第7話 AR(拡張現実)島への挑戦!!(四)
(四)
この島で採掘され精製された半導体には所々、水銀が洩れたような錆び付きが見受けられる。かつて同様の開発が行われた際の腐敗物質が影響していた。それを解消するために新型の不溶剤が投入された。それは水銀だけでなく、重金属やヒ素、フッ素が含まれた土壌にも有効だった。
しかし・・・
「グオオオオオーーーーーーーッ!」
怪物は抗うように雄叫びを発した。ビリッ、ビリッと体のあちこちに電流のような症状を発しているが、怪物はそれを振り払う。
不溶剤は既存の化学に対しては有効だが、このサビついた怪物には通用しない。
「コホ、コホ・・・。」怪物を見た少女は腕で顔を覆い咳を塞いでいる事を祐市は見逃さなかった。
「これも品種改良研究の一環ですか?」
真田は慌てふためきながら祐市に問い詰める「そんなはずはない。」祐市は当然それが異物で知っている。しかし、今回の資料映像はデジタル加工済みである。その資料映像からなぜサビが出現したのか?これはホログラフィではないのか?
祐市はビーガルのいない影を踏んだ。
「とりあえず、こういう場合は逃げるでしょ!」
多くの疑問を内在して祐市たち三人はその場から逃走した。とはいえ、集合場所となる樅乃山からはまだ道なりにして2キロほどある。真田は気を急がせて全速力で走ろうとするところを祐市はその腕を引いて止めた。気を急いで息を乱せば、その酸化を狙ってサビの凶暴性は増してしまう。そのことを知っている祐市だが、その説明は省略した。そして少し歩を進めて岩陰に飛び込んで身を潜めた。
「コホ、コホ・・・。」少女は再び咳き込んだ。
「あれは君の兄さんの化身か?」祐市は咄嗟に質問した。
「あれが化身と言われればそうかもしれません・・・。兄は私が島の工場から流れた汚染水の影響で病弱になった事で人が変わってしまいました。今は島に来る余所者を排除しようとしています。」
祐市は少女の告白がどうにも詭弁に感じられて仕方がなかった。以前にコンサート会場で会った際、(当時の)現代的で陽気な女子高生がこんなに病んだウラがあることが信じられなかった。祐市にはそこまで女心を読めるほどの経験則はないが、人としての彼女は別人としか思えない。
「コホ、コホ・・・。」少女は再び咳をする。祐市はその口元に手を近づける。咳の空気圧は感じない。
「やはり、君はホログラフィーなのか?」
舞は不思議そうに祐市を見つめた。祐市もまた首を傾げる。
だが、その空気をかき消すように、崖は崩れ去り、怪物は再び祐市たちの前に姿を現した。しかし、祐市たちにはそれを打開する手段を未だ見出せずにいた。祐市たちはまだ確保している帰路に沿って逃走を再開した。
「あっ!」
逃げる最中、舞は脚をもたつかせて倒れた。ベタな漫画のヒロインのように。
(こんな時にテッパンな事して・・・。)
祐市は呆れたが、すでに怪物の魔手は舞の身体に振り下ろそうとしていた。咄嗟に祐市は手を伸ばすが、間に合わない距離だ。
「クッ!」
祐市は諦めかけて顔を背けたが、「ガシッ。」「バシッ。」という予想外の打撃音が響いた。祐市が再び目を向けるとそこには巨体を誇る怪物が無残にもダウンしていた。
「兄さん!」
舞は甲高く声を張り上げた。祐市が再び顔を上げるとそこにはやはり見覚えのある男が飢えた獣のように睨みをきかせて立っていた。馬暮紘一。確かにあの男だ!
怪物は再び息を吹き返して紘一に襲い掛かろうとするが、紘一は足をバネのように伸縮させて勢いよく怪物の顎に蹴りつける。そして数発の足蹴を受けてついに怪物は紘一の靴元に突っ伏した。ものの数秒のことである。
「俺の島を荒らすものはどんな奴だろうと許さない。お前らだってそうだ。」
紘一は憎しみを込めた目で祐市を睨み付けた。自分を知っているのは確かに馬暮紘一なのだが性格はまるで異なる。性格の変化と言うよりはリセットされたかのようだ。人格のリセットはビーガルとの出会いで散々していたことでもあるが、そんなことが人間であり得るのか?
彼のなかには形は違えどもそんな搬送波生命体と同質のものを思わせる。
「そんな馬鹿な!」
祐市は自分を否定して心を整理した。
「何をごちゃごちゃと。」
紘一は苦笑する。
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回の参照記事を以下に記載します。
深層断面/バイオ技術によるモノづくり変革進む−人工クモ糸など、生物由来素材の誕生 間近に
(日刊工業新聞2016/6/17掲載)
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00389367
水銀汚染土を不溶化 東京カンテイが実証、処理費低減など訴求
(日刊工業新聞2019/12/10掲載)
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/540971
次回もお楽しみに。
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