第壱話 曾テカラノ招待狀(五)
ライブリマスター第一話を分割掲載!!
取り扱うフィルムは遠岡傳十郎主演の『村雨放浪記』だが、この話は同じ結末となるかは果たして・・・?
リマスターパーツのなかで祐市は口角を上げた。どんな相手でもにこやかさを出すことで相手は好印象を持ってもらえる。就活時代に教えられたメラビアンの法則の教えがいまだに抜けきれない。できることなら事を荒立てたくないという願いが込められている。
しかし、いつも彼の前には予期せぬことが起こり笑顔をキープできない。今回もフィルムの世界に入ってすぐにそれは起こった。
「はじめまして、私の名はビーガル・・・搬送波生命体だ」
「はじめまして?・・・って3日前にあったばかりじゃないか」
「3日前・・・私は君と接触するのは初めてだが?」
異生体は話を続けた。裕市がこの世界に接触すれば世界の危機を招くことを諭したが、それも以前に話していたことである。だが裕市には異生体が冗談を言っているようには思えなかった。ビーガルと接触することで彼の記憶はリセットされてしまうのだろうか?それとも全く別の存在か?誕生するいわば突然変異の生命体だ
裕市が再びフィルムの世界に飛び込んだとき試写で見た映像世界とは異なる様子が映し出されていた。
「ここは地獄か・・・?」
そこにある魔城は常に燃えていた。形づくるのはサビと思われるアカ褐色だ。その鈍色が祐市の腕から肩にかけて寒イボを付けて走らせる。
「少しは気分が晴れたようだな」
遠岡は引き続き祐市を迎え入れてくれた。彼の記憶はリセットされていないようだ。祐市は何事もなかったかのようににこやかに振り返った。
「えぇ、休養してリフレッシュしましたから」
「何かにこの状況を解決できる手でも考えたのかい?」
「いえ、でもわかってることはこの世界は狭くて息苦しい。この世界を修復しても、結局は僕の世界じゃないということです。愛着が沸かない」
「そんな世界によく戻ってきたものだな」
「これが僕の仕事ですからね」
「そうか・・・」遠岡は祐市に顔を見せないようにしてニヤリと右の広角をあげた。
「あれは?」
「一晩たったら築城されていた。元々セットを組む予定だったから手間は省けたがな」
そういうと、今度は「フンッ」と苛立ちを見せた。映画の中盤で映し出される安達藩の城のセットが登場するが、組んだそのセットの全景が炎上しているのである。敵の居城が燃え盛るシーンはクライマックスの時でそのまま「終」の文字が映し出される。
場内へはすぐに入ることはできた。敵は城の内部に犇めきあっているのだろう。土足で階段を駆け上がり内部へ。城の中でのミッションは簡単な話し城内のサビをすべて葬る。この世界の人間では容易に達成できるものではない。しかし、遠岡はそれでも余裕を見せた。
「この刀があればなんとかなるさ・・・」
「その艶を出しているのはサザメ柿か?」
「ずいぶんと調べたらしいな」
事例は少ないが柿のエキスは木材のサビの腐食防止に使われるという。遠岡が別荘に選んだのは軽井沢から少し奥張った小山にあり人通りも少ない。落ち着くには絶好の場所だが、道も要り組み不便が勝る。そんなところを彼が選んだのにはこの柿の存在があったことにもよるのだろう。その柿を粉末にして加工したものを遠岡は撮影の合間に刀の手入れに使用していたのだ。
(手入れされた刀はサビの怪物に対応できる唯一の手段だろう。しかし、サビにやられれば最後。刀が無事でも本人が怪物に触れてしまえば、腐食は免れない)
それは本人も理解しているようだ。
「お前さんはどうするんだ?」
遠岡の声に応えるかのように祐市は左腕に右手を掛けた。
(シャドーライザー!)
祐市の影から伸びた先に一人の黒き戦士が飛び立つ。ビーガル姿は前回と同じだが、その記憶はリセットされている。自分の影から現れたものの、今だこの得たいの知れないものを信用してよいのか祐市には疑念が残る。
「しかし今は彼に頼るしかないか」
「また、守護神任せか。お前さんもあの怪物に触れられればただでは済まないだろう?」
「僕はこれでいいんですよ。ビーガル、リヘッドラムカジョルを」
「何のことだ?」
「知らないのか?叫べば聖棍が放たれる。君がそうしていたじゃないか」
祐市の言う通りにするとビーガルの手には当然ながら聖棍が現れた。ビーガルはその場で固まった。搬送波生命体と言う超越した存在とは思えないほどの戸惑いは祐市にも感じている。
「本当に知らなかったみたいだね」
「素晴らしい。君はワタシの知らない力を知っているのか・・・」
戸惑うビーガルたちをみて遠岡は苦笑した。
「そんなチグハグな相棒で戦っていけるのかよ?」
「で、出来ますよ!!」
祐市は強がった。実際この後、襲いくる敵にはビーガルが対処した。戦闘の記憶までは失われてはいないらしい。サビを根絶するそのプログラムは共通しているようだ。祐市はその後ろを殿様気分でついていくだけだった。それが遠岡には気に入らないことだった。しかし、祐市にはビーガルとの連携がうまくできるかという懸念点ばかりが気になってしまう。そして天井から枚散るサビの雪。この城自体が腐食している証拠だ。いつ崩れるかわからない。
サビのモンスターはその雪と共に飛びかかってきた。重量感のある怪獣のような姿をしているが、実態がサビの塊のためか両足と尻尾をトンと叩けば3mは余裕で飛べる。
城の内装は4階層となっていてひとつの上った階段の向かい側に次の階段があった。ただし一般的な城とは違い場内が広く天井が高い。怪物が飛び上がれるほどで洋館のダンスホールのようだ。
サビの怪物は1階ごとに10体ほどいてそのほとんどはビーガルの手にした聖棍で叩き潰した。
しかし1.5mほどの聖棍の大きさゆえ小回りが利かない。攻撃の隙をつき1、2体ほどがビーガルに爪を立てる。遠岡はそれを見越して自身の刀を振るった。
刀を突き刺された怪物はその刃の浄化の力で悶えながら消滅した。刀を振ってふたたび鞘に戻す。その一連の流れに祐市は固唾をのんだ。
「行こうか、次へ」
遠岡は当然のこととして一呼吸おいた。
お読みいただきありがとうございます。次回もお楽しみに!!