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改装記ライブリマスター  作者: 聖千選
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第弐話 歌姫の帰還(五)

ライブリマスター第二話を分割掲載!!

二人の歌手が生み出す新たなる新たなるストーリーです。

 めぐみは祐市の言われた通りに歌いだした。ビーガルに言われたことだ。劣化要因の除去のため記録媒体の世界を維持するために彼女は番組が進行した通りに歌い続けなければならない。それはほかの出演者もそうである。番組進行が粛々と進めば、そこに違和感となる劣化要因のコアが現れる。

 祐市はそれを待った。その間、視線の先にはめぐみのステージがあった。愛らしい笑顔とはにかんだ八重歯が祐市の心にも響いてくる。様々な噂が飛び交っているが、ステージにたつと彼女のスター性は本物だ。

だが聴衆は祐市だけではなかった。カメラクレーンや台車などの影から淀んだ緑色の怪物たちがワラワラと押し寄せてくる。「グシュー、グシュー」とそこにエサがあるかのごとく10体近くの群れがめぐみの周りをゆっくりと取り囲もうとしていた。祐市には臭いでわかった。


 (やらねば!)


 気づいたカメラマンやスタッフたちが驚きおののいて一様に逃げかえった。機材の電源はそのままでカメラはステージを映した状態である。めぐみは祐市の忠告通りに歌い続けていた。左右に身体を揺らしているだけだが、短めのスカートやイヤリングの装飾が揺れる姿が華やかに見える。

 しかし、ステージで彼女が出きることはそこまでであった。時代も70年代の息吹が吹き込まれる頃にはよりステージの見栄えが重視される。カラーテレビがいよいよ普及が本格化され、メイク、衣装、ダンサーに至るまで華やかさが必要になってくる。めぐみは焦っていた。しかし、イヤリングを揺らすことしか彼女の見せ場はない。


 (これではダメだわ。こんなんじゃユリ子には・・・)


 めぐみの額からひとすじの汗が流れ落ちた。当時の画面では映らないほどだが、めぐみ自身も感じていた。プロとして流すことのなかった汗が出ているのは焦りの証拠だということを。周りにモンスターがいて歌い続けることに動揺がないわけではない。しかし、今ある動揺は旧友と比較してのこと。単身で海外に渡りいくつものショーを成功させているのに対して、自分はいまだに大人たちの大きなチカラに頼らなければテレビのステージに立てないというジレンマが付きまとう。歌い続けなければこの怪物たちのようにカビと化すだろう。めぐみはそう暗示をかけて自分を鼓舞した。

 しかし、怪物たちはめぐみの焦りに反応して続々と近づいてくる。その性質をめぐみは気づいていなかった。近づいてくる怪物はエサを見つけたか喜びを大口を開けて示した。ダメだと感じた瞬間にビーガルの聖棍の一閃が走った。


 「焦るな、怪物は焦りに反応しているんだ。落ち着いて、いつも通りでいい」


 「わかってるわよ」祐市の声に対してめぐみは決死に強がった。


 めぐみは親友にしたことが、悪意でなくともそれが彼女を傷つける行為であることを承知している。ユリ子があの時、朽ち果てて醜い姿でこちらみてくる。そらしてはいけないのにまた目を逸らしてしまう。そんな夢ばかりだ。


 それでもめぐみはそんなことを気にかける余裕がないほどに仕事に忙殺されていた。自分の感情とは関係なく笑顔を振り撒いた。自分のセールスポイントがそれだと事務所の役員たちが口を揃えていうものだから少女はその指示にしたがった。

 めぐみの笑顔は人を引き付ける文字通りのスター性を持っている。それは祐市に対しても同じだ。ただ、彼女に近づくほど親友のユリ子の存在を気にしてしまう。


 (今度は彼女を救えるだろうか・・・?)


 自分の息づかいはこの空間を酸化させる。そんなことはわかっていながら思考する度に洩らすため息を数える。めぐみが新曲を歌い終えて司会の俳優のもとへ足早に駆け寄る。映像の乱れはここからだ。ここから先はテープの破損とサビつきで何も確認できない。ユリ子の今の姿を知る貴重な資料にもなるがそれが解りかねる。もしかするとその闇自体が彼女の今の姿なのではないか?めぐみと自分にむけた恨みのかたまり、それが形となってここに立ちはだかっているかのよう。祐市は身震いをおさえきを引き締める。


 (この闇を取り除く!)


 祐市の思いは決まった。「祐市さん!助けて!!」めぐみの声がする。


 「めぐみ!!」


 祐市の指示通りに歌い終えためぐみを激励するかのように一人の女が現れた。多くのスタッフが逃げまどうなか一際目立つドレスの姫君が怪物の前にザッ、ザッ、と歩み寄る姿を祐市はみた。玉枝ユリ子だ。


 (彼女はサビの怪物ではないのか?)


 祐市の理解が追い付かない。彼女のまわりには未だ多くのカビの怪物が犇めいている。そんな怪物をすり抜けてユリ子はめぐみの前に近づいてくる。


 「怪物が見えないのか?!」


 祐市の声にハッとするものの女の視線はすぐに怪物の方に目を向ける。


 「ユリ子だわ・・・帰ってきたのね」


 「えっ?」


 祐市の判断がつく間もなくビーガルは怪物を得物で叩き伏せた。そこにいた怪物は純然たるサビであって人に纏わりついてできたものではない。


 「大丈夫か?」


 「えぇ」


 めぐみは安堵して肩の力を抜くものの、誰にも聴かれない程度に舌打ちをした。


 「待っていたわ、ユリ子。今度こそアンタを消してあげる・・・」


お読みいただきありがとうございます。次回もお楽しみに!!

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