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改装記ライブリマスター  作者: 聖千選
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第4話 拭えない自分(六)

(六)


 「コンサルねえ・・・ビジネスモデルを考えるなんて自分の腕に実力がない証拠だよ。」


 しらけた雰囲気を裂いて裕市の隣に座る竜馬は発した。空気を読まないというべきか、一人だけ酒をぐいぐい呑んでいる。会議場と化したこの場所では暗黙のルールである禁酒を堂々と破る男の存在を知り会場はどよめいた。中でも露骨に嫌悪感で顔をゆがませるコンサルタントの直原を竜馬はトロンとした目で見まわした。


 「ふざけているのか。」


 「なんか余裕がないなあ。新社長さんも、コンサルタントさんも・・・。」


 「なんだと。」


 憤る直原だが、すぐにそばにいる渉が制止して竜馬に向けて代弁した。


 「なら何が必要だというのだ。」


 「こんなことで信頼感が得られるかよ。手っ取り早い方法はこれよ。」


 竜馬はグラスを突き出して乾杯の仕草をした。そしてさらに飲み干した。酔いのまわった竜馬にはもはや誰も咎めることは無駄であった。滅茶苦茶にかき乱された会場は取り敢えずお開きとなった。「次からはこのようなことはないようビジネスプランをしっかり考えること。」直原の注意で締められたが、それを聞き入れる者は誰もいない。


 「なかなか君たち面白いな。」


 会食後、若手社員の一人である中川は裕市と竜馬に声を掛けて評した。


 「場違いな発言ですみません。」


 「いいよ、別に。それよりこれから飲み直ししないか。」


 「今からですか。」


 「あんな会議の延長のような場所じゃ酔いも覚めるわ。」


 結局、この場面でもサビ等の腐敗させる影はなかった。裕市は仕方なしにその誘いに乗った。呑み足りない竜馬は無論賛成している。あの空間で平然とワインにありつけるその精神力に裕市は呆れている。その後、新橋に向かっての酒の席は新社長の愚痴をつまみに酒が進んだ。みな社長の努力は認める。その奥にある人柄も認めている。だが社長の地位についた今の彼はすべてが空回りだ。渉の「会社を良くしたい」という思いが強まるたびに周りとの温度差を生んでいた。


 「会社のためにすべきことは何か・・・。」


 渉は社員が去った後の同じ会場で一人ワインを口にしてつぶやく。社長に就任してからは個人の余計な感情は捨てて、常に顧客、社会へと第一主義を向けていた。しかしその精神を社内に浸透させようとするがゆえに社員からはそっぽを向かれてしまう。そんな中、で最後に思い出されるのが、竜馬のグラスを掲げる姿であった。その姿が幾度かチラつくのでその度に首を横に振った。


 再び場面は転換された。ニュースは大和田工業からの新事業の事についてだった。


 「なんだキミか。ずいぶんと久しぶりだな。」


 社長の渉は裕市を見つけたが、相変わらず険しい表情をしている。前回の場面から二か月もたっていないので変化を期することもないが、大勢の人の中心にいて上機嫌で口元は少し緩んでいる。何事も中心人物でいる安心感は大和田家に持って生まれた遺伝的なものなのだろう。


 この日は社長となった渉の初めての事業ともいえる原子力産業の建屋の稼働の日でもあった。そのことに際して設立した大和田エレクトロニクスの社員や地元の春日町の住民も参加して述べ三百人規模の人だかりとなった。この事業には米国燃料者との事業提携が行われて将来的に海外への原子力産業の輸出も視野に入れている。1955年に結ばれた日米原子力協定を契機に日本でも濃縮ウランの輸入や原子力発電所の建設・試運転が活発化して大和田工業でも建築や運用技術面で支援を行った。海岸を眼下に見渡せるここ春日町に原子力発電所を稼働させることは大和田工業としても十年来の悲願である。記者会見の映像はニュース映画の映像素材となっている。会見場には竜馬の姿もあった。建設作業員の一人ということでの参加だが、どうも彼も華やかな場所が好きらしい。


 現在、大和田渉が会見でこの技術の詳細な内容の説明を行っている。


 (あれは・・・)


 その時、裕市には新設された建屋がうごめく姿が見えた。地震ではない。確かに一瞬祖の建屋が膨らむような動きを見せて元に戻っていた。まるで今にも飛び出したい衝動を抑えるかのようだった。「サビがいる!」その核心を裕市は多くの人だかりの中で唯一見出した。それをどのように伝えるかを思案する余裕はない。裕市は無礼を気にせず壇上へ上がり渉の肩をたたいた。


 「その計画は危険だ。すぐやめた方がいい。」


 激高するかのごとく裕市は身を乗り出して主張した。すぐさまそばにいた警備員が二人がかりで裕市を取り押さえる。抵抗する裕市に対して渉はため息をついて呆れた。


 「これは大きな力を生む平和産業だ。国自体が推奨している。」


 「しかし、事故が起きれば大きな被害が出ます。」


 「未来人の割には昔を引きずっているみたいだな。」


 「そんなつもりでは。」


 裕市は一瞬、言葉を詰まらせた。その後ろで原子力に反対するデモ隊も見受けられる。四十から五十代が中心となった原子力という言葉に敏感な団体のようだ。裕市はその大声に動揺した。その隙を突いて渉は裕市の意見をはねのけて再び壇上へと進んだ。そんな声を振り払ってまで渉には手にするべきものがある。そんな思いに駆り立てられていた。


お読みいただきありがとうございます。


そして沈黙が破られる・・・次回をお楽しみに。

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