第9話 夢のあと物語(六)
ビーガルが生み出す影のゲートを抜けて4人は施設の中へ入った。これが今回のビーガルが知りうる情報だ。
「本当に何でもありだな」
中にいた老人たちは怯えていたが、危機感を気にせずに顔を出した祐市たちに手を上げたりしてアピールするので、祐市は落ち着かせるように手を下げる仕草を見せる。
「人質を助けに行くからな!どうすればいい?」と牧田はツトムに問いただす。
「そんなことしても無駄ですよ、この映像の世界で現実と違うことをしても、実際の現実は変わらない」
「この世界を変えるんじゃない。コイツらを変えるんだ!」祐市の忠告に牧田は反発した。小声だが、強い意思をもって祐市を睨む。
「ツトム、犯人のお前が、今度はコイツらを救うんだ!こい!」
牧田はツトムの手をとり小窓の中へ滑り込んだ。そしてソロリソロリと中に入り、人質を見つけては救助させる。犯人=ツトムらしき少年の姿は見えない。
「そっちに行ってはダメだ!」かき集めた集団とは反対の方向から甲高い声が聞こえた。牧田がそこにいたのはツトムがいた。精悍な顔つきをしていた少年だが、そばで怯えている男の過去の姿だとすぐに解った。
「なんだ・・・!!」
声をあげようとする祐市に突如として違和感が襲いかかる。背中から刃物のようなものが突き刺さる、いままでにない感触があった。ドスンと聞こえたようだった。そしてその場に倒れた。落下する祐市の目の前にナイフをもった少年がいた。それは先ほど救出した美結の兄である拡樹だった。
「邪魔しないでくれる?僕のゲームに」
拡樹は少しムッとしていた。少年の気持ちは祐市には計り知れないが、ナイフにはサビがついていて、それがこの世界の劣化の要因となるコアであることが解った。
「じゃあ、真犯人は・・・」
ぐったりと倒れる祐市。倒れた床には血の池が広がる。「いやーーーッ!」という現代の美結の叫び声がこだまする。それから祐市の血の池の周りを黒い影が覆った。その事を牧田は見逃さなかった。黒い影は祐市をも包み込むとワームホールのようにその身体を移送した。
(ヤツは死んだのか?)
戸惑う牧田の耳には「カチャ、カチャッ・・・」とバタフライナイフの刃を出し入れする音が響く。牧田はそれを書き消すかのごとく舌打ちする。手だてを見いだせない牧田の前に、一人の男が立ちふさがった。それまで怯えていた現在のツトムだった。
「おい、やめろ!余計な刺激を与えるな!」
牧田の声にも耳を貸さずにジリジリとツトムは拡樹に向けて歩を進める。老人しかいないと優位に考えていた犯人の思考は乱れ、流れる汗を抑えようと拡樹の瞬きが激しくなる。
「拡樹・・・わかってたさ、最初から。周りから『大人しくていい子』だと評価されて息苦しくなっているのを。学校の校庭でよくアリの巣穴を見てはよくその穴を塞いで遊んでいたね。小学校の飼育小屋のニワトリが全部死んでいた事件の時、教員たちは近所の中学生グループの犯行と断定してたけど、実際は違ったね。だって、その前の日の夜に君は飼育小屋に入って行くのを僕は見てたからね」
「はっ?何言ってるの、おじさん?・・・!」
何をかもを知るこの男の眼を見つめ拡樹はハッと感じるものがあった。その隙をつき牧田が取り押さえようとガバッと腕を広げたが、警戒した拡樹は直ぐ様ナイフを牧田の眼前に向ける。捕まえようと振り上げた手はそのまま万歳に変えて無抵抗のサインを見せるが、拡樹の眼は睨んだままだ。
「おっと、暴力はよくないな。話し合いといこうじゃないか」
「お前たちに話すことなどない!」
「そうかい・・・」そういって、牧田はタバコをふかせた。息吹く煙は禁煙のホームにすぐに充満した。
「理由なき反抗ってやつかい。俺も好きだぜ、あの映画は。でも、こんなことをしてもお前はジェームズ・ディーンになんかにはなれないぜ。俺は知っているんだ。お前の未来を」
「僕の未来だって?なんだって言うんだ」
「そうだな、お前の未来は・・・」
すると牧田は持っていたタバコを拡樹の前に投げつけた。突然慌てて手で顔を払う拡樹。
その隙をついて牧田が拡樹の手を蹴りあげる。手から離れたナイフは宙を舞いホームの壁側に吹き飛ばされた。
手元に転がったナイフは一人の少年の目に留まった。
お読みいただきありがとうございます。次回もお楽しみに!!