第13話 新世界再生作戦(一)
落胆する祐市の前に一人の女が近寄ってきた。祐市はそれに気づいてさらにため息を着く。立っていた宝生明帆はいままでにない笑みを向けていた。それがすごく怖くもあった。
「こんな時に何の用です?」
「さあね。でもここは自分が望んだものが出てくる世界でしょ?誰かが望んだからこうして出会えたんじゃないかな?」
「僕はそんなことは考えてないですよ」
「あなたになくても私にはあるかもよ」
「揶揄うのはやめてください。何が言いたいんです?」
祐市に問いかけられて明帆は腕を伸ばし祐市の手をつかんだ。真白きカボソい腕は煤だらけの祐市の手を摩りながら男の動揺を探っている。
「この世界に住たいな、あなたと。それだとダメなの?」
明帆は上目遣いで祐市を見つめた。吸い込まれそうな黒い瞳は祐市の理性を徐々に失わせる。祐市のもう一方の腕は明帆の腰へ回そうとしていた。
その時、祐市の耳にエンジン音がノイズとなって響いた。ふと、辺りを見回すと道の先に一台の自転車がもうスピードでこちらに近づいてきた。自転車とは思えない速度でこちらに向かい、積んでいたエンジンの音はさらには轟音を増している。
「乗って!」乗っていた女の声に導かれて祐市はそのまま後方座席に腰かけた。
「どうして・・・どうして、望み通りのことを受け入れないの?!」明帆の声が激しくこだまする。
「明帆さん、ぼくはどんなときでも気丈にふるまうあなたの姿が好きなんです。こんな時だからこそ、強くいてください。」
そして男は去っていった。優しい別れを告げて。
原付の速度はドンドンと加速していく。走行中で声もかけられず、顔も判別できない。しかし、その乗り手の事については祐市には見当がついていた。
――馬暮舞――
馬暮紘一の妹でいつも彼の後ろについて回っていた少女である。小鹿のような子供と思っていたが、いつの間にか大きくなってと親戚のオジさんの感覚で見ていた。
バイクはとある山岳地帯の道なりに漸く停車した。靄がかかっているのではっきりと先が見えないが、山道はまだまだ続いているようなので祐市は首をかしげる。
しかし、前方の靄を割いて巨大なサビの怪物が現れる。デジタル化してあるはずの記録媒体の世界でなぜこのような事象が発生するのか?そんな疑問を持つよりも祐市は恐怖の感情が勝った。ビーガルいない自分も前に現れるサビの怪物は同時に死を連想させた。
(終わりだ!)
無駄な抵抗とわかっていながら咄嗟に両腕を前に組んだとき、側にいた舞は右手の親指と人差し指で輪を作り指笛を鳴らした。すると天空の先から黒き巨人が舞い降りる。その見覚えのある巨人はサビの怪物を腕を掴みあげるとそのまま怪物の腕の矛先とは反対方向に投げ飛ばした。終わりと思えた祐市の視線に道が開けて原付は女の進むべき道へ向かっていった。
だがその道中に瓦礫によって塞がれた箇所があり、仕方なく一旦その原付を停めて降りた。お互いにヘルメットを取り、改めて舞と対峙してビーガルは柄にもなく会釈した。
「ご無沙汰しております」
「ずいぶん探しましたが、また会えると信じておりました。行きましょう」
二人を見送る祐市は瞬きが止まらなかった。舞がビーガルの主だったと言うのか?そんな疑問を感じる間もなく、瓦礫に隠れていた更なる怪物が二人に向かって襲いかかってきた。だが、舞はそれをすでに見抜いていたかのごとく息をひとつついた。
「シャドーライザー・・・」
そう呟く彼女の声を聞いて、「嘘ではない」ことを祐市は確信した。ビーガルと融合して巨体となったその姿は自分のものとは異なるウエストが細い体つきをしていた。その細さに纏う鎧は今にも脱げ落ちそうなブカブカした様相だが、怪物の爪の攻撃をすぐさま見極めて腕をとりそのまま投げ返す。恐らく経験値は彼女の方が上であるという確証は確かにあった。
聖棍を振り下ろしてこの戦いを爆散させて締め括るとビーガルの鎧からスッと舞の姿が光に包まれて抜け出してきた。祐市の前にはいつもの笑顔が眩しい女の子の姿だった。祐市は思わず目をそらした。
「まあ、驚くよね」
「別に・・・」
不服そうに祐市は舞から顔を反らした。その感情を乗せて再び原付は切り拓かれた山道を進んでいった。
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