第壱話 曾テカラノ招待狀(六)
ライブリマスター第一話を分割掲載!!
取り扱うフィルムは遠岡傳十郎主演の『村雨放浪記』だが、この話は同じ結末となるかは果たして・・・?
天守閣となる最上階となる階層にひとつの扉が行く手を遮っている。
(邪魔くせぇ!)
遠岡は恐れを知らずに足で叩き入る。そのなかにいる大ボスを一刻も早く確かめたい想いからだ。しかし、中にあったのは喧騒が止んだ和の空間だった。
だだっ広い大広間を見回すと柱の木の質感やさらりとした畳の足触り、床の間に飾られた花瓶や掛け軸といった小物にいたるまで敵の城にしては暖かみのある室内だった。まるで誰が来るかを知って客人を向かえているようだ。
「なんだ、誰もいないじゃないか」
「いや、これは俺の初めての主演映画、村雨見聞録のセットだ」
「えっ?」
「俺のことをアイツはよく観てたんだな」
遠岡は自分でも思いもかけないことを頭によぎらせた。ともかくこの部屋でたむろする暇はない。この部屋から伸びる回廊の上にある階段を上る必要がある。
「敵の配置は理解している、作っているのがあいつならな!」
「えっ?なんのことです?」
「答えはこの柱の上にある!!」
遠岡は徐にトンと柱に手を触れた。漆塗りと思われる赤いツヤがヒンヤリと肌に伝わり遠岡は身震いする。
(どうしてアイツなんだ・・・)
どこからか花島の声がする。二人はキョロキョロと周りを見渡して声の出所を求めた。
(あそこだ!)
遠岡は太柱を指した。その後ろにまわると柱の中に生気が抜けて朽ち果てた花島の姿があった。柱からその記憶を吸い取りこの記憶の空間を再現させていたのだ。
「カッ!!」
遠岡は花島を救いだそうとその柱に刃を向けたのを祐市は止めた。
「何をするんですか!」
「コイツを引きずり出すんだよ」
「城と連動しているんですよ。下手に引き抜こうとして彼に万一のことがあったらどうするんです」
「映像世界の人間などどうなろうと構わないんじゃなかったのか?」
そう言われて祐市はハッとした。この世界の人間に気を遣っていることが、自身が冷静さを欠いている証拠だと気づかされて恥ずかしく思えた。その時、轟音か地響きと共に到来した。まるで柱を壊されることを嫌がるかのごとく。それを祐市は見逃さなかった。しかしそれを確信する間もなく祐市と遠岡は天守閣から天空へ吹き飛ばされた。舞い上がる二つの身体。祐市が見下ろすと城の天守閣の窓から牙が剥き出したような姿となる。
(城自体が巨大な怪物だったのか・・・)
「キロキロキロキロ・・・」
不気味な金切り声が城の怪物の中から聞こえてくる。それは花島が埋め込まれた柱を振動させているようだ。祐市に不穏な寒気を感じさせるその声はその予感の通り振動から超音波を発生させて場内のサビを集約させて解き放った。吐き出されだサビの洪水はすべての光を奪うかのごとく何もかもを鈍色に変えていった。
さびた!すべてが朽ち果てて腐っていった。
城自体が巨大なサビの怪獣であることを認識したのは全員が振り落とされた後の事である。それでも、天にそびえ立つ遠岡の刀のが刺さったままなのが見える。それだけ手入れされた刀は艶やかだった。その艶だけがこの荒廃した世界を救えるかもしれないような光を煌めかせていた。
遠岡が右腕の刀の鍔を左頬に近づけて身構える。いつでもトドメの一撃を加えようという体勢だ。サビはその巨体に似合わず最上階の窓の塀から屋根へピョンピョンと跳ねた。中には枯れ葉が詰まっているのだろうかと遠岡は類推しつつ、自分が同じように跳び跳ねられない苛立ちで下唇を噛んだ。
「遠岡さん助け出せましたよ!」
となりで祐市が声をあげたので我に返り振り返ると肩にもたれ掛かったままぐったりと項垂れている花島の姿があった。
「この柱がすべての現況か?」
「ええ、花島さんの記憶を読み取っていたようです」
「なら破壊するしかないな、ビーガル!!」
祐市の呼び掛けに呼応してそばのビーガルが聖棍を振りかざすと途端に地震が発生した。上に逃げたサビが城の破壊を妨害しているようだ。
「ビーガル、君は僕の知ってる君じゃない。僕に対して愛着がないかもしれないが、これ以上どうすることもできない。教えてくれ!これからどうすればいいか」
「君の知っているワタシのことは知らない。だが、ワタシが知っている能力はただひとつ!」
そういって、ビーガルのパーツは分解され祐市の身体に纏った。鎧の姿に全身を確かめ戸惑う祐市を気にすることなく、その身体はみるみると巨人となっていく。
(落ちる!)
影の姿は西日に照らされてその大きさは50m級の巨体となった。周りを見渡すと錆び付いた街並みが北風に煽られてパラパラと塵と化して待舞っている。瓦礫のはずなのにごま塩のようだ。舞い散る瓦礫の横に目を凝らすと一人の男が落下しているのを発見した。遠岡だ。現実が飲み込めないながらも人を助ける本能を無理矢理呼び覚まし巨体となった自身の掌で男を掬い上げる。
「巨大化したのか?」
「このパーツは君の影に応じて変化する。カメラのピントを合わせるようにこの世界ではその姿を自在に変化させることができるのだ」
「なんでもありってことね・・・」
掌から地上へ遠岡を下ろしてすぐに彼は目を覚ました。そしてすぐにビーガルの巨体に目を見張った。巨人の戸惑う姿をみて、中には祐市の存在がいることをすぐに見抜いた。
(あとはアイツ自身の戦いか・・・)
遠岡の呟きの通り、黒き巨人と赤錆の魔城の肉弾戦が始まった。夕日に照らされて美しさを纏いながら巨人の腕と魔城の腕の殴打が交差する。吹き飛ばされる両者。錆び付いた周囲の建物に身体が叩きつけられてさらにサビの灰が舞い上がる。その戦いは際限なく続いていた。
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