18話 対照的な、もう一人
そっと肩を揺さぶられた気がして目を開ける。一人の女の子が間近で俺のことをのぞきこんでいた。
どうやら俺はベッドに寝ているらしい。
「気がついた?」
「えっと……ルロ?」
「そうよ。大丈夫?医者を呼んだ方がいいかしら?」
いやいい、と彼女を留めてから考える。俺が創ったのは、レトシャ様に会った後俺が寝なかった世界だよな。そんな些細な違い、世界の違いには何も影響しないと思ってたけど。
まさかルロが長い髪にドレス、女子口調というお姫様スタイルでいるとは思わなかった。
「あなたは違う世界の私によってここに送られたのでしょ?」
首をかしげて問う彼女に俺は状態を起こして答える。
「ああ。だけどなんでこんなに違う世界なんだ?」
「違う?何が?」
「いやもう、いろいろと。まずルロの見た目が違う」
幸い今いるのは俺がさっきまでいた世界の小屋の、ドレスとかがたくさん置いてある部屋にそっくりだから多分ここもあの小屋だが、ルロが違い過ぎる。さっきまで元王女として誰かと会っていたりしたのだろうか。
でも、あっちのルロはさっきまで俺といたし。
「あなたの世界の私は、どういう感じなの?」
「どうって……なんか、ボーイッシュ?な感じ」
間違ってはいないだろう。ボーイッシュどころか最初は男だと思ってたと正直に言っても良かったのだが、衝撃を受けるかもしれないと思ってやめておいた。俺だって、自分じゃない自分の事なんてわざわざ聞きたくないし。
「この世界でも、レトシャ様から魔法をいただいたの。それで、ハルさんを試しに違う世界へ送ってみたわ。だからもしかしたらあなたと入れ替わったのかもしれないし、どこか違う世界なのかもしれないわね」
「じゃあ俺があっちに戻ったらもう一人俺がいるかもしれないってことか?てかそもそもどうやったら戻れるんだ?」
「多分、私があなたをまた違う世界へ送ればいいのでしょう」
「でもそれだとまた別の世界へ飛ばされたりするんじゃないか?」
だってそうだろう。どの世界に俺が行くのか選べるなら話は別だが、どうもそういうわけではなさそうだし。
シャルロラは首を傾けてにっこりと笑う。なんか彼女の雰囲気は、シャルロラというよりロナさんだな。
「なんとかなるはずです。それより、あなたは知らなくていいのですか?この世界のハルさんのこととか。気になりません?」
「まあ気にならなくはないけど、知ったところでどうするわけでもないし」
シャルロラの目がきらっと光った。多分涙とかそういうのじゃなくて、アニメとかでキラーン!って効果音が入りそうな。
「どうするわけでもなくても、知りたいと思うことくらいあるでしょう?」
「うん、まあ」
「ハルさんは……そうですね、外見はやはりあなたと結構違いますね。あなたの世界とここでは外見に対する感覚がなにか違うのでしょうか」
シャルロラは本気で考え込んでいる。こんなことでそんなに考え込まなくても。
「どんな見た目してるの?俺自分がこれと大きく変わった格好してるの想像つかないんだけど」
「こちらのハルさんは、シャロントに似てます」
「シャロント?」
ご存知ないですか?とシャルロラは首をかしげる。ご存知ないっていうか、見た目を知らないっていうか。むしろ知ってるのは名前くらいだ。
「シャルロラの双子の妹だろ?それは知ってるけど、会ったことないな」
「そうでしたか。髪とか目の色は私と同じです。双子ですからね」
待て。俺が灰色の髪にエメラルドグリーンの瞳ってこと?想像がつかない。
いや、そういえばシャルロラに変装した時はそうだったか。でもあの時は化粧してたしなあ。
「シャロントが髪を切ったらハルさん、という感じですね」
「……この世界の俺も、もともとは別の世界から来てた……んだよな?」
「はい。大学生をやっていたと聞きました」
一体俺がそんな見た目をするようになったのにはどんな転機があったのか。髪を茶髪にしたいと思ったこともあるけど、そんなに目立つ色に変えたいと思ったことないんだけど。
それはとりあえずおいておいて、これはチャンスかもしれない。
「シャルロラはさ、この世界の俺とどうやって知り合ったの?」
俺はいきなり連れてこられたし、その前──リトライをする前、最初にルロと俺が出会った経緯はなんとなくはぐらかされて教えてもらえてない。ささやかにずっと気になっていたのだ。
この世界と同じ出会い方をしたかどうかはわからないが、一応聞いておきたい。
「それは、本当に最初の時のことですか?」
「うん。ああいや、シャルロラが俺と出会ったと思ったとき全て」
「では時系列に沿って。今のハルさん──今は違う世界に行っているハルさんとの出会いからお話ししましょう」
それ時系列に沿ってって言うのか?要するに現在の話から初めてどんどん過去の話になっていくということだろう。
「現在のハルさんは、私がリトライをし、既に私のことを知っていました。つまり出会ったのはこの小屋ですね。脈絡もなくそこにいた、という感じです。リトライですから。
リトライは七回したのですが、そのほかも同じようにこの小屋でした。毎回同じ時間までリトライで遡るようにしてましたから。
ちなみに知ってるかもしれないですが、リトライで遡れるのはリトライをした本人だけですから、リトライをしたことも、それまでになにをしたのかを知っているのは私だけですよ。過去のハルさんのところに私が行く、という感じです」
なるほど。この世界のシャルロラはリトライを失敗せずにちゃんとやったわけか。俺はルロがリトライに失敗したせいで何も知らないまま連れてこられたことを言おうとしたが、やめておいた。知りたかったらシャルロラも聞くだろうし、ルロの失敗を勝手に話すのはなんだか悪いし。
もしかしたら、単なる失敗じゃなく、ルロは意図的にリトライに失敗したのかもしれないし。
「さらにその前、リトライの一回目の前ということですね。その時は、私がハルさんのいた世界に行きました。たくさんの人がいましたが、ハルさんに復讐の協力をお願いしました」
「なんで俺?」
「そらはハルさんが……いや、やめておきましょう。あなたの世界の私が言っていないのなら私も言わないでおきます。ちなみに私もハルさんに言ってませんしね」
またはぐらかされた。どうしても知りたいってわけじゃないけど、やっぱ気になるんだよなあ。
ふわっと髪を耳にかけてシャルロラは言う。
「あなたも復讐のことは知ってますよね。あなたの世界の私も、復讐するんですよね?」
「あ、ああ」
「あなたがまだシャロンとと会ったことがないあたり、その方法は違うかもしれません。あなたの知っているシャルロラについて、もう少し教えてください。普段どんなことをしてるとか、昨日なにをしたとか。あるいはそれこそ初めて会った時の話でもいいです」
シャルロラはまっすぐ俺を見る。その目にはきっと切実な願いがあって、だけど俺はそれを読み取ることはできなかった。
「なあ、その前に聞いていいか?違うところで生きている自分のことをなんでそんなに知りたがるんだ?」
「知っておいて損はないでしょう。せっかくこうして教えてくれる人がいるなら」
「でも、怖くねえ?自分より違う自分の方が幸せだったら、とか思うとさ」
「別に、そんなことないです。それに私は幸せです。あなたのところの私も、そう思ってるはずですよ」




