恋の『証明』
ぺらぺら、ぺらり。
緑色のおべべを着たちいさなたぬきが、積み上げられた本の中でころりと寝そべり、
小説や漫画を読み漁っています。
「恋って、なにかな」
いくつも、いくつも。わくわくするような物語がたくさんありました。
その物語たちの多くには、『恋』が描かれていたのです。
恋を主題としているものもあれば、添えるようにそっと差し込まれているものもあり。
時にときめき、時に苦悩し。
報われて喜ぶこともあれば、すげなく振られて悲しみに突き落とされることもありました。
それでも、求めてしまうもの。求めてやまないもの。
「ぼくは紅狐さんが大好きだけど、これって恋かなあ?」
出逢ったときのことは、よく覚えています。
一生懸命やってきて、それなのにちっともうまくいかなくて。
もういいや、休んじまえ、と欄干の上でひたすら寝っ転がっていたところに。
とてもやさしい、どこかなつかしいような、ぬくもりのある声をかけてくれたのです。
目が離せないような、差し出された手をずっと握っていたくなるような。
あの感情は、はたして。
「翠狸。そういうのは、相手がいないところで呟くことじゃないかな」
そう。
これは恋か? なんて悩みは本来、相手のいないところで、自問自答しつつ苦悶していく類のものでしょう。
少なくとも、傍らに座っていたその大好きなお相手とやらに、正面から抱きついて頬ずりしながら問うようなことではないはずです。
「そうなの? ぼく知らないな。だって、一才だし!」
すっかり常套句となった言い訳を聞き流し、満足げににやつく翠狸の頭をぽんぽんと撫でながら。
紅狐は諭すように言いました。
「まあ、それは私の知るところではないよ。
それが恋か、否か。本当のところは、キミ自身にしか分かりようがないさ」
「ふむ、ふむ、ふむむ」
翠狸はひくひくと鼻を動かしながら、何やら考え込んでいるようです。
ただしその手は、しっかりと紅狐の肉球をふにふにし続けていましたが。
「よーし、検証だ!
これはきっと恋だけど、そもそも恋って何か、よくわからないから。
いろんなものと比較、実験、検分、体験!
そうしてこれが恋ってことを、証明してみせようじゃないか!」
らんらんと目を輝かせ、紅狐の腕の中からひょいっと飛び降りて、
翠狸はすたこら走って行ってしまいました。
もう少し、くっついていたかったかな。
紅狐がそんな風に名残惜しく思ったことになど、まったく気づかずに。
やれやれ。先が思いやられることです。




