5話 そっくりさん
四話のあとがきにも書きましたがタイトル変えました。前は「美少年に脅されたら美少女に助けられました」です。
「は?ふっざけんな違えーよ!」
「いやでもこの女物の服とか靴とかに、このかつら……」
今そのかつらをかぶっているのが俺だというのが何とも情けないけれど。もし今誰か来たら俺が女装趣味だと思われるんだろうなあ、と考える。まあ誰も来ないだろうけど。
「……お前とりあえず死ね」
「なんでそうなるんだよ!」
「知るか! ハルがバカなのが悪い」
そのまま踵を返してルロはさっきいた部屋に戻ろうとする。
どうも機嫌を損ねてしまったようで。いやでも、ここに連れてこられたら普通はそう思うだろ。この家に住んでんのルロしかいないんだし。
まさかリトライする前の俺が……? んなことないよなあ、と自分で考えを打ち消す。リトライは時間を遡るんだから、もし、万が一、何かの間違いで、ここで俺が女装していたとしてもその痕跡は消えているはず。
「おい、なんのために俺をここに連れてきたんだよ」
「……そうだった」
またくるりと振り返ってルロはこちらに戻ってくる。
なんだ、ルロも意外と天然じゃねーか。
「ハル、こっち来い」
「おう、で?」
「ここ座れ」
上に大きな鏡が置いてあるテーブルの前に座らされる。椅子もなにやら高そうな感じだ。
ルロはあちこちの棚をあけてなにか細々した物をいくつも抱えて戻ってくる。
「で目ぇ瞑って」
「おい何すんだ」
「んー別に何も」
「絶対なんかするだろ!」
あたりまえじゃん、としれっとルロは笑う。こいつ……俺に女装趣味はないのに。
ほら鏡の方向いて目閉じて、といいながらルロは俺の頭を無理やり前に向けさせる。
「あっれー? 従ってくれないのかなあ」
……確信犯め。これで俺が逆らったらどうせまた「殺す」っていうんだろ。
しぶしぶ目を閉じると頭の上からルロの声がする。こいつが木に登ってるとき以外で上から話しかけられるのは新鮮だ。態度はでかいくせにチビだからな。
「はい、素直でよろしい。じゃあまず……どうすっかな、よし、これでいくか。……あ、目は閉じてろよ」
かつらの前髪と元々の俺の髪をいっしょくたに左側に寄せてぱちんと止められた後、液体の入ったボトルを振る音がする。
「じっとしてろよ」
ひんやりとした手が俺の頬をなでる。きっとさっきの液体を手に付けたのだろう。
「うわっなんだよ」
「動くなっつってんだろ」
「わ、わかった……」
ひとしきり顔全体に冷たい液体を塗った後ルロが何かを手にとっては置き、手にしては置き、を繰り返している音がする。カタ、コト、という音が止まってまたルロの手が触れた。
「うっ……悪い」
殺す、と言われる前に先手を打つ。しょうがないだろ、目閉じてるせいで次ルロがどうするかがよめないんだから。いきなり触られたらそりゃ驚くって。
なんだ、俺が今塗りたくられてるこのべたべたしたものはなんだ。
手が離れてからまたカチャカチャと音がして、今度はルロが俺の前に回り込む気配がした。今度は一体なにをされるんだ。
瞼、それも睫の根元の少し上を細い何かがなぞる。ルロの手が頬に触れるか触れないか微妙な位置を掠めて動いた。
「絶対に目開けるなよ」
今度はルロに先回りして言われる。わかってるよ。──めちゃくちゃくすぐったいけど。絶対目は開けねえ、と決心してぎゅっと目をつぶる。
「うわっ、バカッ」
え、何。俺なんかした?
「くっそ、やり直しだ。せっかく綺麗にできてたのに」
さっきなぞられていた部分を今度は少し冷たい布?ティッシュ?のようなもので雑に擦られる。
痛い、痛いって。
「お、俺なんかしたか……?」
「ああしたね。これは言ってなかったからしょうがないが、いいか、絶対に瞼を動かすな。自然に閉じた状態でいろ」
そしてまたなぞられる。……くすぐったい。
そのうち目の周りは終わったらしくふさふさしたものが頬の上を奔った。
乾かすから絶対目動かすなよ、と念を押された上でだが。
その後もいろいろなものが俺の顔を行き交い、
「……よし終わった。目開けていいぞ」
おそるおそる目をあける。
鏡の中には一人の女子。
「うわ、すっげー。これ俺?」
「ああ。……なかなかのもんだろう」
「プロ並じゃん。いやー、化粧でこんなになるとかすげー」
ぱっちりした目に、長い睫毛。色白の肌──俺がもともと白いわけではなく──に頬の薄いピンク。なぜか柔らかそうになっている、もともとはがさがさだったはずの唇。これもやはり薄めのピンクだ。
「ご満足いただけたようで」
いやなんかその言い方すると俺がメイク頼んだみたいなんだけど。ていうか今更だけど俺にこんな化粧施してどうすんだよ。
鏡の中のルロと目が合う。なんか嫌な予感。
「これ付けろ」
「なんだ?これ」
小さいプラスチックケースを渡される。
開けてみ、と促されて開けると入っていたのは少し透明がかった緑色の、小さな丸いもの二つ。
「これ……は、コンタクトか?」
「そう。いわゆるカラコンというやつだ。度は入っていない」
「え、やだ、俺コンタクトつけたことない」
「今付ければいい」
そういう問題じゃなくて、目の中に入れるというのが怖い。だって、瞼の裏に行っちゃって取れなくなったとか、普通に付けてただけなのに目の中で割れてたとか! そういうのよく聞くから絶対につけたくない。
カラコンに憧れた時期もあったがもう今となっては絶対につけたくない。常日頃から、視力が落ちてもコンタクトにはしない、眼鏡でいいと思っていたぐらいだ。
「普通に、指の上に乗せて目に付けるだけだ」
「無理無理無理」
「なんで」
そんな冷たい目で見下ろされてもなあ。怖いものは怖いんだからしょうがない。
せめてもの時間稼ぎにと話題を少し逸らす。
「な、なんでカラコンつけるの?」
「つければわかる」
くっそー、結局つけろってなるのかよ。
恐る恐る指でつまみあげる。
「え、え……これどうすれば」
「レンズのとこには爪をあてないように気をつけて、人差し指の上に乗せる。上向きにな」
言われた通り持ち変える。
レンズのとこっていうのは、この色が付いてない真ん中の透明な所だろう。
「んで、目にいれる」
友達がコンタクトを付けるところは何度か見たことがある。だが見るのとやるのとじゃ大違いだ。
とりあえず友達がやっていたように上と下の瞼を指で押さえる。それからゆっくり人差し指を近づけていくが、
「──無理無理無理やっぱ怖い!」
「駄々っ子か。早くしろ」
「無理だって、これ眼球に付けるんだろ⁈ 無理絶対無理」
「じゃあ入れてやろうか?」
「…………自分でやる」
鬼。どうせ頼んだら俺の心の準備とか関係なしにやるんだろう。
そうっと震える指で目に近づける。震えてるせいで目に置けない。無理だ、やっぱり怖い。
なんとか片目入れてぱちぱちと瞬きをしてみる。
「おうおう、いいじゃん。次左目な」
「……この悪魔。鬼。…………やればいいんだろやれば!」
右目の時よりはスムーズに、しかしそれでもかなりの時間を要して左目にも入れる。
鏡の中には、綺麗なグレーのストレートヘアに薄い化粧──ナチュラルメイクっていうんだっけ? を施された、エメラルドグリーンの目の女の子が座っている。
──要するに俺だ。女子と言われたら自分でも信じてしまいそうな見た目だが、これは俺だ。
「おお、いいじゃん。完璧。あとは」
「まだなんかあるのかよ⁈」
「当たり前だろ。その服じゃダメだ。よし、ちょっと待ってろ」
俺が今着ているのは普通の紺色無地のネルシャツに黒のジーンズだ。山を歩いたせいでかなり汚れている。
まあ確かにこの顔と髪と目には似合わないよなあ…………ってそうじゃないだろ。なんでおれが女装させられる気になってんだ。
「おい、これ着ろ。文句は受け付けないぞ」
「はああ?いや、メイクとかはともかく流石にこれはっ……え、遠慮しとく」
「遠慮はいらない。さっさと着てくれ、コンタクトに手間取ったせいで時間がない」
ずいっとドレスを押しつけられる。そう、ドレスだ。いかにも高価そうな、子供っぽすぎず大人っぽすぎない、膝丈のふんわりしたワンピース型の、淡い紫色のドレス。
「着替えは適当にこの部屋でやっていいから。終わったら呼んで」
言い置いてルロは部屋を出て行く。まあ、男子同士だしそれは別にいいんだけど。
本当に着るのか、とため息をついてから着替え始める。
なんだこれ。なんか、足がスースーする。背中のリボンもよくわかんねえことになってるし。
廊下にいるルロを呼ぶ。
「おい、リボン結べねえんだけど」
「ん。これはこうクロスに編みあげて、……やってやるから髪の毛あげてろ」
言われるままにかつらの長い髪を持ちあげる。
「……できた。よし、これで完璧だな」
「お、俺はどうすれば……」
「これから山を降りて王に会いに行くぞ」
「…………はああああ?」
ブクマとかしてくれるとありがたいです!




