おまけ サクラハイム最後の日
「・・・っとこんなもんっすかね。最後まで付き合ってもらって、ありがとな。お前ももう新居に移ってんのにわざわざ来てもらって。助かったっす。」
そう片岡湊人に声を掛けられて真田一臣はこれくらい大した手間じゃないと答えた。
「それに、新居に移ってるのはお前も一緒だろ。」
「まぁ、そうっすけど。でも俺は、新居もこっから近いし、管理人さん一人に全部させるわけにもいかないっすし。」
「管理人さん一人に任せるわけにはいかないって思いは皆も同じだと思うぞ。ただ予定が合わなくて、たまたま最後まで付き合えたのがお前を除いたら俺だけだっただけだろ。俺は足もあるし、比較的時間も自由にとれるしな。それに俺もそこまで住居は離れてないからな。それとも、最後の日は管理人さんと二人きりで想い出に浸りながら片付けしかかったか?それなら邪魔して悪かったな。」
一臣がからかうようにそう言ってきて、湊人は言葉を詰まらせた。
「おまっ。何言い出すっすか。別に、そんな。俺は・・・。」
そんな湊人の姿に一臣が吹き出して、湊人はムッとして一臣を睨んだ。
「にしても、今日で本当にこことも最後か。」
そうしみじみと一臣が呟く。
「そうっすね。明日からもう立ち入り禁止っすから。壊されて、更地になって。その後はどうなるんすかね。そう考えると、なんか複雑っす。この桜も引っこ抜かれちゃうんすかね。」
「色々あったな。」
「本当、色々あったっすね。ここで過ごした時間は、本当にかけがえのない時間だったっすよ。」
そう言い合って、二人でサクラハイムの建物を見上げる。今日が本当にサクラハイム最後の日。最後の片付けをして、書類とか色々ここに保管してあった物を不動産屋の方に移動して、忘れ物がないか確認をして、綺麗に掃除して。取り壊すのに掃除する必要があるのかとも思うが、それでも今までここで暮らしてきた感謝を込めて。そしてこれでここともさようなら。一週間前、立ち入り禁止になる前に最後に皆で集まろうと、ここに入居していた全員が久しぶりに集まった。賑やかな宴会の様子は、ここで皆で暮らしていた頃と変わらず、その日常がもうなくなってしまうなんて住人が誰もいなくなった今でも信じられない。この建物の建て壊しが決まってからずっと、残っていた住人達も新たな住居を探しこの日に向けた準備をしていた。そして一週間前のあの日を境に一人二人と新居に移っていき、今はもう、管理人である西口和実一人を残してこの場所には誰も住んでいない。和実も住んでいると言っても、色々仕事が残っていたからここに寝泊まりしていただけで、彼女自身の引っ越し作業ももうないのだが。
「管理人さん、実家に戻るんだって?」
「あぁ。ここに暮らし始めてからの私物はだいぶ増えてたっぽいっすけど、元々実家に私物置きっ放しで、家具とかも全部ここの備品使ってたらしいっすからね。一人暮らしするには色々準備しなきゃいけない物も多いし、ここの〆やりながら新居探して色々用意して引っ越しとかムリって言ってたっす。」
「そうなのか。片岡が実家には戻らず一人暮らしの癖に、職場の近くのファミリータイプのマンションを賃貸じゃなくて購入してたから、てっきり、そういうつもりなのかと思ってたんだがな。一緒に暮らさないのか。」
「あー。だから、それは、音尾さんにごり押しされて、購入させられたようなもんっすから。別に深い意味は。って、何笑ってるっすか。お前な・・・。」
そんなやりとりをして、湊人は大きな溜め息を吐いた。
「こういうやりとりも、もう終わり、なんすかね。こういう他愛のないやりとりがけっこう楽しかったっすよ、俺は。皆とワイワイ暮らすのが。本当に楽しかったっす。」
そうしみじみと言う湊人を見て、一臣が終わりじゃないだろと呟いた。
「ここがなくなったって俺達の絆はなくならない。縁は続いてくし、それに。これからお前はお前の理想の家庭を築いていくんだろ。ここじゃない場所で、今度は大切な人と、自分の家庭をさ。」
「っすね。って、それ、お前、花月の受け売りっすか?あいつが言うならともかく、お前が言うとめちゃくちゃ変な感じがするっす。」
そう言って笑って、湊人が一臣に視線を向ける。
「お前はアレで良かったっすか?」
「何がだ?」
「花月のこと。お前、本気だったっしょ。」
「だな。でもそれはもう過去の話しだ。」
「そうっすか。お前がそう言うならそれで良いんすけど。正直俺は、浩太よりお前と一緒になる方があいつにとって良いんじゃないかって思ってたっすよ。まさか浩太が本当に世界で活躍するようなパフォーマーになるなんて想像すらしなかったし。傍にいて大切にしてくれる奴と一緒になるのが一番だって思ってたっす。今はもう、浩太が悪いとは言わないっすけどね。でも、花月が反抗期してたあの時は、浩太をやめてお前を選ぶべきだって本気で思ってたっすよ。あの時あいつがお前連れ出して、ようやくあいつも恋愛ごっこやめてちゃんと将来見据えた相手選ぶ気になったのかなとか思ったっすけど。まさか、結局浩太のとこに落ち着くとは・・・。」
「なんでそれを当事者じゃないお前がいまだに根に持ってんだよ。」
「つーか、俺は。あの時すんなりお前が浩太に花月を渡したのが理解できなかったっすよ。お前だって花月のことほったらかしてた浩太に腹立ててたっしょ。なのに、あいつから奪い取るどころか、上機嫌で二人を祝福するって意味が分かんないっす。結局、あの時なにがあったっすか?」
「あー。あの時か?そうだな。あの時俺は、完膚なきまでにフラれたんだ。それは清々しいまでにな。俺とはこの先を一緒に歩いてく気はないって突きつけられた。そんでもって俺にあいつがとられるって思い込んだ浩太が、人殺しそうな目で俺のこと睨んできて。花月は自分のだから俺には絶対渡さないって。アレ見た瞬間、大丈夫だって思ったんだ。浩太にならあいつを渡しても良いって、本気で思った。俺の中で完全に吹っ切れたんだよ。それで、俺のあいつへの恋心は完全に終わったんだ。だからもう俺の中に残ってるのは、青春の想い出だけだ。悪くなかったな、俺の青春。」
そう言って清々しく笑う一臣を見て、湊人は目を細めた。
「あの時、今度はちゃんと吹っ切れたんだろうなとは思ってたっすけど。実はちょっとだけ、またごまかしてるだけかと思ってたっすよ。また色々押し込めて、吹っ切れたフリしてるだけじゃないかって。でも本当に。今度こそ本当に吹っ切れてるっすね。良かったっす。お前もこれでちゃんと次に進めるっすね。」
「なんだ。そんなに心配してたのか?」
「っすよ。お前、変なとこ秘密主義だし、ごまかして本音話さないっすから。ちなみに、あいつのこと吹っ切るために彼女作って、上手くいかなかったことも知ってるっすよ。お前が黙ってたからきかなかっただけで。」
「管理人さんか。」
「っす。あの人には俺がお前の事心配してたこともお見通しっすから。」
「本当、敵わないな。」
「っすね。本当、尊敬するっす。なんていうか俺は、最後まで独り善がりが強かった気がするっすから。俺は結構俺の感情で突っ走っちゃうっすからね。結局、管理人さんと違って、俺のはただの余計なお世話が多かった気がするっす。今も本当は余計なお世話だってわかってるっすよ。でも俺は、正直、お前の事が一番気がかりで、心配だったすよ。今こうして話しがきけて良かったっす。お前も大丈夫そうだなって思えて安心したっす。」
「いや。俺が敵わないって言ったのは管理人さんだけじゃないんだが。でも、ま。お前が安心できたなら良かった。お前に心配掛けたまま離れると、お前の心労嵩ませて倒れさせかねないからな。」
「ったく、またそうやって軽口叩くっすから。お前、そうやって笑ってりゃなんでもごまかせると思ってんじゃないっすよ。」
「だな。俺の強がりなんて結局バレバレだからな。」
そう言って一臣は視線を落とすと、だからあいつにもあんなこと言われるんだろうしなと呟いた。それを耳にして、何か言ったっすか?と湊人が疑問符を浮かべる。
「いや。なんでもない。」
そう言うと、湊人に胡乱げな視線を向けられて、一臣は声を立てて笑った。
「ったく、お前って奴は・・・。」
「まぁ、これが俺だからな。俺はこういうやつだって諦めて気長に付き合ってくれ。ここを離れたって、お前とはきっとこれから先も長い付き合いになるんだろ。だからな。これからもよろしく頼むな、湊人。」
そう言うと湊人が驚いた顔で固まる。
「なんだ?何か変なこと言ったか?」
「お前、今俺のこと湊人って。」
「言ったが、何か問題でもあるのか?」
「いや、ないっすけど。今までずっと片岡だったのに、急に湊人呼びとか。なんか、気持ち悪いっす。」
「気持ち悪いってお前な。お前とは結構いい関係構築できてたと思うし、これからは微妙な他人行儀やめるっつってんだよ。ようは、改めてこれからは友達としてよろしくなってことだ。察しろ。」
「あぁ。なるほど?ってか、お前、今まで俺のことなんだと思ってたっすか?」
「お節介な同居人か?」
「なんすかそれ。それって全然、本当全然他人の領域超えてなかったって事っすか?これだけずっと一緒に暮らしてきて?」
「いや。ちゃんと信頼してたよ。サクラハイムのおかんとしてな。」
「なんすか、それ。本当、お前な・・・。」
「折角だし、お前も俺のこと名字で呼ぶのやめろよ。名字はなんか他人行儀だろ。」
「そうっすか?俺は別に他人行儀とか思わないし、真田は真田でいい気がするっすけど。でも、お前が名字で呼ばれるのが他人行儀な気がして嫌だって言うなら、じゃあ。そうっすね。えっと、カズオ?」
「なんだよカズオって。誰だよそれ。」
「いや、だって一臣って微妙に長くて呼びにくくないっすか?」
「遙も花月も普通に呼んでんだろ。ってか、略すにしてもなんでそこで切んだよ。」
「あー、じゃあ、もうカズで良いっすよ、カズで。」
そんなやりとりをして笑い合う。
「じゃあな、湊人。」
そう言って一臣が自分のバイクの方へ向かう。
「もう帰るっすか?管理人さんが戻ってくるまで待ってれば良いのに。」
「いや。やることも終わったし、お邪魔虫はとっとと退散するよ。」
「なんすかそれ。」
「なんていうかな。お前は人の心配ばっかしてないで、自分の事しっかりしろよ。タイミング逃すと、ずっと先に進めないぞ。こういう節目にびしっと決めとけ。」
そう言われて、湊人が言葉を詰まらせている間に、じゃあなと言って一臣がバイクに乗って去って行く。その背中を見送って、湊人はまた大きな溜め息を吐いた。
「こう言う節目に、びしっとって。そんなこと言われたって、何も用意してないっすよ。ったく・・・。」
そんなことをぼやいて空を仰ぎ、茂った桜の葉の隙間から差し込む太陽の光が眩しくて、湊人は顔を顰めて手で影を作った。もう春も終わりっすね。花が散り、青く影を落とす桜の枝を眺めて思う。始まりは春だった。妹と喧嘩して家を出ることにして、少し心が荒んでいたときここの前を通って、和実さんが書いた入居者募集の張り紙を見かけて。そこに描かれた柔らかい文字や可愛らしい絵にちょっと癒やされた。本当はあの時、ちょっと家族から距離を置きたいと思っていただけで、本気で住むところを探していたわけではなかった。目に付くとこに俺がいない方が結奈のためなんて言い訳で、嫌なことから逃げたかっただけだった。張り紙を見ていたら和実さんが声を掛けてくれて。和実さんと話をしていたらなんかホッとして、帰りたくない家から本当に逃げ出すか、やっぱり家に帰るのか、揺れていた心がそのまま逃げ出すことを選んだ。そうしてここで暮らし始めて過ごした日々は、俺にとって本当に・・・。
「ただいま。書類関係や業務上のあれこれようやく終わったよ。掃除ありがとう。あとは最後の確認して、施錠して、鍵を松岡さんの所に持っていけば終了。って、あれ?真田君は?」
そう和実の声がして、湊人は彼女の方を振り返った。
「やること終わったから帰るって、ついさっき帰ってったっすよ。」
「そうなんだ。折角だから、最後に残った三人で打ち上げ的にどっかでお疲れ様会でもなんて考えてたんだけど。残念だね。」
「っすね。」
「ねぇ。もしかして、さっき感傷に浸ってた?」
隣までやってきた和実が、からかうような調子でそうきく。
「うーん。なんていうか、もう春も終わりだなって思ったら、変な感じがしたっす。いつもここで花見して皆でワイワイしてた印象が強いせいっすかね。見上げたら、そこにあるのが青い葉っぱばっかって、なんか。同じ春でも桜は全然違うっすね。始まりも春だったっす。でも、俺がここに来たのはまだ桜も咲いていない頃で。和実さんが声を掛けてくれて、ここに住むことになって、祐二と俺と和実さんと、三人で学生寮の看板外して、シェアハウスの名前考えて新しい看板作って。その後、三島さんと香坂さんが入居して、真田と耀介が転がり込んできて、中学の卒業式が終わってから浩太と遙が引っ越してきて。一年目のスタートを切ったのが、満開の季節だったっすね。あの頃はまだ皆ぎこちなかったなって、今思い出してみると思うっす。三島さんが花月拾ってきたのが初夏でしたっけ?なんていうか、花月が来るまでの間にも色々あったし、あいつがいない頃もそれなりに皆纏まってうまくやってたと思うっすけど、でもやぱあの頃はまだどっかよそよそしさがあったっすよね。でも、あいつが来てくれたおかげで皆の距離がぐっと縮まった気がするっす。あいつが来なきゃきっと、俺達は家族みたいな繋がりじゃなくて、ただの同居人のままだったのかなって思うっす。お互いのことそこまで干渉しないで、それなりに距離をとって。仲良くできる奴とだけ仲良くして、後は知らないって。」
「そうかな?確かに皆が花月ちゃんのことを同じように気に掛けて、面倒見て、それで皆の距離が縮まったところもあると思うけど。でも、花月ちゃんがいなくてもきっと、同じようにアットホームなシェアハウスになってたと思うよ。だって、湊人君は皆に平等にお節介だし、心配性で過保護だし。相手が嫌がろうと反発しようと、自分の考え押しつけてくるし 。結構我が強くて、ひかないし。わたしも何度意見の食い違いで喧嘩になったことか。」
「うっ。それ、褒めてないっすよね。」
「うーうん。そうやって真っ直ぐ自分の思ったこと相手にぶつけられるって良いことだと思うよ。そうやってぶつかり合って関係って築くものでしょ。わたしなんて色々考えちゃって、相手の反応が怖くてひいちゃうところもあるし。大丈夫かなって様子見ながらおそるおそる。お節介やくにしても、本当にね、色々、色々考えちゃうんだよ。本当にこれで良いのかな。これが正しいのかなとか。その割に考えなしで行動しちゃうことも多いんだけど。でも、わたしは湊人君みたいに瞬発的に相手のためにパッとは動けない。そいうの凄いなっていつも思うし、頼もしいなって思う。湊人君はさ、思った時にはだいたいもう行動してるし、けっこう感情的にもの言うし。そういうのが、凄く、自分の事考えてくれてるんだなって。しつこいのも自分の事思ってくれてるんだなって感じられるというか。なんだろう、湊人君の譲れないは相手のためって解るから。それは違うって思っても、この人はこんなに相手のこと大切に思ってるんだなって解るから。結奈ちゃんと喧嘩したときは、結奈ちゃんの気持ちと向き合わないで逃げちゃったけどさ。そのこと湊人君は凄く反省して、相手の言ってることをちゃんときいて、相手の気持ちと向き合うことも覚えたじゃない。だから、今の湊人君とは喧嘩になっても怖くないんだよ。言い合いになったって湊人君はちゃんと受け止めてくれるって信じれるから。喧嘩してでもわかり合いたいと思う。湊人君には解って欲しいって思う。他の誰に誤解されても湊人君だけにはちゃんと解ってて欲しいって、受け止めて欲しいって。ついつい甘えちゃうんだよね。絶対的な安心感かな。この人は絶対に自分の味方になってくれるって、そういう安心感が湊人君にはあって。わたしだけじゃなくて、皆も、同じように湊人君の事信頼して安心感を覚えてたと思うよ。湊人君が居る場所が、一番安心できる場所だって皆思ってたと思う。だから、そんな湊人君がいる場所が暖かい絆溢れる場所にならないわけないと思うんだ。湊人君がいるところはどこだって絶対暖かい家庭になるよ。」
そう和実に真っ直ぐ伝えられて、湊人は色々な思いが溢れてきて顔が熱くなった。
「そんな風に俺のこと変えたのは和実さんっすよ。」
そう呟いて和実から視線を逸らすように湊人はサクラハイムの建物を見上げた。
「色々あったっすね。本当。色々。」
「そうだね。色々あったね。楽しいことも、嬉しいことも。辛かったことも、大変だったことも、色々。」
「和実さん、寂しいんじゃないっすか?結局、花月も一人暮らしすることになったし。」
「そういう湊人君こそ寂しいんじゃないの?家族団らんができなくなって。」
そうからかうように和実に言われて、湊人はそうっすねとこたえて彼女を真っ直ぐ見つめた。
「だから、一緒に暮らさないっすか?」
そう伝えると和実が心底驚いたような顔で見上げてくる。
「和実さん。俺と一緒に暖かい家庭作ってください。」
そう伝えると、和実の顔が一気に赤くなってあからさまに動揺して、あ、とか、えっと、とか言葉を詰まらせて、湊人は小さく笑った。
「一応言っとくっすけど。これ、プロポーズのつもりっすよ?いや、指輪も何も用意してなくて悪いんすけど。そういうのはこれから二人で準備してく感じで。その。ダメっすか?」
「いえ。ダメではないです。こんなわたしでよろしければ、どうぞよろしくお願いします。」
そう赤くなった顔をうつむけて言う和実を見て、湊人は思わず吹き出した。
「ちょっと、笑わないでよ。」
「だって、和実さん。俺が告白したときと反応一緒っすよ。」
「しょうがないでしょ。まさか、今日そんなこと言われるとか思ってなかったし。全く心の準備もしてなかったんだから。」
そう色んな物をごまかすように噛み付いてくる和実を見て、湊人は幸せだなと思った。こうやってこの人とずっと一緒に。ここはなくなるけど、今度は和実さんと二人で、自分達の家庭を作っていく。自分達の、暖かで賑やかな理想の家庭を。
「和実さん。これからもずっとよろしくお願いします。」
「こちらこそ。これからもよろしくね、湊人君。」
そう言い合って、二人は笑い合った。そしてサクラハイムの屋内を見回って、施錠する。
「これでお終い。」
そう和実が呟いて、二人でサクラハイムに最後の別れを告げる。今までありがとうございました。沢山の出会いと想い出の詰まった、とても大切で大好きだった皆の家。そして踵を返し、二人は肩を並べ歩き出した。