表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
改装記ライブリマスター  作者: 聖千選
34/99

第5話 Ride on Remaster (十)

(十)


 憎悪の元凶となった信二を押えていたにもかかわらず予想以上のサーバーへの浸食を果たすウイルス。誘拐犯が消失する際の抵抗・・・。ビーガルの違和感を紡いでいくと、電脳世界の外からの影響が考えられる。裕市はそれを齎す悪意を突き止める戦いがあった。


 《100%のデータ移行が完了しました》


 アドバンスAR社のデータ管理室のサーバーラックの一角の目立たない個所でそのサーバーと繋ぎ合わせた自らがもつタブレットPCからこのメッセージが出たことに安堵の一息を漏らす男がいる。そのPCには自作したと思われるデバイスが取り付けられていて異様な形状を見せる。常に暗室である管理室の中でその顔を確認することができない。


 「何をしているんです?」


 その声は山本のものであった。


 「・・・いや・・・ちょっとした参考資料ですよ。」


 「自分のPCへの移行はコンプライアンスに引っかかりますよ。」


 二人の真に無言の空気が一瞬流れた。その一瞬の隙を突いて男が立ち去るが、すぐさま反対側から呼び止める激しい声がその足を止めた。


 「一ノ宮!」


 急に男はあきらめの表情に変わって振り返った。そこには山本には西条として親近感を憶えていた男の姿であった。涼子は怒りを通り越して随所に憐れみに震えている。「まさかあなたが、ここの研究所にいたとはね。」以前は涼子の研究所に所属していた西条=一ノ宮は当時、日ごろからの涼子のワンマン体質に耐えかねて事務所を辞した後、その復讐の矛先を息子の信二に向けていた。その後、西条と名を変えた一ノ宮は大杉の事務所に雇われた後、この機会をチャンスと捉えていた。しかし、男は最大にして唯一のチャンスをものにすることができなかった。

 事件は終わった。後に一ノ宮は犯行当時のことについて「信二君が泣いていたから・・・。」と供述していた。「本当にそうだったのか。」予測された世界とはいえ、あの当時の世界を訪れた裕市には疑問が残る。

 歴史的成果をもたらす共同プロジェクトは過去の陰惨な事件を蒸し返すだけで終わった。警察の供述を受けるまでの間、木藤涼子はこのプロジェクトユニットの整理とレポートのまとめを行っている。相変わらず顔つきは情の入る隙間がない。しかし山本には彼女の中に逆流する涙腺を感じていた。


 「もう、無理をしなくても・・・。」


 山本の問いかけに涼子はPCへの入力を止めて少しだけ男に目を向けた。


 「でも、こう生きるより仕方がないじゃない・・。」


 それは山本に対して見せた初めての優しさであった。


‐第五話終わり-


最後までお読みいただきありがとうございます。


新しい裕市とビーガルの冒険はまた改めて・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ