第1話Part8『決意の卒業式』
牧野:学校教室内 昼
私の席は窓際で一番後ろの列です。今は同級生が話しかけてきたので会話に応じています。
「いいなあ、牧野さん上京するんだ」
「うん、あなたは?」
「あたしも上京したいけど、経済的に厳しいから地元で就職するんだ」
「そっか。お互い離れ離れだね」
「うん、牧野さんも必ず夢を叶えてね」
「うん、任せて」
とはいったものの、東京でミュージシャンを目指すという私の夢は、本当に夢物語です。
叶うと信じるしか今は道はありません。
森羅さんと再会できれば、森羅さんと一緒に音楽が出来れば最高なんですが。
ソロを目指しているのでバンドを組む気はなかったのですが、私はベーシスト。リズム隊なので
やはりバンドメンバーを募ってバンドを結成するのが現実的ですね。
「バンドか・・・」
兄のバンド、スペルマスサスペンションズは王道のビジュアル系ロックバンドでした。
ミステリアスな雰囲気を大事にするため、私達は顔にメイクをしていました。
兄との音楽の日々は衝突の連続でした。音楽観の違い、価値観の相違。
私と兄が喧嘩するたびドラムの鉄砲豚野郎さんが間に入って喧嘩を仲裁してくれて。
豚さんは本当に大人でよい人です。兄と同い年なのに、何かを悟ったような境地にいる人です。
牧野:学校 講堂内 朝
今日は私の高校の卒業式です。父さんもこの日は店を弟子の板前に任せてやってきてくれました。
何故か兄まで来ています。
私は校長から卒業証書を頂きました。とても厳かで緊張しました。
今学年で私と同じように上京する人は私を除いて20人程度だそうです。
東京の大学に受かった人もいれば、東京に就職が決まった人もいるそうです。
夢を追いかけて上京するのはきっと私ぐらいでしょう。
多くの人は秋田に残ります。
牧野:学校 正門前 朝
学校の正門の前で私は父さんに思い出だからと写真を撮ってもらいました。
私が上京したい旨を告げたとき、父さんは私を一切批判せずに、一言
「そうか、頑張りなさい」
とだけ言って、すんなり受け入れてくれました。
本当はもっと揉めるかと思ったのですが。
父さんは母さんが死んでから人が変わったように無口になり、仕事人間になりました。
私は母さんが生きていた頃の道楽者の父が好きだったのですが。
釣りの趣味も道楽者だった父さんの影響ですし。