第6話 秘めたる宙へ (十)
(十)
「結局、僕は何もできなかったな。」
黒い流星を見つめてフェルナンドはつぶやく。
「大丈夫です。正史ではあなたは立派な宇宙飛行士として名を刻まれています。」
「後世に残るかどうかなんて関係ない。僕はあの空の先を見たい。何者にも縛られないあの暗黒の世界へ。」
「それなら、もう一度飛べば良い。」
「何を言っているんだ、君は未来から来たんだろ?僕の未来はわかってるだろ。」
「この記録媒体の世界は僕が生きている世界じゃない。あんな怪物は出てこないし影の戦士もいない。後は自由にあなたの自由をつかみ取ればいい。」
祐市に諭された時、フェルナンドは苦笑した。思えば夢破れて親友を失い自分には自由だけが残った。すべてがゼロとなり清々しい気持ちである。祐市はその後のフェルナンドがトレーナーとして宇宙飛行士の後進の育成していく未来はわかっていたが、ここにいるフェルの行先が気になってしまった。祐市はそのモヤモヤの答えを見守らずにこの世界を後にした。
・フロイト:A国公使館付海軍武官
目的:二国間の融和と称した諜報活動。
・ナルス:ポルカ大学教授、宇宙開発局特任トレーナー
目的:宇宙飛行士訓練指導、そして・・・。
ナルスとフェルナンドについて今一度、ノートの筆を止めて考えてみた。二人に友情があったのは間違いないが、それは自分の知る暖かみのあるものではないと思えた。支配するものとされるもの、フェルはモルモットでもあったのか?それも受け入れることで二人は友人となっていたのか。祐市はそれ以上筆が進まなかった。
「なんか、詰まってません?」
真田が声をかける。いつの間にか声をかけるのが自然になっていた。
「どうも、ノートにまとめる力がまだまだ足りないからな。」
「だいたい、まとめるなら業務レポートがあるじゃないですか?今さら紙媒体なんて。」
「いや、手元に置いておくにはこのアナログが一番しっくりくる。デジタルリマスター業務に携わっていながら矛盾しているかもしれないが。」
そうはいうもののノートにまとめることは先程、仁王から勧められたもので祐市は受け売りだ。それでもどうにもこの方法がしっくりいくのは体験した異世界に触れた自分だからこそこの手で直に書き留めたいという思いだからだろう。と、祐市の頭のなかに書き留めた。
「なんか、色々モヤモヤしているなら庄野さんもこれから飲みませんか?部内での飲み会ですけど。」
「あぁ、ありがたいけど今日は家に帰ってもう少しレポートをまとめておきたいから失礼するよ。」
「そっ、そうですよね。急に誘って申し訳ないです。」
「いいよ。色々気遣いしてくれてありがとう。」
祐市は疲れを見せずに早々とその場から立ち去った。それを見送る真田の表情は少し浮かなかった。
「真田、何してんだ?そろそろ行くぞ。」
祐市が立ち去った反対側の通路から同僚が声をかける。今日の飲み会の参加メンバーが集まっている。
「なんだ、結局庄野さんは来ないんだ。」
「あぁ、仕事の続き家でするみたい。」
「せっかく明帆さんもいるのにな。」
「そんなこと言っても、明帆さん彼氏がいるでしょ?」
「そうだな、知らぬが仏ってやつか…。」
祐市はスコーピスに入社後、密かな恋心を抱いていた。ベクトル先の明帆は祐市の不器用な銛づかいに目もくれなかった。他部署の二人はいつしか自然と会うことすらなくなった。その一部始終は明帆の部内には広まっていた。知らないのは祐市だけだった。
「庄野さん、来ないみたいだって。」
「明帆、よかったわね。口説かれなくて。」
「やめてよ!」
「明帆が久しぶりに飲み会参加なのに庄野さんも運がないよね。まっ、明帆には関係ないか。」
「そんなことないから、いい加減にしてよ。」
明帆は強く否定した。集団はそのまま表参道のネオンの明るい方へと進んでいく。会社をあとにする際、明帆はもう一度振り返った。いつもしつこく声をかけていた男の姿は見えない。
「ホント、運のないやつ・・・。」
−第六話終わり-
今回も最後までお読みいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに。
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