第7話 AR(拡張現実)島への挑戦!!(一)
今回のお話のSF考証で参照した資料を後書きに記載します。
参考していただければ幸いです。
(一)
八尾須美島の干上がった壕に川が流れる。導電性接着剤を纏った流れの悪いジェルである。この中には3Dプリンターに使われるシリコンが含有されている。その水はどこからともなく振動を繰り返して島の劣化した箇所を復元する。
島を一望できる樅乃山では今回の“廃島再生プロジェクト”に参加した7つの各事業社、研究団体、大学の代表者が集められ代表者が合同説明会に参加している。庄野祐市が所属するスコーピストも映像提供としてライブリマスタープロジェクトの全員で八尾須美島に上陸している。仁王允もこの合同説明会に参加していた。
「帰魂族の会?そんな団体はじめて聞きましたよ。」
株式会社ケミテックの代表である宮下輝久は声を荒げた。
「申し訳ありませんが一部、国有化を認めていない団体もあるようで・・・。形式的ですが一部同意書を改訂しましたので、皆様の署名をいただきたく思います。」
国土交通省の係長の小野田と職員の水島を連れて淡々と説明を続けて各事業者に賛同を促す。戸惑いを見せる各代表者であったが、このプロジェクトの主催者であるLAR社の佐野猪一郎の「平に頼む。」のひと言とプロジェクト増資の併記で全員は改訂同意書に署名した。日本最大の総合電機企業であるLAR社は今回のコネクティッドアイランドプロジェクトにグループの1/3を出資するほど今回のプロジェクトには並々ならぬ力の入れ具合だ。島の選定も佐野の一任で決められ、廃島の再生に日本のトップの技術者が招集された。
「お久しぶりですね。仁王さん。」
「あなたは・・・大杉社長。」
「いえいえ、僕はもうアドバンスドAR社は辞任しました。あの件でね。今はいち研究員にすぎません。」
仁王は同意書の連名を確認した。『大杉研究所 大杉信也』とある。大杉は先の木藤涼子の一件で経営者としての責任をとり、名もない研究員として再出発していた。
「それなら合点がいきました。」
「そうですか?」
「ええ、島の至るところにAR反映型モニターが点在していました。木藤涼子の件で世間からは批判の声ばかりとなったが、あの装置は技術としては素晴らしいものだ。」
「知っていましたか。とは言っても、あの技術はLAR社に買い取られまして、僕はアドバイザーとしての参加です。」
「そうでしたか。昨日からリマスタープロジェクトのメンバーが島の調査を行っていてレポートされましてね。それでもまた、一緒に仕事ができるのは光栄です。」
「お互いに開発した技術は次のステージに向かっているのですね。」
島のいたるところには以前、見た事のある球体状のスポンジ体を支えるスタンドがある。それは以前木藤涼子が開発したVRスクリーン用の装置である。彼女が逮捕されて以後、主を失ったこの設備をLAR社が引き取り改良、量産させこの島全体にバーチャル映像を投影するプロジェクトに活かされた。
映像の提供はスコーピス社が行なっている。映像の修復からさらに拡張した事業を展開しようとライブリマスターの新たな活動が始まっていた。やがてそのVR装置の試運転が行われ島内調査している祐市と真田の前にも当時の世界が再現された。まるで時代を逆行するかの如く・・・。
真田は無邪気にはしゃいでいたが祐市は寒気を感じていた。記録世界には慣れているはずだが、その世界を現実世界に持ち込まれたことに一抹の不安を感じていた。
「すごい、まるでタイムスリップだ。」
「真田、いくら何でも浮かれすぎじゃないか?」
「だってこんなこと世界初ですよ。人類の進歩の素晴らしさをもっと体感しないと。」
「こんな形で自然をいじるのなんて、人間の傲慢さを感じるよ。」
「そうやって憂いているだけで何もしない大人、沢山いましたよ。」
真田は時折、祐市をドキリとさせる。その度に自分は過去の世界に感化されていることを後悔してしまう。真田とは二歳差であるにもかかわらず老害化していることが自分の思考はどうにかならないものか。
思えば自分は世界の危機を嘆く前に何かを成し遂げたのだろうか?3Dプリンターで構成されたこの島を見渡し当時の質感の再現性の高さを改めて肌で感じた。
「これもまた悪くないと思うか。」
祐市は苦笑する。
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回の参照記事を以下に記載します。
水銀汚染土を不溶化 東京カンテイが実証、処理費低減など訴求
(日刊工業新聞2019/12/10掲載)
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/540971
導電性維持・伸縮性向上の配線材料・接着剤、ナミックスが開発
(日刊工業新聞2017/12/21掲載)
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/455253
次回もお楽しみに。
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