第13話 新世界再生作戦(六)
迫り来るエネルギー弾を祐市は回避することが出来なかった。
(殺られる!!)
そう思った次の瞬間、別の方向から同じく自分に向かって巨大な大砲が放たれたかのような感触があった。その砲弾を受けて祐市は吹き飛ばされて辛くも石田の放つ憎悪のエネルギー弾を躱すことができた。砲弾はよく見ると人の形をしていてムクリと起き上がった。
「大丈夫ですか?」
それはカナトだった。カナトの決死のタックルによって祐市は救われたのだ。しかし、油断は出来ないと咄嗟にマウント状態にだったカナトの身体をだき抱えて伏せた。視線の先には未だ石田女史が左腕を押さえて悶絶している。それはその腕がすでに劣化要因によってサビ化していた。
「馬暮・・・馬暮は何処・・・!!」
全身にサビの汚染が進むなか女はひたすらに契約者の名前を求め続けた。しかし、求めれば求めるだけ女の身体は醜い怪物の姿に変貌してしまう。サビは更なるサビを呼び徐々に巨大な力を付けていく。
「参ったな、ここに来て対抗する手段がない」
そう呟いた祐市の前にカナトは一つのガジェットを差し出した。それはビーガルがいつも身に付けているアームレット。それを目にした瞬間、徐にそれを手にした。まるで自分が元の持ち主であるかのように。
「これをあの女の人が・・・」
「そうか、それで舞は?」祐市の問いかけにカナトは腕を広げて首をかしげる。祐市も落胆のため息を付くが、何処からもとなく「祐市!」と舞の呼び声が聞こえたように感じた。辺りを見回したが姿はない。祐市は手にしたアームレットに装飾されたエメラルド色の宝玉のような部分を凝視する。
「祐市・・・」
(舞、そこから語りかけているのか?)
(実体を持たない私には直接あなたの世界に行くことは出来ません。なので、このウイングアームレットを介してあなたに語りかけることしか出来ないのです)
(しかし、君の兄さんは実体化してこの世界に来た。君たちは搬送波生命体ではないのか?)
(話しておかなければなりませんね。あの日、世間からも見放され、飢えと寒さの中で私たちの命は絶えました。・・・いや、死期を悟った時、私たちが覗いた映写機のレンズの先に導かれる何かがあったのです。私たちはそれに引き寄せられるようにしてその世界に身を投げました)
(それが映像媒体にあるもうひとつの世界とのファーストコンタクトか・・・)
(最初かどうかはわかりませんが、とにかく私たち兄妹はそこに縋ったのです。しかし、その世界も私たちにとって優しくありませんでした。憎悪を見いだされた兄はサビの餌食となり、さらには私の乱れる呼吸を辿ってサビとカビの大群は私に襲いかかって来たのです・・・)
いつの間にか祐市は舞の話を口を押さえながら聞いていた。そしてそのまま舞の全身を見入った。微かにだが全身を震わせながら語る姿は確かに事実を話しているのだろう。舞の光景にあるサビの大群に纏わりつかれて苦しむ馬暮紘一の姿がそこにはあった。
そして、当時の舞も同じくサビの襲撃に追い詰められていた。暗闇のフィルムのなかに逃げ場を失ったとき、天からの一撃がそのサビを蹴散らした。一撃を放った巨人は腕のリヘッドラムを回転させて周囲の闇を払い除けて青空に換えた。
「君は誰なの?」
「私の名はビーガル。搬送波生命体です」
ーーそれが、私とビーガルの初めての出逢いでしたーー
(ビーガルは自らの力で死の淵にある私の魂を救い続けました。そしてサビと化した兄の行方を追って、この悠久の時を待ち続けたのです。そして人類も自らの手で映像媒体の世界に直接コンタクトができる技術を手に入れることができたのです)
(それがリマスタープロジェクトか・・・)祐市は軽く、そしてしっかりと頷いた。
(しかし、このプロジェクトがすでに兄の謀略の一部になっているとは思いませんでした。ビーガルは私の魂を回復させる力の中からその一端をあなたに貸したのですが、現実世界に兄の怪物が現れた今はもう力を押さえる必要はなくなりました。庄野祐市、これからはあなたの手でこの世界の破滅を食い止めて下さい。今のあなたならそれが可能なハズですーー)
そして、舞との交信は途絶えた。
(随分と勝手なことを押し付けるな、お嬢さんは)
目の前にはサビの怪物が巨大化して周囲のビル郡を破壊して回っていた。すでに高層ビルの4-5棟は崩れ去っている。
「でも、やるしかないか・・・」
立ち上がった庄野祐市はウイングアームレットを左腕に装着するとそれを押さえていつもの合言葉を呟く。
(シャドーライザー!!)
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