(おまけ)恋は『盲目』、愛は『刮目』
てってって。
とっとっと。
「あらよっと」
翠狸は目隠しをしながら、よそのお家の塀の上を、軽快に進んでいます。
多少は危ないかもしれませんが、落ちても大した怪我はしないでしょう。
それでも気になってしまうのか、紅狐がその横を、あまり音をたてないようにして付き添っています。
「とおっ」
そんな心配もよそに、塀の途切れるところで、翠狸は空高く跳び上がり。
くるくると空中で回転し、地面に華麗に着地――はできず。
近くにあった家の屋根に、べしょっとぶつかってしまったのでした。
「なんで、そういうことをしちゃうのかなあ……」
それでも普段からすれば、まだマシな部類なのでしょう。
怒ることもなく、もはや慣れっこというように。
屋根からずり落ちる前に下にまわり、紅狐は翠狸をナイスにキャッチしたのでした。
「まだ、検証するの?」
いいかげん、危ないことはやめてほしい。
そんな空気を滲ませながら、怪我がないことを確認するかのように、紅狐は翠狸をくすぐっています。
「いやあ、目隠しなんてしたことなかったからさ。
恋は『盲目』なんていうらしいし。なんでかな! って思ったら、つい……」
多少は、心配をかけてわるいとは思っているのでしょう。
翠狸はばつがわるそうにちいさく身じろぎをして、上目遣いに紅狐を見上げました。
「でもね、分かったこともあるんだよ!
『盲目』になると、想像で補っちゃうんだよね。
きっとこう、こうであってほしい、こうなはず! って。
だから、相手のありのままを見ずに、自分の中に作り上げた相手を好きになった状態が、『盲目』ってやつなのかも」
わかっちゃった! とでもいうように、両手を口に当ててにししと笑う翠狸のその姿をていると、紅狐も心配などはどうでもよくなって、一緒に笑ってしまいたくなるのでした。
これが、惚れた弱みというやつか、などとわずかに自嘲しながら。
ため息をつきつつも、それ以上は小言も言わず。紅狐は翠狸を抱いたまま、歩きだしました。
「でもって。紅狐さんは、ぼくのこと、とってもよく見ててくれるから。
ぼく、愛されてるな! って思ってさ。
だからきっと、恋が『盲目』だとしたら、愛は『刮目』なんだろうな、って!」
ぼく、上手いこと言ったよね? などと調子に乗った翠狸を横目に見つつ。
紅狐は、まあ、一理なくもないかな、などと思いながら。
日が沈みはじめ、辺りが赤く染まる中。
ふたりは、共に家路についたのでした。
おまけ。蛇足です。




