第6話 秘めたる宙へ (三)
(三)
フィルムの残留思念は不可解でそれをたどって映像の画角外の世界にもう一度向かう事は出来なかった。スマホの写真も写りが悪い。
リマスターデバイスから抜け出した祐市は足早に手近な付箋に書き残した。結局は自分の記憶を頼りに書き起こすしかない。久しぶりに走らせた自分の文字を見つめ祐市は思っていた以上の汚さに苦笑した。
「さてどうするか・・・。」
なぐり書きした付箋を壁に貼って考え込む祐市。プロジェクトルームには始業に向けてチームのメンバーが行き交っていた。
「仕事熱心なのは良いことだが、あまり時間外にシステムを起動させるのは感心しないな。」
「申し訳ありません。しかし・・・。」
「我々の仕事は劣化した映像記録を復元すること。それ以上に踏み込んで無理をするのも良くないことだ。」
「仁王さんがよく言う生産性を考えろということですか。」
「このプロジェクトが受ける依頼はまだまだ山の様にある。あまり一つのことに固執するとキリがなくなるぞ。」
リマスタープロジェクトのチーフである仁王の注意に祐市は軽く頭を下げて謝意を見せた。仁王の助言も今の祐市には響かなかった。フィルムに宿る想いというものが自分が介入することでこの記録された世界は確実に変動していく。この自分しか知らない滾る世界は未だ祐市の頭をモヤつかせる。
話のついでに仁王にもこの文字を聞いてみたが、首を捻らせるだけだった。
「・・・これピサォゥル語ですか?」
意を決して真田は彼らにつぶやきを投じた。彼は資料の貸与に来てからというもの祐市の行動を時折観察していた。
「知っているのか?」
「ええ・・・確か以前番組の特集でみた事がありまして・・・でも断片的ですよ。」
「じゃあ、そっちの資料課に関連資料があるということか?頼む!その素材があれば用意して欲しい。」
「え、ええ。」
祐市は真田に顔を近づけて興味を向けた。それほど顔なじみでもない自分に喰ってかかるほど興奮している事が真田は不思議でならなかった。あのリマスターパーツの中には興奮剤の様なものが入っているのだろうか?なんにせよ真田は祐市の要望に応えると約束した。真田が見覚えのある要因となったのは言語学をたどるC Sの番組で取り扱った覚えがある以上のことは知らない。真田はこの際この言語について、関連映像を見直した。
ピサォゥル語は1970年代まで主に中近東で使用が確認されていた言語で当時の原住民が訛り混じりに使われていたが、紛争で制圧した欧米の言語が入り始め第二第三公用語として使用していた国もすでに崩壊している。
「真相が分からないならまた、あの世界にいくしかないか。」祐市は呟く。
お読みいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに。
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