第7話 AR(拡張現実)島への挑戦!!(七)
今回のお話のSF考証で参照した資料を後書きに記載します。
参考していただければ幸いです。
(七)
「とにかく手当てを・・・。」
「この島が危険なら避難勧告を出すべきだ!」
様々な憶測が飛び交い樅乃山の本部は人々の声でけたたましい。様々な人々が交錯する中、ツカツカと一直線で倒れ込んでいる諸角に詰め寄る男がいた。次の実地調査を予定しているケミテックの宮下である。
「随分と大ごとにしてくれたな・・・。開発の予定が大幅に遅れたじゃないか。」
「・・・そんなこと言っている場合じゃないだろう。」
宮下の憤りを諫めたのは側で手当ての手伝いを行う大杉研究所の大杉だった。救護を受けて動けない梶間も動けない状態であったが、大杉の発言に賛同して無言の笑みを浮かべた。
「現にこうして被害者も出ているんだ。」
「現場の検証も行っていないうちから大ごとにして騒ぎすぎだ。行方不明者の捜索にあたっているなら後は彼らの手当てを済ませれば、すぐにプロジェクトを再開させるべきだ。」
「この状況でよく事業開発を優先できますね。」
「我々の会社の活動はひいては社会貢献にも繋がる。木道涼子のような自分の息子の事での私情に走った研究とは違うんだ。」
宮下は大杉のアドバンスドAR社時代の経歴を知りながら、あえて木道涼子の名前を出した。大杉は一瞬、言葉をつまらせた。
混乱はなおも続く中、国土交通省からホットラインで連絡が入り八尾須美島の避難勧告であるレベル3が発令された。全員退避であるレベル4でないことに島内では更なる動揺が広がった。不測の事態であったことと省庁本部との連絡の齟齬で発令レベルが引き下げられたことが原因であった。
「もういい、続きは我々が入る。」そう言って、宮下は自分のメンバーにプロジェクトの決行を指示した。
「そんな、省庁も避難勧告を出しているんですよ。」大杉は再び食い下がる。
「避難指示のレベル3だ。高齢者以外はまだ問題ない。」
「そんな・・・。」
大杉は呆れた。と同時に目を閉じてひと呼吸おいた。それは我の強い相手と対峙した時に行う彼の処世術だった。そうすると大杉は少し言動が大胆になる。
「わかりました。では、私もあなた方のグループに帯同しましょう。その社会貢献とやらをぜひとも拝見したいものです。」
「そうですか・・・ならば勝手にすればいい。」
「皆さんが勝手な行動をされては困ります。それでは・・・。」
現地参加した国土交通省・係長の小野田がいいかけたところを仁王は人差し指を口に当てる仕草をして黙らせた。仁王が見るに宮下は好景気を知らないロスジェネ以降の世代だ。政府の言うことに信頼も期待もしていない。彼らの事業が成功したのも自分自身の手で切り開いてきたという自負が強い。それゆえ彼らは自分の見聞きしたものしか信用しない世代だ。
「これ以上は実際に本人たちが見聞きしてもらった方がいい。」
また一方で、祐市はこの状況下でリマスターパーツの実用実験の準備に入っておりすでに両腕両足に漆黒の鎧を纏っていた。
「ひとつ聞いておきたいんだけど・・・デジタル画像が劣化することってある?」
祐市は夕方遭遇したサビの怪物を気にしていた。思い返すとその怪物はこれまでと異なり茶褐色の表面が太陽に晒されてやや青みがかっていた。アナログ媒体で遭遇していた時との違和感はそこにあった。
思いもよらぬ質問に周りの皆が目を丸くして祐市に視線を送る。だが、ただひとり画面越しの男は目を瞑って考え込みやがて見開いた。ラボ調整室長三崎である。彼は今回のプロジェクトはリモートで参加していた。
「それはレーザー腐食と言うやつかな?」
「レーザー腐食?」
「詳しい原因はわからないけど、記録内容はデジタルでも焼き付けている円盤がモノである以上、物質の酸化や傷みの危険に晒される。記録すればそれで終わりじゃなくてその後の手入れも必要なんだよ。」
「なるほど・・・デジタルであっても劣化して怪物化するのか・・・よし!」
祐市には三崎の発言の全てが理解できなかったが、自分の戦うべき相手について理解しこの離島のイレギュラーの状況の中、戦うべき相手の片鱗を見出して安堵しながらすべての鎧を装着した。
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回の参照記事を以下に記載します。
避難勧告等に関するガイドラインの改定~警戒レベルの運用等について~
http://www.bousai.go.jp/oukyu/hinankankoku/pdf/guideline_kaitei.pdf
Disc rot
https://en.wikipedia.org/wiki/Disc_rot
デジタル情報は永続的に保存できるか?
https://www.kmsym.com/bunken/deta-hozonn.htm
恐ろしいレーザー腐食
http://www.ne.jp/asahi/inagawa/neyubacca/DvdLdRot.html
次回もお楽しみに。
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