第6話 秘めたる宙へ (四)
(四)
対象者は晴れの舞台に向けてきらびやかな会場の壇上にたっていた。フェルナンド財団の懇親パーティーには500人ほど参加しておりどれも政界財界の有力者が集まっている。とはいえども10年前に比べてその様式は簡素なもので宇宙産業事業の最盛期に比べれば3分の1にまで縮小している。宇宙局のあるワシントン州知事のスピーチを終えた頃、壇上のフェルナンドは和かな表情に疲れの汗を滲ませていた。
演説者と立ち替わり余興の準備をする演奏家と踊り子の間を縫って30代後半の貴婦人が何食わぬ顔で登壇してきてはフェルナンドの前に立ち塞がった。
「この人殺し!」
優雅なパーティー会場に似つかわしくない罵声がこだましたかと思えば貴婦人はスリットを翻して拳銃を取り出して構えた。即座に警護の男性4人ほどに取り押さようとしたが、貴婦人は華奢な腕を膨らませて押さえつけるガードマンを振り解いた。人間の力では無い異様な光景がフェルに恐怖心を植え付け硬直した。
「貴様など、ロケットと共に爆発して宇宙のダストになるのがお似合いだわ!」
撃ち込まれた弾丸がスローに見えるほどフェルは死の間際を悟っていた。そんな棒立ちのフェルを横から現れた祐市はタックルで回避させた。外した弾丸は奥のカーテンを貫き辺りは錆び付いた状態で綻んでいく。
近くにいたダンサーたちは「なんだなんだ?」と集っていく。「近づくな!」という祐市の警告もむなしく錆びた空間はあっという間にダンサーたちを取り込んだ。そして再び解放された時には貴婦人と同じ拳銃を携えてフェルを睨みつける。
「逃げるぞ!」
祐市の警告にフェルは従った。会場を抜け出すまでの回廊を走り切る際、追手は祐市たちに向けて銃口を向ける。だが次の瞬間、追手の影から手が伸び出でその足を払いのけた。
(シャドーライザー)
召喚したビーガルが立ち並ぶ敵の影より姿を現す。慄いていた相手はそれを振り払うかの如く銃弾を撃ち込もうとするが、ビーガルの鎧がそれを阻む。この場所はビーガルに任せとけば良いとかっ苦心してその場を去った。
フェルト共に逃げる最中、祐市の脳裏にピサォゥル語のメモ書きがよぎった。真田の見解からしてみれば、使い手のなくなった言語の使い道は限られてくる。彼らが国家事業に関わる立場ならその目的は・・・。
(・・・スパイ行為か?)
ならばこの標的が他の某国から暗殺対象になるのも自然な話であるが、真相の追及は今はできない。祐市とフェルナンドは会場を抜け出して命からがら森陰に隠れた。
今回も最後までお読みいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに。
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