第10話 レジェンド統一王座決定戦(六)
豪金剛は応接室という場所が嫌いだった。そこでじっとしていることに耐えられない。しかし、ジムの会長の命令とあればそれに従わなければならないと思うと余計に尻がムズムズしてくる。
「安心しろ。次もお前は勝てるさ。1時間中継が終わる7時49分に相手選手が隙を見せてくれる。その時に君の豪快な投げ技を決めればいいんだよ」
この命令も絶対だった。豪金剛の目の前にいるテレビ局のスポンサーの社長はタバコを吹かしてそう語った。豪金剛は聞き入るしかなかった。子供たちにもヒーローである豪金剛がピンチの後に最後の一手で逆転勝利となればそれでよいのだ。あれがヤラセだと噂するものはそう語らせればいい。全ては視聴率をとれる番組として演出することが肝心なのだ。
「こんなこといつまで続けるんだ」
テレビ局からジムへの帰り道に豪金剛はジムの会長に口をこぼした。
「何を言っているんだ。こうしてスポンサーさんがついておるんだからファイトマネーも沢山入ってお前さんが儲かるんだ。それに俺のジムも建て直せている。これ以上、何が不満なのか!?」
ジムの会長は肩を膨らませて怒りを露にした。戦い以外でここまで怒鳴られることはなかった豪金剛には理解が追い付かなかった。分かることは自分が必要とされているものは強さだけではないということ。どんなにチカラを付けたところで屈するしかないときもある。
本当の強さとはどこにあるのか?その悩みを行きつけの居酒屋で愚痴りながらひとり強めの酒をの飲む。
「最強の男の悩みはよく分からないものだな」
カウンター席のとなりに座る男は声をかける。既に数十杯流し込んだ焼酎影響で男の姿はぼやけている。
「ヤラセではない真剣勝負ができるところなら知っている」
現実と寝言の中間で豪金剛は男が妙な誘いを持ちかけていることを心地よく聞いていた。男の声は子守唄のように低く囁いていた。
案内された豪金剛は埠頭の近くにある小さな雑居ビルを内にある古い事務所でとある契約を行った。周りには厳つい目付きと傷を多分に含んだ顔をした男たちが取り囲んでいる。誰もが内ポケットを膨らませている。恐らくはチャカであることは分かっていた。
【闇賭博】
リングの会場までは目隠しで案内された。そこの観客は政界や財界の大御所ばかりが顔を揃える。皆が生死を賭けた真剣勝負を見に来ていた。試合は確かに真剣勝負だった。対戦相手はナイフや鉤爪などを忍ばせて豪金剛を殺しに掛かってきた。豪金剛は相手の攻撃による刺傷を受けながらも致命傷を躱して得意のバックドロップをお見舞いした。
(この傷は会長には見せられないな)
豪金剛は勝利を実感しながらもそこでも満足いくことはなかった。ジムの会長を裏切る行為。それに見に来る観客が政財界の大御所ばかりで闘鶏を見るかのような蔑んだ目ばかりが背中を差し寒気がした。結局はお偉方に屈するしかない構図。何をしても自分が持つチカラよりも強い権力に屈する構図が感覚的に理解し難い。この後、豪金剛はこの一試合を最後に次の試合をしていない。
「だから次の試合を案内に来たぞ!豪金剛・・・」豪金剛の回想に割ってはいる男がいた。修練の場のリングサイドからヒョコっと顔を出して豪金剛の顔をチラリと見た。
「お前はあの時の?」豪金剛は瞬きをして気づいた。
「どういうことだ?」祐市は顔を出した馬暮に気付いて、問いただした。
「俺が豪金剛に手引きしたんだよ」
「馬暮・・・まさか、お前が闇賭博の斡旋を?」
「お前も調べていただろう?彼が闇賭博に参加していたことを。豪金剛は強さを求めていたからそれに答えただけさ。それが今回、俺がこの世界に与えられた役割なんだよ」
「馬暮・・・お前は!」
祐市は怒りを込めて右手を振り上げた。
(シャドーライザー!)
「ここは僕が何とかします。あなたは逃げてください」
「俺に逃げろと言うのは随分と嘗められたものだな」
「すまない、あなたの恨む気持ちも分かるが、この男だけは僕が決着をつけなくちゃいけないみたいなんだ」
「宿命の相手か・・・」
「そう言うことかな。あなたは最強になることだけを考えてくれ。これは僕とアイツの最低なヤツ同士の戦いだから」
祐市の説得に豪金剛は苦笑した。
「安心しろ、あなたは最強なのは未来で僕が証明しますから」
「なら絶対に勝てよ」
そう言って豪金剛は去っていった。託されたリングには祐市とビーガルと馬暮だけが残った。
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