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改装記ライブリマスター  作者: 聖千選
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第5話 Ride on Remaster (三)

(三)

 コンペティションの会場は一日かけて行われる。持ち時間は一社につき三〇分。その後の質疑応答や前後する壇上の準備などで各社は一時間ごとに発表を開始する。スコーピス社の発表は参加する十社のうちの六番目。午前十時からスタートしたコンペはすでに午後の三時を回ろうとしていた。各ブースを巡った裕市と明帆も昼食を終えた午後二時頃には自社のブースに戻り、プロジェクトメンバーと最後の打ち合わせをしてコンペの会場へと向かった。その間のスコーピス社のブースは山本に代わって先輩のメンバーの三崎が務めた。マッドサイエンティストのような三崎に留守を任せることに裕市は一抹の不安を覚えるが、特に語ることなくその場を後にした。


 コンペ会場の舞台袖にメンバーが入ったころにはすでに前に発表者は本番を終えてステージにはスコーピス社の発表のために設営が行われていた。スコーピス社のブースから移動されたリマスター機器の各種は係員によって壇上に移動して徐々にその場所は裕市が普段仕事するリマスタープロジェクトの風景になった。しかしそれは見慣れたものではない。会場内に訪れた常時百人を超す参加者の声や壇上にスポットライトによって異様な盛り上がりが加えられている。それが脇に控えるプロジェクトメンバー6人にも伝わり緊張が走った。緊張をものともしないのはチーフの仁王と明帆ぐらいで仁王は他のメンバーに「心配することはないさ。」と繰り返し励ましている。


 仁王は特に最年少の山本に対して緊張をほぐしている。仁王はこのコンペで作業オペレーションのメインを新卒の山本に任せるという大胆な采配を行っている。そのため直前まで仁王は山本に声を掛けているが、このメンバーの中で特に緊張のあおりを受けているのは裕市であるだろう。普段と同様、リマスターパーツに袖を通すため一番目立つメンバーである上に、今回このコンペの参加を進言した張本人である。「なんでこんな面倒なことをするんだ。」という他のメンバーの声なき声をいま、充分に感じている。裕市自身も今更、何でこんなことをしているのかという思いに駆られている。その気持ちを促した先日の大和田渉に対して恨みをいだこうとも思ったが、その時場内からどよめきが起こり裕市はその声に我を取り戻した。壇上にリマスターパーツのアーマーが登場したからだ。普段から見慣れてしまったそのアーマーだが、白日の下に晒されると世間からは異様な反応が返ってきた。そのことが裕市には意外な発見であった。そして、改めてその鎧を舞台袖から眺めた。


 「笑っているのか・・・。」


 裕市は思わず声を漏らした。普段の暗い施設内では気付かなかったが、広い壇上の光を受けてその鎧が神々しく輝いて見える。まるで狭く暗い鳥かごの中から解き放たれて生の喜びに満ち溢れているかのようであった。それを眺めているうちに裕市の心に不安というものが消え去っていた。


 「行きましょうか。」


 リマスタープロジェクトのコンペの時間が訪れた。裕市には周りを見渡せる余裕すらすらあり、山本にも声を掛けた。


 「俺やってみますよ。」


 後輩は思いのほか笑顔で応えた。こんな普段と違う状況の中でも積極的な姿勢を見せるメンバーを裕市はありがたく思った。それに対してアーマーをまといヘッドギアをつけて視界を遮るといつもの空間になるのでいつも通りに集中することができる。


 「何か、自分自身も変えなきゃダメだな。」


 裕市はひとり呟いた。変えるべきこと、それは何か。仁王が説明を始める中、裕市の意識はいつものようにその映像世界へ飛び込む。そしていつものようにあの生命体と出くわす。


 「はじめまして、私の名は・・・。」


 「今日はいいよビーガル、僕一人で作業しようと思う。」


 「えっ?」


 裕市はビーガルが初対面であることを知って言いながら当然のごとく願い出た。後輩をはじめ、ほかのプロジェクトメンバーがイレギュラーな状況下で頑張っている。自分だけ搬送波生命体の力を借りるわけにはいかない。裕市はそう結論付けた。


 今回、修復作業のサンプルには"La Beatz"のライブ映像が選ばれた。近年の映像ではあるが、ステージの躍動感、色分けされた衣装にも鮮明な違いが出ることを考慮してのことだ。


 「通常通りの作業をすればいいだけだ。問題はない。」


 そう言いきかせ、裕市はアーマーの腰からリマスター用の汚れを除去する吸着シートを取出し目の前に広がる一コマ、一コマに覆いかぶせた。ビーガルの力を借りなくても映像は見違えるように変わる。裕市は修正されたフィルムロールを見て文字通り自画自賛した。


 すると仕上がった映像の中で裕市は久方振りにある男の姿をみた。


 「あの男、ここにいたのか。」


 礼装のようなきれいな余所行き姿に裕市は見覚えがあった。それは赤星聖也と供に裕市の前に立ちはだかった馬暮紘一の姿であった。今は記録映像の一つであるが、リマスター作業をすることでその映像が浮き上がってしまったようだ。まるで自分に向けて、新たに因縁を吹っ掛けるために来たのだろうか。


 「まさかな・・・。」


 そう呟きながら背を向けて次の場面へ向かおうとしたとき、裕市の方を確かに誰かがたたいた。


 「今日は一人なんですか?」


 そのことにギョッとした裕市は振り返った時、一瞬悪夢を垣間見た。そのコマを飛び出し、馬暮紘一が裕市の目の前に立ちはだかっていたからである。


お読みいただきありがとうございます。

再び現れた馬暮紘一。彼はなぜ再び裕市の前に姿を現したのか?

次回をお楽しみに。

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