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改装記ライブリマスター  作者: 聖千選
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第11話 自由なき国々(六)


その光景に驚きつつ、茉凛は近くの壁にコツンと頭を叩いてみる。壁は無機質な反応しかしない。あの男は本当に壁抜けをしたというのか。疑問に思う茉凛の後ろから肩を叩く手を感じ茉凛は振り返る。そこには壁に消えたはずの祐市の姿があった。その右腕に魂を入れたシリンダーを抱えていた。


 「どういうこと?」


 「自分でもよくわかっていない、だが話しは後だ!」


 そう言うと祐市は茉凛の肩にかけている左手をスルリと下ろして手を繋ぎ引き上げるとそのまま入り口に向かって走り出した。その間、数秒の間があったが、祐市のトリックに唖然として警備員は誰も銃を向けようとはしなかった。


 「何をしている、追うんだ!」老博士の言葉に警備兵が我に返り祐市たちを追随する。


 逃げている最中、茉凛が問いただす。


 「おまえは、人間じゃないのか?」


 「人間だよ、でも色々あってこの世界で自由に動けるみたいだ」


 「まるで異世界人ね」


 「異世界人ね・・・さすがにラノベの読みすぎだな」


 祐市はふと馬暮紘一の姿を思い浮かべた。自分もアイツと同じ怪物となるというのだろうか?「その前にヤツを倒さねば!」そうした思いが自分の脳裏を駆け巡った。慌てて逃げ込んだ先の道具倉庫に逃げ込んだ。映画の撮影道具の他、先の時の猿も檻ごと煩雑に置かれていた。


 「今度は逃がさない!」


 追っ手の警備員は2人を見つけ、銃を向けて今にもトリガーを引こうとしていた。しかし、その若者は急に銃を持ちながら両手で耳を塞いだ。それは周りの警備員皆がそうだった。


 「どうしたと言うのだ?」祐市は呟く。


 「逃げるぞ!」茉凛は試験管を脇に抱え祐市の手をとるとそのまま部屋を脱出した。


 光る魂は未だに微細な振動を発している。茉凛のスマホを握る姿を祐市は興味深く見つめていた。


 「もしかして何かしたのか?」


 「ちょっとだけ、ヒーリングミュージックをかけてみただけよ」


 「何も聞こえなかったけど」


 「モスキート音に当たるからね」


 茉凛のことを聞いて祐市は自分が子供ではないことを悟り立ち上がった。もう若くはない。やるべきミッションをイヤイヤと喚くわけにはいかない。祐市は気を引き締めたが、追っ手の警備兵は後には続かなかった。倉庫の扉から外の様子を覗くと他の警備兵は皆一様に外の向かっているようだった。


 「怪物が現れたって?」


 「こんなところで油を売っているわけにはいかん。急げ!」


 そんな声が聞こえる。祐市は咄嗟にビーガルの事だと察した。そうなると祐市たちが建物の外に出ることは容易だった。出口の周りには野次馬が広がっている。その渦から身を屈めて、漸く外に逃れていくと空を見上げた。天空は次元の裂け目がついたようなフィルムの傷が辺りを赤サビにして拡がっていく。その中から次々とサビのモンスターが産み出されていた。逃げ惑う人々の悲鳴とコルセアをはじめとした戦闘機の爆音がけたたましく鳴り響いた。


 (どこだ?ビーガル!)


 祐市はフィルムの傷跡の中を目を凝らして腕を伸ばした。その光景を真凛は怪訝そうな眼差しを向けている。

しかし、祐市は確信を得ていた。その眼差しの先にある漆黒の戦士が存在していることを。その戦士もまたこちらに向けて鋼の腕を伸ばしていた。祐市がカッと目を見開くとその身体は光速で引き寄せられた。次の瞬間、祐市とビーガルは手を取り合い、お互いが存在していることに笑みを浮かべた。


 「すまない、サブリミナル効果は防ぐことはできたが、ここの箇所がこのフィルムでいちばん傷みが激しいところみたいだ・・・」


 「もういいよ、必要なものは取り返した。このサビも除去して早く帰ろう!」


 二人の気持ちは重なりひとつの戦士となった。


 (コアはどこだ?)


 という祐市の疑問を待たずしてビーガルは左腕を構えるとウイングアームレッドをバイク型に変形させた。そのバイクに乗り込んでいる祐市は眼下に広がる景色を気にせずに前だけを見つめ続ける。アクセルを吹かして飛び出したマシンの軌道は光の帯となり、亀裂の走ったフィルムの傷に対してクロスするように線を掛けた。


 (まだまだ!)


 マシンはそれだけに止まらず祐市がハンドルを右に切り続け加速を更にかける。フィルムの傷口を縫合するように光の帯をグルグルと巻き付ける。傷口の端から端へとマシンを進ませて上昇する。光の帯の締め付けに抵抗して傷口は拡張と収縮を繰り返すが、遂にはその傷は癒えて光の粒だけが昇天していった。


お読みいただきありがとうございます。次回もお楽しみに!!

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