持った仮面の男(後にレインからバラゴではないと聞く)の2人だ。


 監禁したダンブレイズの発言により、雫とルギウスが魔蛇国グロータスに向かったことを知ったウリエルとライジェルは人族となったシグレを置きそこへ向かう。

 魔族だった頃の力を取り戻すため、その方法を考えていると辛口メイドのリリスにより魔法という概念を知る。


 リリスの父は研究者をしており、彼の説明で魔族に戻れる可能性が魔法にあるということが判明し、ちょうど滞在するこの知隣国バルカンで魔法の大会が開催するので参加を決意する。



 しかし魔法を覚えた直後、またしても縛っていたはずのダンブレイズの襲撃に会い、大会は中止になる。それにより大混乱に陥るが偶然境遇が似ていたシグレは彼を完全にでは無いが理解し、無事怪我人も最小限に抑え、事態は収束した。


 そして今、住む場所をバルカン地点からバルカン城へとグレードアップさせ、ダンブレイズの監視役として衣食住を共にする。


おわかりいただけただろうか。


 シグレは行方不明になった妹の雫を探したいだけなのに、短期間でこれほどまでに関係の無いトラブルに巻き込まれている。


 異世界転生というものは1部では誰もが憧れる空想だが、いわゆるチートスキルもなく突然戦場へと出撃させられそうにもなった。何度も死にかけた。

 魔法というものも案外便利なものではなく、魔力を感じることが出来ないシグレには屁で空を飛べる能力の方がマシとさえ思うのだ。……しかし



──(アド)系だけは別だった。



──────────



 鮮やかな橙色の夕日を浴びながら、ダンブレイズ、マチルダ、そして複数人の“影”の前に立ち、眺めていると意図せず冷や汗が流れる。こんなことになるとは、思いもしなかった。


「さぁ、いつでもどうぞ」


 ダンブレイズが声を強ばらせ、覚悟を決めたシグレは少々間抜けな声を出す。


「も、戻れ〜」


すかさずカゲを確認。反応は無い。


──そう、たった今シグレはダンブレイズという、万が一の護衛付きでカゲ達を戻そうとしている。


 通常、顕現させた魔法を戻すというのは赤ん坊が泣くのと同じように自然に出来ることであり、無意識にするものだ。

 逆に無意識に行なうからこそ難しいというものもあるかもしれないが、こちらはその例には当てはまらない。

 魔法によって生まれたものが意志を持ってしまっているからだ。


 自我がある奴らをどう対処するか。それは次にシグレが放った言葉で、空気が一変する。


「……第2段階だ」


「『水鞭(オタ・イプ)』」


 その瞬間ダンブレイズが応じ、水魔法でカゲ達のうなじ辺りを激しく叩いた。真っ黒いカゲに神経が通ってあるかどうかは分からない。

 ただ、気絶、もしくは身体を制御不能にさせ半ば無理やり本体の影へと押し込めば、シグレはなんとかなるのではないかと考えたのだ。


 『水鞭(オタ・イプ)』とは、名前の通り水を鞭の形に変える魔法だが、基本的には戦闘よりも拷問の際に使われる。つまり、人の肌を弾くと激しい痛みが伴うのだ。


 そんなダンブレイズの一方的な攻撃は有効だったようでカゲ達の動きを封じるには十分すぎたらしい。

 次々と足を崩し、自分と同じ形をした生き物(この場合適切ではないが)倒れて行く。

 その様子にシグレはあまり気持ちのいいものでは無いが、仕方がないと割り切る。


「このまま……!」


 すかさず、練習した時のように、カゲがシグレの足元にある本物の影に戻るようなビジョンを思い浮かべ、実行に移す。


──1体目、成功だ


 カゲが襲われたと遅すぎる理解ををするが、戦闘不能に陥った者以外がダンブレイズへと反撃する。

 しかし、本体の身体能力が反映される奴らはダンブレイズにかなうはずもなく、あっという間に全滅した。


 その隙を見てシグレはもう一度、影に取り込む。そんな作業を繰り返し、2体目、3体目と成功させてゆく。そして


──20体目、成功だ。


「はぁ、はぁ……」


「お疲れ様です」


 息を切らし膝に手を当てるシグレに、ダンブレイズはまるで会社の後輩のような言葉を投げかけてくれたのだが、敵だと思っていた者にここまで気を使われるのは違和感がある。


 ヤンキー物の漫画で例えるなら、悪ぶっていたクソガキが主人公にボコボコにされ、途端に態度を改めるそれに近いだろうか。……改めすぎて、この状況は少々受け入れ難いものがあるが。


「にしても、カゲを残らず戻せたことに対しての安堵は変な達成感を覚えるな」


「流石ですね。僕には到底出来ません」


「…………」


 そもそも、これはマチルダの「あんたのカゲ、いつまでおるん?」という最悪の一言から始まったのだ。もし、ダンブレイズが手伝うと言い出さなければ、自体はもっと深刻だったはずだ。


(や、そうでもねぇな)


「……お疲れさん。自分の魔法を戻すのにこれほど苦労がかかるのはやっぱよくわからんけど、もう一回だけ、あの魔法を使ってみてくれへん?」


 静かにその様子を見守っていたマチルダは乱雑に労ってから頼む。


「俺、今、疲れてる」


「今日の夕食、トレンドの内蔵にしたろか?」


「どんな脅しだよ、やるよ!?」


 あの魔法、と具体性の欠片もない表現ではあるが、シグレにはすぐに理解できた。シグレがまともに使えたものなど、あの魔法(・・・・)しかないからだ。


「……『陰惨(アド・エスタ)』」


 中級に指定されている魔法を詠唱し、シグレは姿を消す──否、自らの影ボトンとに沈み、視界が闇色に染まる。

 まるで意識が途切れた錯覚だが、この闇の中の低い天井には複数の光が見える。これが地上の影に繋がっているのだ。


 水中にいるような感覚のまま、そして魚のように思うがままに動くのをいい事に光へと突き進み、侵入する。


刹那、視界が明るなった。


「……ばぁ」


「うひゃ!?」


 マチルダの影に移動し、人をこき使うお返しに驚かせようという悪質なイタズラをするシグレは、可愛らしい声を漏らす赤毛(・・)を見て満足した。


「って、ダンブレイズかよ!?」


「……なんかすいません」


 そんなやり取りを見ていたマチルダは「ちょっと分かったかも……」と零す。


シグレが疑いの目を向ける。と、


「そういやシグレ。あんた年齢偽ってたやろ」


「あ、はい。すいません」


 思わず敬語に戻ってしまうシグレは、もう一度嘘をついていたことを謝罪し、元は魔族だったということを打ち明けた。

 すると、やはり、という顔でマチルダは数秒沈黙し、ある説を唱えた。


「精霊様が嫌っている種族やったシグレが人族になってしもうて、その精霊様も混乱してるんとちゃう?

 もしそうなら魔法が変に作用するのにも説明がつく。で、肝心なのは陰惨(アド・エスタ)とかの(アド)系は普通に成功したってことやけど、これは魔物……ちゃうかった。

 魔族やったあんたが(アド)の精霊にだけ好かれるのかもしらへん、ちゅうことや」


 そして、どうやら魔族は(アド)系と相性が良く、その種族によっては無詠唱、しかも無自覚で使う場合があるのだとか。

 その話をマチルダから聞き、なるほど、とシグレは思った。つまり、この世のどこにでもいるという精霊は、人族の詠唱なら応えるが、

 ヴァンピールの残り香でも残っているのかその使えない対象のシグレに大丈夫なのかそうでないか判断に迷い、半端になってしまう。

 が、そのヴァンピールの残り香は言い換えると魔族の残り香であり、シグレと(アド)系の魔法との相性が抜群だ、ということを言いたいのだろう。


「あれ、でもそれならおかしい。マチルダがビー玉で得意属性とやらを確認した時、特に相性のいいものはなかったって言ってなかったか?」


「……確かに」


「おい」


「んー、まぁでも中々におもろい推測やなかった?」


「誤魔化すなよ……正解には近づいたのかもしれねぇが、そもそも俺はいつか魔族に戻るかもしれないし、本当の目的はそこじゃない」


 シグレの目的は妹との再開であり、最初から変わっていない。ただ、ダンブレイズの件など関係の無い問題に巻き込まれすぎているだけだ。


 とにかく、カゲを戻すことができ、魔法も取得し、今やるべき事はやれたはずだ。


……ライジェル達の帰りは、まだだろうか?



──────────



 バルカン城の中の下層は、広々とした円型の空間で、階段が螺旋状になっている。

 一見塔のような作りにも見えるのだが(実際外から見ればこのパラスは塔にも見える)上を見上げるとすぐに異質さに気づく。

 天空まで届いているのでは無いかと錯覚する程の高さに、螺旋状になっている階段が天へ続くにつれて、所々に“隣”に続く扉がある。

 城壁の中に空間があり、繋がっているのだろうと予想出来るが、つまりそれらが2階エリア、3階エリア、となっているのだろう。


 メイドは想像していたよりも人数が少なく、まだ全員で3人にしか会っていない。

 シグレ達が向かうのは、グリモン王直々に案内された軟禁用の客室の6畳半はある部屋なのだが、その階へ上がる途中、メイドの1人である30代の女性が、刀のようにピンと背筋を伸ばしたまま話しかけてきた。


 どうやら、カゲを戻そうと一汗流すシグレ達を懸念して、風呂の準備を整えてくれていたらしく、連れていってくれるらしい。


「暫くここに住むってんだから当然ではあるんだろうが、なんか申し訳ねぇな。ダンブレイズ、あんたも入るか?」


 自然な流れだったはずだが、彼は顎に手を当て迷う仕草をしたあと、言った。


「はい、僕も汗をかいたので入ろうとは思っているのですが、なんというか……あまり見せれるほどのものではないので」


 筋肉が少なく、スラっとした印象を抱く彼は、たくましい身体を持っているわけではないらしい。


「ま、俺だって今は腹筋割れてねぇし、同じようなもんだ。それに俺の故郷では裸の付き合いって言って、互いに何も隠さない姿でいると自然と正直になれる、みたいなもんがあるんだよ。別に気にしねぇから、な?」


「……わかりました」


 渋々と答えるダンブレイズの顔は強ばっており、緊張している様子だった。コンプレックスなのだろうか。




 案内してもらった浴場は、想像以上の広さはあるが、特にきらびやかな飾り付けがしてあることは無かった。

 まるで一般的な銭湯をもう少し広くした感じ……特にシャワーヘッドのような物と石鹸がいくつも設置してある所などそのまんまだ。


 久々の風呂に高揚していたシグレは、とりあえず身体を洗うことにした。

 頭より先に洗うのは、昔から代謝が良いため汗の量が多く、肌のベタつきをすぐに洗い流したいというせっかちなシグレの心に反映したものだ。


 ちなみに、ダンブレイズは今服を脱いでいる真っ最中だ。別に彼が遅いのではなく、単にシグレがせっかちであり、パパっと先を急いだだけだ。


 すると、扉が開く音がした。入ってきたのだろうと簡単な推測をするが、


顔を洗っていたシグレは目が開けれない。



「あ、ダンブレイズ。これってどうやったらお湯が出るんだ? 恐らくここから出てくるってのはわかるんだが、ひねる所がないから分かんねぇ」


 まるで消防車のポンプを縮小したような形をしていたが、どういう仕組みで動くのか理解出来ない。


「……えっと、普通に突起に触れるだけで水は出ますよ。左がお水で、右がお湯です」


 すると、風呂に入ったことが無いのかと怪訝な声音でダンブレイズは説明する。


 視界が見えないまま、突起というものを探しおろおろさる。と、なにやら触れたことのない感触のモノを見つけた。


「…………」


(なんだこれ柔けぇな……無機質な壁だったはずだが、異世界ってほんと不思議。どこに触れたら出てくんだよ。ん、この突起か?)


 思いながら、両手で小さな山を見つける。まるでエレベーターのボタンを押すように人差し指で突き刺してみるが、弾力性があり、指が沈んだだけだ。

 お湯が出てくる音さえ聞こえず、その気配もない。


「……何やってるんですか。こっちですよ」


 ダンブレイズがため息を吐き、途端に大量の雨が降ってくる──否、上向きのままのシャワーヘッドにお湯が放出されたのだ。


 そのまま、肩、手、足、と汚れと共に泡を落とす。

最後に顔をゴシゴシと洗い流し、目を開いていく。


「ありがとな、俺の元いた世界とは……」


 全然違う、と言いかけた口が開いたまま、時間が停止した。……のではなく、目の前に広がる光景があまりにも予想外の出来事であり、とてもじゃないが信じられなかったのだ。


 男にしては声が高めで、男にしては色白く、男にしては膨らんだ胸……


「どうかしたのですか?」


 まるで羞恥心の欠けらも無いように聞かれ、シグレは咄嗟に後ろを向いた。しかし、今は子供の姿であることにより、特に見られていても恥ずかしさは少ないのだろう。


「ダンブレイズ。あんたスライムだったのか……」


「僕はヴェイプス族です。あんな恐ろしいもの達ではないです」


 身体を自由に変化できる空想上のあいつを思い浮かべるが、即座に否定される。


「ダンブレイズ。あんた僕っ娘だったのか……」


「ボクッコという種族なんて聞いた事ないですけど。えっと、何が言いたいのですか?」


(まさか……)


「自分が女性という自覚は、あったりするか?」


「? 僕は男ですよ」


「そんなおっ✕✕(自主規制)がでけぇ男が居てたまるかよ!?」


ダンブレイズ・ヴェイプス。彼は“彼女”だったのだ。


 シグレは思い出す。ダンブレイズが半生を語った際、母のユエルダは普通の男の子(・・・・・・)として育てようとしていた、と言っていたことを。


 シグレは思い出す。初対面だったあの時、女々しいやつだという印象を抱いていたことを。


 シグレは思い出す。先程見てしまった綺麗な肌色の双つの豊かな山を。


……そこで気づく。奴隷商人の総責任者という立場を持ったものなら、魔族の女性が奴隷にされやすいという事実くらい理解しているだろう。

 つまりユエルダは将来奴隷にされないために男として育てていた、と考えれば合点がいく。


そして、シグレは思った。──なんだ、やっぱりこいつも愛されてんじゃねぇか、と。


 そんな、気付こうとしなかった母の愛情が、見えない形でもダンブレイズにもしっかりと注がれていたのだと、安心した。


……そこで、後ろにいるダンブレイズを絶対に見ないようにしながらボソボソとかたる。


「ダンブレイズ、あんたのその……はち切れんばかりのアレはどうやって抑えてたんだ? 服の上からだと完全にまな板だったが」


「あぁ、幼い頃からユエルダのいいつけでして。胸を包帯で巻き付けてると強くなれますよ、って」


「そんな母親が居てたまるかよ!?」


前言撤回だ。多分ユエルダはただの馬鹿だ。



──────────



 あの後、一悶着しシグレが堪らず先に上がって事が済み、夕食で本当にトレントの内蔵を食べかけたり、王宮図書館の本を読んでみようとしたら文字が読めないなどの出来事があったのだが、シグレにとって最大の難関が待ち受けていた。


「ずばり、与えられたこの狭い部屋で2人きりで寝る、という難関だ」


「誰と喋っているんですか」


 子供の姿だからといって純粋なわけではない。あるいは未だ恋さえも経験したことがないという意味では当てはまるかもしれないが、シグレも男だ。

 たとえ相手が100%こちらを意識していなくても、普段通りに就寝するなど不可能に近い。同じ部屋で寝るとはそういうことだ。


「…………」


ダンブレイズの華奢な裸体が脳内に蘇る


「幸いベッドは2つある。大丈夫、大丈夫だ。落ち着こう。お前なら出来る」


「……誰と喋ってるんですか」


「強いて言うなら俺のここに、だよ」


 言いながら、シグレは自分の心臓あたりを親指で突く。困惑するようなダンブレイズは疲れているのか「先に寝ますね」と、中々に見事なベッドに潜り込んでしまった。

 シグレは吟味するように部屋を見渡す。立派なベッドが2つあり、客室としては少々狭く感じる。が、狭いと言っても刑務所の一人部屋よりかは十分に広い。

 シグレも寝ることにし、灯りを消そうと淡い光を放つ天井を見上げる


「これ、どうやって消すんだ……?」


 バルカン地点では灯りなどなく、不便は感じたのだが言うほど気になることでもなく、困ることはなかった。しかし電気がついたままだとどうにも目が瞑れない。


「火の魔石ですので、机にある石に水滴を垂らしたら消えますよ」


 眠たそうに教えるダンブレイズの指す机には、確かに銀色の皿に乗った光る石と、その隣に魔法のランプのような形をした入れ物がある。

 早速手に取り石に水を垂らしてみると、ゆっくりと石の光が失っていき、連携するように部屋も暗くなる。


「……おぉ」


 思わず感心したように声が漏れる。この世界の日常道具は不思議だ。恐らくマチルダの言っていた魔道具とやらに多少関連しているのだろうが……


「…………疲れたな」


 昨日も刺激的な1日だったが、今日だって負けず劣らず衝撃の連続だった。ベッドに潜りながら、シグレは最愛の妹のことを想う。


 現在、雫はグロータスにいるという話だったが今や仲間になった暗黒の龍兵団に恨みを持っている。再開できた時レインを紹介すべきか迷うシグレは、それを鼻で笑いとばす。


それも雫が元気に生きている前提の話だからだ。


「そういえばシグレさんの妹は魔族じゃないんですね」


「シグレさんって……まぁ、とりあえずそれはいいが、俺が元々いた世界じゃ魔族なんて居なかったからな。ここでいう人族か、それ以外の動物だけだ」


「……とても良い世界ですね。僕もそこで生まれたかったです」


いつかレインに聞いた事だが、大きく魔族、獣族、人族に別れるこの世界では、迫害や差別、偏見が当たり前なのだろう。


「あっちの世界でもおんなじだけどな。そうだ、イズが前言ってた知り合いの商人、近いうちに俺に紹介してくれよ」


「……ちょっと待ってください。もしかしてイズって僕のことですか?」


 急に眠気が冷めたのか、ダンブレイズが布団をまくりシグレを睨む。


「長ったらしいんだよその名前。ダンブレイズのケツ取ってイズだ。……修学旅行じゃねぇんだから、もう寝るわ。商人のことは頼んだぞー」


「……釈然としない」


 意図的にダンブレイズを無視し、意外にもシグレは落ち着き払っていた。


(そういや、こういうシチュエーションだと、1つの敷布団の中に2人ってのが鉄則で肩が触れ合い互いがドキドキするものであって、ベッドが別々だと特にドキドキしないな、いや、本音はドキドキしたかっただとかそういうんではなく、もしハプニングが……)


──否、全然落ち着き払ってはいなかった。




【ダンブレイズ・ヴェイプス】


年齢:18歳 種族:ヴェイプス族


紅色の髪を短くし、マチルダのような切れ長の目に高い鼻、スラッと細い足を伸ばしたヴェイプス族の女性。


身体を気体に変えることが可能で、同じ種族でも個体によって機能が違う。ダンブレイズの場合、引火する性質なのだが、本人はあまり理解していない。


自分が女性であることは自覚していないが、自らの身体にはやはり違和感を抱いていた。しかし、魔族だということを知り、その特徴の1つだと今でも勘違いしている。ちなみに恋の経験がない。



──シグレ曰く、たぶん髪を伸ばしたら敵無し。



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