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恋のてつがく!  作者: 蜂矢ミツ
4/8

『燃える』恋

 しゅうしゅう、ぼうぼう。

 ゆらゆら、めらめら。


 翠狸と紅狐が、向かい合い立つその間に。

 大きめのたき火が、燃え上がっています。


「うおお、燃えてるね!」

「ああ、燃えているよ」


 あまり意味のないやり取りからも分かるように。

 火が燃えている、それだけでふたりとも何やらそわそわ、落ち着かないようです。


「『燃える』恋というから、手っ取り早く燃やしてみたけど。

 本物の火って、熱いよねえ。“恋”って、こういうものかな?」


 目の前でぱちぱちと弾ける炎を見つめながら、翠狸はしみじみと考え込んでしまいます。

 自分の中のものも、このような熱さを、はたして持ちうるのだろうか? と。


「それが全てではないだろうけど……少なくとも、そういった側面もあるのではないかな」


 紅狐は、何か思うところがあったのでしょう。

 手をぎゅっと握って、その胸元に押し当てています。


「でも、これもありきたりというか、よく言われていそうなことだけど。

 火って、いつか消えちゃうものだよねえ。

 燃やし続けるには、相当の燃料が要りそうだし」


 実際に、こうして火を起こすためには、いろんなものが必要でした。

 着火するための道具、火を勢いづける燃料、そして火を維持するための燃やすもの。

 今は春ですから、この時期には枯れ葉なんてものは得られませんでしたし、今回は薪を、蓄えているお家の方にお願いして譲ってもらったのでした。


「何も、ずっと燃やし続ける必要はないのではないかな。

 確かに、恋を燃やすことこそ醍醐味、人生のスパイスだと言って、それだけに重きを置くひともいるのかもしれないけど。

 でも、本来はきっと、そういうものではなくて……」


 そこまで話したところで、紅狐は言葉に詰まったのか、口を閉ざしてしまいました。




 沈黙の間、翠狸は一生懸命考えてみました。


 火。燃えるもの、燃やすもの。

 扱いを間違えれば火傷や火事などの惨事を招き、正しく扱えばエネルギーとして活用したり、おいしいごはんを作ったりできる。


 考えれば考えるほど、“恋”とは結びつかず、むしろ翠狸の脳みそが焼け焦げて、ぷすぷすと音を立ててしまいそうなほどです。


 まとめるとしたら。

 翠狸には、やっぱりよく分かりません。


「そういうものでは、なくて?」


 なので、素直に続きを促してみることにしました。


「……うん。障害や、困難があると燃える……なんていうことも、ある。

 燃料を投じたときに、燃える。そういったものを乗り越えるための、力を生む。

 そういう、炎」


 何か言おうと思ったものの、言葉が見つからず。

 翠狸はじっと、紅狐を見つめています。

 一生懸命考えて、ひとつひとつ大事に言葉を選んで、手ぶりをつけながら話すそのしぐさや、伏し目がちな表情が、きれいだなあ、などと思いながら。


 やがて話も尽きて、ふたりは黙し、静かに火をながめました。

 ぱちぱちと、火が燃える音だけが聞こえます。


 紅狐の言葉を受けて、あらためて、その火と向き合った今。

 翠狸は、紅狐がしていたようにぎゅっと手を握って、自らの胸に押し当ててみました。


 この先、例えば、ふたりに困難や苦難が待ち受けていたとして。

 何があっても越えてみせる、その意志、熱が、炎が、確かに自分の中にもある。

 そのように、思えたのでした。

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