第6話 秘めたる宙へ (二)
(二)
「誰だ!」
祐市が距離をとって身構えた先にひょろりとした青年の姿があった。小柄な体にネズミのように背を丸くしたその姿に祐市は見覚えがあったため自身の体の緊張をほどいた。祐市が事前に見た資料にこの男は存在しており特にフェルナンドとは恋人以上に寄り添っていた仲だ。トレーナーという立場でもあるナルスという男は未知なる宇宙での活動に適応できるように常に気を配る立場で、その気遣いが彼を定期的にここに訪れさせた。
「君は誰だ。現地の人間ではないな。」
「ええ、僕は未来からきた者です。」
ナルスの問いかけに祐市は咄嗟にスワヒリ語で答えた。歴史に影響を与える世界ではない以上、祐市はこういう場合は正直に応えている。
「・・・そうか。」
「驚かないんですか?」
「君の持っているデバイスを見るとそんな気がしてね。今日は大事な友人を亡くしてね。ショックのせいかどんな話でも驚かなくてね。」
祐市は手にしたスマホを見つめた。そしてここにいるナルスに自分がここに来た理由を話した。フェルナンドが搭乗したロケットの爆発事故はこのフィルムの中のことだけで事実ではないこと。この事故がこの記録世界に宿る残留思念に起因していること。祐市はそれを探り未然に防ぐためにここへ来たこと。
「・・・そうか、なら彼を救って欲しい。僕も協力しますよ。・・・それから。」
「それから?」
「君の持っているそのデバイス・・・少し触らせてくれないか。」
学者気質のナルスは祐市の持つスマホが気になってしようがないようだ。それは彼が祐市への警戒を解いたようでもあった。祐市もそれに応じてその機器を渡し簡単に操作を説明した。ナルスも少年の様に目を輝かせて祐市の話しを聞いた。
30分ほど使い方の講義を終え、スマホは祐市に返却された。ナルスはこれから事故現場へ向かうといってその場を後にした。再び一人となった祐市が書斎に戻った時、気になっていた翻訳できないメモ書きがないことに気づいた。
祐市は何か不穏な空気を感じずにはいられなかった。
お読みいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに。
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