第11話 自由なき国々(七)
青空を取り戻した天空から光が降り注ぐ。人々はそれを仰ぎ、降り立つ漆黒の巨人に動きを止めた。
「あれは日本の兵器なのか!?」
ベクターは手にした杖を落として尻餅をついた。それを尻目に真凛は苦笑した。巨人は真凛の姿を確認しててを伸ばす。ベクターは慌てて立ち去っていったが、祐市には目もくれなかった。
こうして今回の旅は終わった。茉凛はカウンセリングと称して少女の心に輝きを戻した。そのやり方をどのようにするべきかは祐市がビーガルの記憶を便りにレクチャーした。
「リマスターパーツを取り付けましょう」
眠れる少女に大きなヘッドギアを取り付ける。それはリマスターパーツを携帯用に取り外したものだ。ブカブカの姿は異様な光景だが、少女を蘇らせるにはそれでよかった。起動させた装置のなかで少女の脳裏に言葉が響く。
「はじめまして、ワタシはあなた。搬送波生命体です・・・」
その後のやり取りは彼女しか知らない。わかるのはその後に目覚めた少女の気持ち晴れやかだった。少女の母親はいまだにクレームが止まない。そんな母親の手を少女は止めるように力強く握りしめた。
「もういいよ、今はとても気分がいいから」
「もう大丈夫なの?」
「うん、とても楽しい旅だったよ」
「タビ?」母は首をかしげる。
その後の親子についてはSPT社には何も報告がなかった。祐市は終わりの見えない謹慎生活を送っている。公園で一人たそがれる日々。
「なにこんなところに燻っているの?謹慎中でしょ?」
振り返るとそこには茉凛の姿があった。
「事件のことを家で調べると辛気くさくるからね。こういう時は白日のもと見るのがいいかなって、最近感じまして」
祐市は手にしていたクリアファイルを見せる。中には古びたA4サイズほどのメモ紙にリストのように人物名が記載がされている。その後ろには新聞記事のコピー。昔のNYタイムズのようだがコピーが滲んでいて詳しくは読み取れない。ただ、そのなかで見慣れた名前が読み取れた。
「犯人の・・・クロニ?」茉凛は呟く。
「戦時中の児童誘拐事件の主犯だったみたいですよ」
「でも、あの時は私たちがあっていたのは?」
「服役していたようですね、実験体として」
「え?でも、彼は友人を殺されてからずっと研究者として引きこもっていたんじゃ・・・」
「大分、洗脳は進んでいたんじゃないかな。あの場所自体が壮大な研究施設なんだよ。研究者も研究されている。彼はその中で犯罪者の記憶を消されて、被害者の親友という別の記憶を与えられた」
「そんなことしてどうするのよ」
「それができれば、次は国民全員対象になる。彼と同じく洗脳された国民は殺した敵国への憎悪を増していく」
「そんなのあなたの妄想じゃなくて?」
「そうかもね。映画ではサブリミナルの実験もしていたからね」
調査報告をしている最中に祐市の視界は突然とぼやけた。自分の目が自分の身体から離れ別の世界に引き寄せられるような感覚。最近になって覚えた感覚にあわてて祐市はスマホの画面をオフにして、振り払うようにスッと立ち上がった。
「さて、この話はこれで終わり!」
「いいのか?」
「いいのよ。それにあなたはまだまだ謹慎中でしょ?たっぷり反省してちょうだい」
「謹慎が長くなったのも半分は君のせいなのに・・・」
真凛は何も答えずに祐市の背中をトンと触れる程度の軽さで叩いて去っていった。祐市が振り返ったときには誰もいない。丸の内のビル街が続く。ビルの鏡に反射する孤独な自分を見つめ、謹慎中なことを思い出して慌てて自宅に戻る。
自分の家でUber Eatsからビッグマックとナゲットとコーラを注文し、アマプラを見ながらSNSを物色する。エアコンをかけながら外の寒さを忘れて時間が湯水のように過ぎていく。
(快適なものだな・・・)
そう感じた祐市の脳裏にクロニの声が響く。「日本はこれから大切なお客様になる」という彼の言葉に急に背筋がゾワリと寒気を覚えた。洗脳された男の声がまともだというのか。だとすればそれをまともに感じる自分もまたなにかに洗脳されているのではないか?そう思うと食べるのを止め、スマホの電源を切り、ゴロリと横になった。人はなにかに依存しないと生きていけない。何のために生きるのか?
自分の時間が楽しくなくなっていく頭のモヤモヤを取り去るために祐市はそのまま眠りに就こうと目を瞑り、宣うように寝返りをうった。それから4時間はたったと思われるが結局、祐市は寝付けなかった。
-第十一話終わり-
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