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改装記ライブリマスター  作者: 聖千選
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第7話 AR(拡張現実)島への挑戦!!(六)

今回のお話のSF考証で参照した資料を後書きに記載します。

参考していただければ幸いです。

(六)


 「太陽製作所はまだ着かないのか。」


 ケミテックの宮下はイライラを募らせた。ビジネス重視のこの男は時間に対しては特に厳しい。八尾須美島に到着して以降も各学会、企業向けのプレゼン、会議が立て込んでいる。実際、彼が代表を務める株式会社ケミテックがこの島で執り行う事業は多い。開発した導電性接着剤RH22-GZ8sによる土壌拡大テスト、生体を含めた3Dプリント再現、不溶凝固剤での汚染物質の除去など議題も多く、プレゼンだけでもいくつかの企業が彼にサービスのPRも委託されている。


 「宮下さん、時間です。」


 「ああ。」


 同行する桃山の呼びかけで宮下は気持ちを切り替え樅乃山に仮設で建てられたプロジェクト本部の会議室に入っては2〜3時間で解散する。その繰り返しである。


 会議の参加者は企業・研究所の代表者、そして国土交通省、環境省の役員が顔を合わせて八尾須美島の開発に関しての理念共有、各団体の事業・研究に関しての理解と島の敷地での利用スケジュールなどを協議、プレゼンする。


 このプロジェクトの主催企業であるLAR社の佐野もこれに参加し、各機関が提示・要求するプランの審査に険しい表情ばかりが続いている。リマスタープロジェクトのチーフである仁王もこれに参加し会議の円卓で佐野と対面側に座る関係上、どうしても彼の苦悶する表情が気にかかった。


 30分ほど夕食休憩が入ったので、仁王はその食事のために配給膳を受け取り、佐野の隣に入り込んだ。


 「主催者側も楽じゃないですね。」仁王は切り込んだ。


 「あ・・・ああ。参ってしまうね。どこも要求が多いと・・・。そういえば君たちスコーピストはこの島の記録映像の提供として参加していたね。」


 「我々は普段映像修復を主に行っていますが、今後はそれだけに止まらずに新しい事業を展開したいと考えています。この島の開発はその一歩です。私は感謝しています。今回このような場所を提供くださって・・・。」


 仁王の感謝の弁に佐野は眉間のシワを緩めようやく安堵した。


 「そう言ってくれるのは君が初めてかもしれないな。」


 「そうですか?どの団体も口には出さないだけですよ。」


 「そうかもしれないが・・・。若い人たちはみな次世代の技術発展のために苦心している。最近は自分も年を重ねるだけで資産しか残していなかったからな、こうやって開発の場を提供するぐらいしかできなくてね・・・。」


 「素晴らしい決断だと思います。」


 「しかし、どうだろう・・・この島に集まった彼らは?」


 「えっ?」


 「彼らはみなそれぞれがそれぞれの専門分野をもってここで研究開発をしている。だがどの企業も自分たちの開発のことで手一杯で周りが見えていないようだ。」


 佐野は各企業から集められた企画書を手に掴みそれを睨んだ。


 「それがLAR社が今回の案件で追加の予算を投じない理由ですか?」


 仁王の推測に佐野は軽くうなずいた。


 「新しい技術を進めることは結構なことだが、それではここに集まった意味がない。私は期待しているんだ。異分野の彼らが調和したときに産み出される新しい可能性を。」


 「ダイバーシティと言う事ですか?」


 「私は横文字が嫌いでね!」


 佐野は苦笑する。そんな中、祐市と真田が息も絶え絶えにこの集合本部へ戻ってきた。


 「怪物が出た!すぐに退避すべきだ!」


 真田は開口一番その事を伝えた。皆が唖然とする中、真田がこれまでの怪物との遭遇の経緯や、太陽製作研究所の微生物の変貌化などを詳細に説明する。


 かたや祐市は現場に参加していたライブリマスターのオペレーションチームの宝生と山本に声をかけた。二人からプロジェクト調整に使用するリマスターパーツが搬入された事を知り、祐市は「すぐに可動させてほしい。」と要求した。真田はこの異常事態を冷静に受け止めながら不可解な行動をとる祐市に対して疑問点が取れなかった。


 「現場は一体どうなっているんですか?」


 詳細な状況を求めて人々が集まり真田も困惑し始めた時、その群衆をかき分けて藪蚊学会の明日葉チームが太陽製作研究所の諸角班の研究員を背負い雪崩れ込むように戻ってきた。その様相に集まったすべての参加者はどよめいた声を漏らした。明日葉班も諸角班も参加した人数の半分も帰ってきていない。


 「他のメンバーはどうした。」


 「やっぱり怪物に・・・。」


 真田の漏らした一言に明日葉はうなずいた。「やはり・・・。」と一同が顔面を蒼白とする中、その一団をカチ割るように「違う!」と振り絞った声を張り上げるものがいた。諸角の助手の梶間である。


 「二十歳ほどの島の青年に・・・。」


 「何だって!」


 梶間は倒れる最中の状況で、敵がよそ者への恨みの目を向けている事を語った。その話を聞いてLAR社の佐野は動揺してのけぞった。「彼はまだ恨んでいるのか・・・。」そう呟いた佐野は身体を震わせてまるで事情を知っているかのように・・・。その動揺ぶりを仁王は見逃さなかった。


最後までお読みいただきありがとうございます。

今回の参照記事を以下に記載します。


トヨタ、スマートシティー実証都市を始動 2月23日着工、住民360人(日刊工業新聞2020/11/7掲載)

https://www.nikkan.co.jp/articles/view/577608


次回もお楽しみに。




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