第6話 秘めたる宙へ (一)
(一)
50年ほど前の仰々しいほどの巨体を誇るロケットが打ち上がる姿に背を向けて青年は歩を進めた。いまだその迫力になれる事はできないが、彼には本来向かうべき場所があった。
この世界の旅のパートナーであるビーガルの力を使いあのロケットの飛行士を救う必要がある。ビーガルを陰から召喚した青年・祐市はふわりと浮き上がった黒き騎士であるビーガルの手に捕まろうとすると先のロケットは爆発炎上した。ビーガルは偶然にもそれを推進力にて目的の場所に急行した。
爆破の要因について判ることは外部からの攻撃ということ、そしてこの記録だけに残る事で史実でない事である。爆破したあたり一面は一時停止したかような映像のザラついた世界に変わる。サビつきによる映像の劣化が起こった事象だ。
話は数日前に遡る。祐市は事前に必要となる映像資料をチェックしていた。合衆国で10人目の宇宙飛行士のフェルナンドが出演したニュース映像を借りて嬉々する祐市を資料課の真田は不思議がっている。
人気である月面計画と比べてこの時期の映像資料に対しての借り手は少ない。真田はその際に笑みを浮かべる祐市の表情が年上ながら妙に愛着を覚えていた。
先輩の話で祐市というリマスタープロジェクトのオペレーターの不可解さは知っていた。その笑みに興味が湧いた真田は資料の貸与をきっかけに彼の後を追ってみると、リマスタープロジェクトの調整室へたどり着く。
「ビーガル、頼む。」
祐市は既に漆黒の鎧・リマスターパーツをまとって独り小言をつぶやき続けている。眼の前に映る映画ニュースでインタビューを受けるフェルナンドの口元をモーション分析してパーツ装着した祐市の口唇と耳に振動を与える。すると祐市には理解できなかった映像内での彼の話す英語、フランス語、スワヒリ語が手に取るようにわかる。今回、判明したビーガルの能力である。フェルナンドは中東訛りが強いため少し理解に苦しむが、それでも彼と会う際にことばの壁は無くなる。
(仕事熱心な人なのか・・・。)
そう感じたのは最初だけで周りに調整役がいないことが真田には不自然だった。
インド洋の赤道上に浮かぶ小さな島、コルナオ島。祐市はその場所をはじめて訪れた。しかし、この隠れ家の事は誰よりも知っている。彼は昨夜覚えた3ヵ国語を使ってこの部屋の資料をあさった。流石にここはフェルナンドのプライベート空間で書斎に並んでいたのは航空学や宇宙学といった類ではない小説や現地の雑誌が散乱していた。「ここでは祐市が求めているようなものはないようだ。」ビーガルに諭され、あきらめのため息をした祐市の伏目の先にあるメモ書きに彼は違和感を覚えた。そっと近づいてそのメモの筆圧に指を当てて何度も唇を震わせたがその違和感は焦りに変わっていく。
「まさか、読めないことなんてあるのか・・・。」
そこにかかれた便箋は文章にして二行程度のものであったが、祐市の知っている言葉ではなかった。確かにフェルナンドの直筆のものである。彼の駆使する言葉はすべて把握しているはずであった。祐市は思わずポケットに忍ばせたスマホに手を伸ばした。この世界では自分が身につけている所有物は持ち込むことができる事がわかっていた。しかし、ネットのような通信系のアプリは機能せず、祐市のこの疑問を解消するに至らなかった。
そんな中、祐市の背後に恐怖と共に人の気配を感じた。
お読みいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに。
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