第13話 新世界再生作戦(二)
舞に案内されて祐市は豪雪地帯に連れ出された。フィルムの中では寒さは感じないとはいえ、降雪の嵐に目と行く手が塞がれた。
(この先にいるのか?馬暮が・・・!!)
ひとり頭の中で思いを巡らせる。油断してると思わず足を踏み外して行きの中に埋もれてしまう。祐市は積雪の中でも柔らかい箇所を選んでしまっていた。「大丈夫か?」と舞は祐市を救い上げる。祐市は息を整え雪の道を見つめてはトントンと次の一歩を熟考する。柔らかい雪、固い雪を見分けながら進んでいくと突然、案内人である舞の動きが止まった。
「ここか・・・」
舞はこの光景に見覚えがあった。もう100年も経っていたが、その記憶は鮮明であった。市街地を見下ろせる小高い山の腰かけられる切り株に座り兄とふたりで最後にフィルムを見た思い出。それがそのままであればこの切り株の下にフィルムが残っているはず。舞は悴む手を気にせずに雪を掻き分けた。そんな馬鹿なと思いつつも祐市もそれを手伝った。
そしてフィルムが見つかった。
豪雪のなかを一筋のフィルムが伸びていった。一介の行商の持ち物としてはあり得ない長尺のフィルムに祐市は首をかしげるが、舞は徐にそのフィルムを手にして1メートルほど手繰り寄せた。まだ転がっていったフィルムの端は見えない。
「この中にある世界をたどれば、兄のところにいけるのかも」
「どうしてそういえる?」
「ここにある光景がよく旅したところばかりだから」
「とはいえ膨大だな全てを辿るにはとても時間がかかる」
「大丈夫よ、ビーガルの能力を使えば」
そういうと舞はフィルムを強く握りしめた。そんなに折れ目をつくってしまってはダメだと祐市が忠告しようとしたが、次の瞬間、ふたりは光となってフィルムの世界に転送された。周りの白銀だけの豪雪地帯から抜け出して暗黒の世界が広かった。
「この先に兄さんはいるわ」
「会ってどうするつもりだ?」
「当然よ、わたしの手で抹殺する!」舞は唇を噛みきるように舌打ちした。「そうか・・・」と祐市は応えるだけだった。
「しかし何なんだこの世界は?」ふと、祐市は問いかける。
「負の残留思念・・・」
「えっ?」
「記録媒体に人々の思いがわずかながら粘着するみたいだけど、もちろん邪念だって付着するの」
「まさか、馬暮紘一はそれをかき集めているのか?」
「そう言うことだよ」と二人の会話に突如として馬暮紘一が割ってはいる。
「まさか、君から出迎えてくれるとはな」
「なにかコソコソとネズミが嗅ぎ回ってる気配があったからな」
「兄さん!あなたの好きにはさせない!」
舞は声を荒げると天空を睨んだ。そしてその空から黒きビーガルが降臨する。ビーガルの両腕には聖棍のヘッドのようなものが装着されていて祐市のものとは明らかに違っていた。祐市がまだ引き出せていないビーガルの能力に祐市は何も語ることは出来なかった。
「兄さん、ここで終わらせましょう。現実の世界はそこに住む人々のものですからね、ビーガル!」
舞の呼び掛けにビーガルは応えた。馬暮紘一の真上からイカヅチの如く巨大な鉄拳が振り落とされる。周囲には衝撃波が巻き起こり稲光を起こすそのパワーは祐市が持っていたビーガルとは別人のようであった。
「それで攻撃したつもりか?舞よ、おまえはまだまだ俺のかわいい赤子だよ」
ビーガルから見て豆粒ほどの大きさでありながらまるで見下すかのように馬暮紘一は余裕の笑みを見せた。そして突き出した腕でビーガルの拳に触れるとそのまま相手の巨体を投げ飛ばした。
(舞の力でもダメなのか・・・)
落胆する祐市の前に馬暮紘一は降り立った。自分が神であるかのように。近づいていく神の足音を感じつつ祐市の肩は逆に震えた。
「ハハハハハーーーッ、負けたよ。馬暮、わざわざ君が手を下さなくても世界はサビによる劣化で崩壊するんだろ?なら最後はこの世界を満喫させて終わらせてほしいな」
「気が触れたかと思ったが、ならいいだろう。好きにするがいい」
そう言うと馬暮は方向を変えて立ち去っていった。
「どういうつもりだ?」舞の問いかけに祐市は天を仰いだ。ふとしたため息もこの世界の劣化に繋がるのだろう。それでも一呼吸おいた。
「そうだな、君の兄さんの言うとおり、とりあえずこの世界を堪能しようか」
祐市がニヤリと笑った。
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