第6話 秘めたる宙へ (九)
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(九)
「ピゲええええぇぇぇぁーーーーーーッ。」
けたたましい雄叫びは場にいたすべての者を音圧で壁まで吹き飛ばした。そしてその波動は一直線のレーザーとなりロケットの発射台にまで届いた。
宇宙局では飛行士たちがオペレーションの最終調整を行っておりフェルもロケット内に乗り込んでいる。異様な振動に船内のクルーも内通者も驚きを隠せない。
ついに船体は浮き上がり瞬時に成層圏までたどり着く。その際に船体は摩擦熱に耐えられるように異様な姿に変貌していく。その中にはまだ実用化していないスペースシャトルの形態も見受けられる。
「即 、爆死よりましか・・・。」
乗っ取られたロケットの異形を前に安堵するのも可笑しなものだと感じつつ、祐市は腕章を纏った左腕を突き出す。
(シャドーライザー)
形を変えたロケットはこれから生命を獲ようともがく胎児のようでもあった。そのコンピューター内で生成される小型ミサイルは全方位に配備される。高度12,000メートルから放たれるそれは放射状に広がり世界各所を見る間にその場を風化させ綻んでいく。だが祐市はそれに目を奪われてはならない。第一波を打ち尽くし無防備となった魔弾を止めるチャンスでもある。
「こんなに世界規模で崩壊させることができるなんて」
ビーガルの方が驚きを隠せないようだ。
「心配はない、大元を叩けば救える話だ。」
「強いな、君は。」
ビーガルがそう説いた時、祐市は苦笑した。数ヶ月前までこの異界に驚くほかになかった自分がこんな光景に動揺しない事に成長を感じてしまったからだ。これは成長と言えるのか頭がバグっているかもしれない。そんな祐市をよそにビーガルはその身体を巨大化させて祐市を覆った。
そして無防備な敵の外装に携えた聖棍を叩き込んだ。そして打ち込まれたままその巨腕から一線のバイクが駆け降りる。搭乗者は祐市だ。バイクはそのままロケットの機内を巡りついにはフェルナンドが捕らえられたメインルームにたどり着いた。
「フェル!」
無数のケーブルによって雁字搦めのフェルナンドは祐市の声に軽いまばたきをしてなんとか意識を取り戻していた。祐市はビーガルから分け与えられた“金の纏”によってエネルギーに満ち溢れている。フェルに絡まるケーブルを引き裂きバリケードとなった船内の瓦礫を振り払う。
「ビーガル脱出だ。」
祐市が叫んだ時、フェルナンド窓からどうにか地球の姿を確認しようとした。地球は青いが、渦巻く大気は淀んでいるかのように感じる。ビーガルもその違和感を察して手早く祐市たちをすくいあげた。そしてビーガルの掌から放たれた光によってクルーたちは今いる自分たちの状況の理解が追いつかず足元に伏している中、祐市だけが立ちすくみビーガルの様子を見守っている。
「ビーガル、どうしたんだ・・・。」
「・・・逃げよう。」
そういうビーガルの視線の先には距離をとったロケットの怪物が徐々に変貌を遂げる船体は独自に翼を広げこの時代には存在しないシャトルの形をなす。この姿を見て祐市は以前ナルスに貸したスマホの事を後悔した。スマホには参考資料として保存した歴代のロケットの画像が保存してあった。敵はそうした未知の情報を読み取っていく。
偶然にもシャトル体の付近にR国の人工衛星ソヒューズが飛行していた。情報に飢えたそのシャトル体はドッキングのために機体上部を展開してアームを伸ばした。
「させてたまるか!」
ビーガルはそれを阻止しようとシャトル体に接近した。しかしシャトルはその行動を予期していたかのようにビーガルにも数本のアームを伸ばしビーガルの四肢を押さえつける。「ビーガル!」裕市は彼の名前を叫んだ。ビーガルの封じられた巨大な手から裕市のバリアは安定を失い急速に地上へ落下していった。裕市の視線から小さくなっていくビーガルの姿はそのアームから脱出することができない。
力ずくで身体にまとわりつく拘束帯から脱出したビーガルが振り返ったとき、シャトルはアームを千手観音のように広げて待ち構えていた。最早それはシャトルを模した怪物だった。怪物はより多量の情報を求めて衛星ソリューズに向かった後は軌道を周回してA国の人工衛星アポロを取り込もうとする。二つの衛星はいずれ両国の融和のためにドッキングする計画があるが、それはまた数年後のことである。祐市のスマホに記録されていた宇宙開発のアーカイブ記録をたどるようにシャトル体はこの世界で急速に現代へのアップデートを行おうとしている。
シャトルの姿は広げた無数のアームを翼のように折り畳みそのまま高速でソリューズに突撃するさまは生物の利に叶った美しさを兼ね備えていたが、同時にその軌道は読み易く衛星の前で待ち構えていたビーガルの握り直した聖棍の餌食となった。
振り下ろした聖棍は翼となったアームの数本を叩き割りバランスを崩したシャトル体はそのまま軌道を大きく外れクルクルと回転しながらソリューズから離れていく。大気圏の摩擦熱に身を焼きながらついには一線の灰となって降り注ぐ。ありがたくもない流星だが再び空は蒼天を取り戻した。