15話 殺すより、まず魔法
ルロがかりかりとなにかを書きつけていて、俺はその姿をぼんやりと眺めている。俺の足元ではこの前拾った子犬が丸くなって寝ていた。
今更ながら、ルロが王女、というか王の娘だという事実にまだ慣れない。
ロナさんはなんというかオーラがそういう感じなのだが、ルロは──いや、ルロも意外とそういうオーラあるか。
初対面の俺を都合も聞かずこんなところに連れてきて、説明もなしに自分の身代わりをさせるところとかはいかにもわがままな王女様といった感じだ。
それでも俺はここに残るんだから俺も大概だよなあ、と考えながらテーブルに顔を伏せる。
なんだかもう、いろいろなことがあってわけわかんねえ。
いきなり違う世界に連れて来られて、復讐に加担することになって、王女に告られて。
銃持たされたり、動物拾ったりもしたし。
「おい、寝るな」
頭上からルロの声が降って来た。ルロはロナさんのところから帰って来るなり着替え、この口調に戻った。あれ結構かわいかったのに。
「寝てない。なに?」
「復讐で思いつくのを書いてみた」
集中していると思ったらそれか。とりあえずざっと目を通す。
・火事
・爆破
・創作
・普通に殺す
・暗殺
・拷問(できるのか?)
・城の者ごと殺す(?)
などと書いてあった。
なんか、ちょっと簡単すぎやしないか。王をそう簡単に暗殺できるわけないだろうし。
ていうか、
「殺す、のか?」
「ああ。不満か?」
「いや。別に」
「……やっぱお前はハルだな」
ルロはしみじみと呟く。なんだよ急に。
俺の足元の子犬に手を伸ばしてなでながらルロは続ける。なんだよ、結局ルロもこいつのことかわいいんじゃねえか。
「私がリトライで失敗してから、つまり間違ったハルを連れてきたときから、不安だったんだよ。お前はこの世界のこと何も知らないし、復讐に協力してくれるかだってわからなかったし。
それに私のせいでもあるんだけど、出来事変えまくりだったから。だからお前は、ハルだけど私にとってのハルと違うのかって考えてたんだよ。そしたら、お前もやっぱハルなんだってわかってちょっと安心した」
「そりゃ、まあ。俺はハルだし」
言いながら、ルロが言いたいのはそういう事じゃない、と思う。わかってるけど俺はそれ以外になにを言ったらいいのかわからなかった。
「出来事変えまくりって、今までリトライしたときはその前と同じになるようにしてたのか? もうすでに復讐に協力してる俺のいるところに時間を戻してたんだっけ」
ルロは子犬の耳をなでたりしっぽを引っ張ったりしていた手を止めて体を起こす。ルロの手から離れた尻尾は再びくるりと体にそって丸くなった。こいつの名前も決めてやらないとな。
「全く同じ流れにしたらリトライした意味がないし、なるべく変えないようにしようとか気を付けてたわけじゃないけど。でも大体同じタイミングで同じようなことが起こってたな。私達が全然違う行動をすれば当然前回とはかけ離れていくけど。
で、もう私と出会った後のハルのところにリトライして行けば、説明の手間とか省けるからそうしてた」
「そうなのか」
「そ。でも今回はハルが私の身代わりになった時点でもうすでに大きく違うし、ロナさんが協力するって言ったのだって初めて」
「まあ、最終的にはなんとかなるだろ。それより前から気になってたんだけど、俺とルロってなんで出会ったんだ?」
今の俺じゃなくて最初のハルと、と付け足す。
ルロは少し迷うそぶりを見せた後ふっと笑った。
「まあ、そのうちわかる」
「じゃあ、なんで俺がやっぱりハルだみたいなこと言ったのかは教えてくれるか?」
「んーだってその計画案見ても無反応だったから」
「いや一応、殺すのかとは聞いたけど」
「それだけじゃん」
これはさ、と言いながらルロは俺の前においてあった紙を手に取る。エメラルドグリーンの瞳に照明の光が反射した。
「普通の人は、こんなの見たら馬鹿げてるっていうか計画を止めるかなんだよ」
「……つまり俺は変人だと」
「違う。違くないか。どっちにせよ、お前はハルだったってことだ」
やっぱりはぐらかされた気がする。
ルロのいう通り、さっきの計画の紙を見たら止める人もいるだろう。俺だって止めるべきか少し迷った。だが俺は協力すると言ったんだし、俺が止めたところで協力しないことにしたところで、ルロはやめないだろう。
どうせルロがやるんなら、俺もその責任の一端を持とうと思った。ルロ一人で抱え込むより、力にはなれなくても隣に誰かがいた方がきっといい。
俺にもあの時、誰かがいてくれたら──いや、あれはもう過去の話だ。
あまりいい思い出ではないので思い出すのをやめ、ルロに別の質問をぶつける。
「あとさ、ちょっと気になってたんだけど、ここに書いてある『創作』ってなんだ?」
「そのまんま。創るんだよ」
「なにを?」
「魔法を。能力を。あるいは何か武器を」
「そんなことできるのか?」
「ああ。ロナさんの所に行く道中、話しただろ。レトシャ様。この世界の神様」
そういえばそんな人がいるって話をされた気がする。確か、太陽を気まぐれで動かす神様。
ルロはくるくるとペンを回しながら説明する。
「あの人は、だいたいなんでも創れる。魔法みたいに実体のないものも、刀とか銃みたいに物そのものも。あの人に頼めば、これに書いたのともっと違う方法で復讐ができるかもしれない。
今まで爆弾仕掛けるとかはやったことあるんだが、これはまだやったことがない」
そもそもハルにレトシャ様のことを話すの自体初めてだ、とルロは言う。まだやっていない復讐方法という点ではいいかもしれない。
だが、神様がいるのはともかくとして、頼んでなにか創ってくれるものなのか。なんでも創れるっていうのはなんとなく納得だけど、いくら王の娘とはいえ、一個人の願い、しかも復讐への協力なんて到底叶えてくれるとは思えない。
「その、レトシャ様? になにを創ってもらうんだ?」
「魔法、かな。その辺もレトシャ様に占ってもらう」
占いもできるのか。まあ、神様だからなんでもできるということなのだろうか。
「じゃあ問題は、レトシャ様が復讐のためのなにかを創ってくれるかどうかか」
「ああ、それは心配ない」
「なんでだ?」
ルロは不敵に笑う。
「あの人は私の頼みなら聞いてくれる」
絶対に断られない自信があるね、といってさっきの紙の『創作』という項目をぐるぐると丸で囲む。なにか弱みでも握っているのだろうか。
手元を見ていると足元でふわっと何かが動いた気がした。下を見ると目を覚ました子犬がテーブルの脚をかじっていた。ふさふさの尻尾が合わせて揺れる。
「……なんかこいつ、デカくなってね?」
「ああ、そうだよ。そいつ成長早いから」
早すぎだろ。拾ったばかりの頃は三十センチくらいでいかにも子犬という感じだったのだが今は七十センチくらいだ。いくらなんでも早すぎる。
そういう生き物なのだと言われたらそれまでなのだけど。
「だがこの家を破壊するサイズにまではならないから安心だ。この家を破壊できるサイズにはなるが」
「どういう感覚だよそれ」
「この世界にはもっとでかく、家で育ててたら家より大きくなって家が破壊されるようなのも結構いるからな。これは幸いそこまではならなくて、蹴っ飛ばしたら家を壊せるレベルの種類だけど」
「幸いじゃねえ……」
「拾ったのはハルだろ」
まあそうだけど。ルロもこいつのこと気に入ってるみたいだし、今更手放す気もないけど。
そうだ、いつまでも子犬って言ってないでこいつの名前を決めないと。何がいいかなあ、なんかいい感じの奴……
「シロ、とか? こいつの名前」
「短絡的」
「悪かったな!」
「まあ、いいんじゃない」
「いいのかよ」
それしか思いつかなくて言っただけなんだけど。こんな適当な感じで名前を決めてしまったシロに申し訳なく思いつつ、心の中で呼びかける。
お前は今日からシロだ。俺たちと一緒に住むんだ。……頼むから成長しても家を破壊しないでくれよ。
ルロはそんな俺をよそに立ちあがって言う。
「じゃ、呼び出すか」
「誰を?」
「レトシャ様」
「どうやって」
神様呼び出すのかよ。ていうか神様をそう気軽に呼び出せるような世界で大丈夫か、ここ。




