7話 バレなかった変装
サブタイトル変えるかもしれないです。
周りに人がいないのを確認してから俺は声を潜めてルロに聞く。
「なあ。俺って今、門番に頭下げられるような人、って感じなわけ?」
「話し方」
「門番に頭を下げられるような人、って位置づけな……の?」
「ああ。言われただろ、王が待ってるって」
平然とルロが答える。なんか緊張してきたぞ。そもそも俺、なんの用事で王に会うんだっけ。
「なんで王に会うの?」
「随分今さらな質問だな。まあ会えばわかる」
またそれか。会えばわかるって。会う前に知って置きたいこともあるんだけどなあ。
城のドアの前でルロは馬車 を止める。まず自分が降りて俺が降りられるように扉を大きく開ける。
乗る時にも思ったが、結構これ高さがある。地面から一メートルくらいか。だから乗り降りは意外と大変だ。
まあ今回は乗るときと違って飛び降りればなんとかなるし、と思ったとき差し出された手に気づく。
「何、その手」
「どうぞ、お掴まりください」
そういうことは聞くな、と声が聞こえた気がする。うん、ルロはお掴まりくださいっていうよりそっちの方が似合ってるよ。
「いや、掴まるっていっても」
言い終わる前にぐいっと手を掴まれて引っ張られた。
「うわ、おい!」
だが俺が落ちる前にルロは俺の腰を支える。かろうじて足はまだ馬車の上にあるけど、ほとんどルロに抱き上げられている状態だ。こいつやっぱ力強いんだよなあ。俺仮にも男子大学生だぞ。
「そうじゃないだろ」
お互いの顔の距離十センチあるかないかというところから囁かれる。
そうじゃないというのは、驚き方が違うという意味でいいのだろうか。
「き、きゃあ?」
「及第点」
ルロが俺の腰を両手で支えて馬車から降ろす。……俺、男なんだけど。
地に足を付けるとルロは俺の背後にまわった。
「……なに」
そういうことは聞くな、役割的にハルが前なんだよとまた囁かれる。声をもう少し高くとも。
役割的にって、そもそも俺自分の役割知らないし。王に会うってことくらいしか。声だってなあ、いくらなんでもバレるんじゃないか。
それだけでは説明不足だと察してくれたのか、今度は普通の声量でルロが言う。
「ドアをノック、ですよ。久しぶりですし、お忘れですか?」
俺は振り返ってルロを凝視する。なんだこいつ。口調かわってるしなぜか敬語になってるし。
ルロの服は俺が山で着ていたものだから、汚れているのを目にして俺はようやく気づく。俺が主人みたいな感じで、ルロが召使い的な役割だということか。
またくるりとドアの方を向く。ドレスの裾がふわりと揺れた。うう、やっぱスカートは落ち着かない。
さっきルロはノックだといったから、ドアをノックすれば開けてもらえるのだろう。
一歩ドアに踏み出そうとして、足首がぐきっとなる。そうだ、俺が今履いてるのはハイヒールだった。女性からすれば五センチヒールなんて大したことないのかもしれないが俺からすると相当キツイ。普段みんなよくこんなの履けるなあ、とつくづく思う。
山の家から馬車までは俺がもともと履いていたスニーカーだった。汚れるから、とルロに言われて。まあドレスを汚さないようにルロが珍しく俺が山を歩くペースに合わせてくれたから、ヒールでもいいんじゃないかなー……と思っていたけど甘かった。歩けないぞこれ。
「大丈夫ですか。お怪我は」
ふわっと抱きかかえられる。生きてる間にお姫様抱っこされるとか絶対にないと思ってたのに。馬車に乗るよりありえないと思ってたのに。
「な、ない。だいじょぶ」
結局ドアまで運ばれて、ノックしたのもルロだった。
コンコン、という音に続いて重そうなドアがゆっくりと開く。中で執事っぽい人が一人こちらにお辞儀をした。
「お待ちしておりました。……それで、なぜそのようなことに」
転びそうになったところをルロが、と答えようとしたがその前にルロが言う。
「彼女は何日か前から足首を痛められておりまして。道中の馬車では大丈夫だったのですが、歩くのは痛いと」
「そうですか。では、王室で王がお待ちです。そのままお連れください」
ルロは彼に一礼すると俺を抱きかかえたまま、正面にある大きな階段を上っていく。さっきの彼からは見えないようになにやら絵が飾られている踊り場で俺を下ろした。
「歩けますか」
「は、はい。大丈夫……です」
慎重に一歩出してみる。うん、ゆっくりなら行けそうだぞ。
俺が歩き出すとルロはその後ろをついてくる。
「……がに股で歩くな」
「おう。……無理、これが限界。で、王室ってどっち?」
「その正面の部屋だ」
声をひそめた会話も終え、俺はその黒い重厚感のあるドアを叩く。
しばらく待ったが中から反応はない。ちら、と斜め後ろのルロの様子を窺うと「入れ」と言う感じに顎を動かした。
金のドアノブをひねって開ける。中は思ったより狭くて、中央の椅子のうち片方に誰かが座っていた。あれが王だろう。
世界史の教科書によく出てくるなんとか五世とか八世とかそういう人たちの服と同じような服を着ている。髪は俺のカツラと同じ色で目は深い青。鋭い目がこちらを向く。
「遅かったな。まあいい、座れ」
何か言った方がいいのだろうか。曖昧に頭を下げて向かいの椅子に座る。おお、見た目通りふかふかだ。ドレスだと座りにくいけど。
ここにくる前散々ルロに「足は閉じて座れ」と言われたのでその通りに座る。
「元気だったか、シャルロラ」
ルロは応えない。どうしたんだ、と思いながら振り返るとそこには誰もいなかった。ルロは召使い的役割だから入らなかったということか。……待て。てことはこの人俺に向かってシャルロラって言った?
とりあえず高めを意識した声で「はい」とだけ答えておく。王は軽く頷いたあとまた口を開いた。
「誕生日は明日だったな。なにか欲しい物はあるか」
「いえ、特には……」
「なんでもいいぞ。好きなものを」
なんだ。ルロが今欲しいものとか知らないんだけど。
はあ、まあ、と場を曖昧に濁して、「またディナーのときに」という言葉を聞いて王室を去る。
ドアをそっと閉めて一息ついた。そんな俺をドアのすぐ外で待機していたルロが見上げる。俺今ヒール履いてるから身長差がいつもより大きいぞ。
「緊張したー……」
王としての貫禄ももちろんあったし、あの目で全て見透かされているような気がした。俺の姿が変装だということも。
さっき彼は俺に向かって「シャルロラ」と言った。つまり、俺は女装してルロになったということか。いやでもルロは男だし。シャルロラっていうのは名前じゃなくて苗字だったのかもしれない。
ルロに詳しいことを聞こうと改めてルロの方を向くとルロは全て知っているとでもいうように頷いて「ついて来て」と小声で言った。
長い廊下を何度も曲がったり階段を上ったりして連れていかれたのは城にしては質素な部屋。ベッドとテーブル、イスが二個置いてあるだけの。
しかしどれにも埃一つなく、掃除が行き届いてあることを窺わせる部屋だった。
「ルロ。ルロは──」
なんと聞こうか言葉に詰まる。女性だったのか? でいい気もするが、それより気になるのはルロが女だったということより、俺がルロに変装していたらしいということだ。
ルロはゆっくりとこちらを振り返る。さらに言葉を重ねようとした時、ルロがふらっと後ろに倒れる。慌てて背中に手を伸ばしたため床に倒れることは防いだが、腕の上でルロはぐったりと目を閉じていた。
「ルロ。ルロ? おい、起きろ。ルロ。ルロ! 誰か、ルロが! 誰か来てください、誰かぁー!」
パニクった俺の叫び声を聞いて駆けつけてくれた召使いらしき人たちがルロを医務室へ運ぶ。
俺は「シャルロラ様はいいですから、私どもで介抱いたしますので」と言われてただ運ばれているルロに付き添っているだけだったのだが。
「ふく……」
「ん?」
ベッドに横たえられているルロが声を漏らす。
「ふくしゅう……しないと……奪われた、ものを……取り返さないと……人生を……やり直、さ、ないと……ふく、しゅう……しないと……しないと……」
あんまり話進まなかったけど、九話らへんで新キャラ登場です。ぶっ飛んでる女の子です。
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