14話 王女の鏡
投稿間空いてしまってすみません。
◆◆◆以降は三人称です。
ロナさんに後ろから抱きつかれているような状態だが、俺は振りほどいていいのだろうか。
他国の王女と使用人という立場を考えると体が動かせない。
ふわっとやわらかい匂いとともに、ロナさんは至近距離で俺の顔を見つめる。
「ね、あってる?」
「あ、え、と……」
「ま、違ってても大体似たようなことでしょ? ね、シャルロラさん」
ルロは違うとも合っているとも言わずに、にっこりと笑って言った。
「そんなことないよ?」
その余裕は素晴らしいけど、とりあえず俺をこの状態から解放してくれ。首に回された手は緩く、別に苦しくもなんともないのだがいろいろと問題がある気がする。ついでにロナさんの髪が首の後ろでふわふわしててくすぐったい。
「……いや、やっぱり撤回する。ロナさんの目的は何?」
「目的?」
「私達に協力する目的」
「ああ。……そんなのいる?」
すっとロナさんが離れて行く。俺たちに背を向けて、壁に掛けられた青い不思議な絵を眺めながら彼女は言った。
「安心して、別にニシュト様に告げ口とかしないから。そうね、協力する理由は、スリルかしら」
「スリル」
俺はぽつりと復唱した。
そうスリル、と言ってロナさんは続ける。
「あるいは、反抗といってもいいかもしれないわ。あるいは未来予知の結果とも」
「どんな未来が見えたの?」
「私の感が告げたのよ。シャルロラさんたちについて行った方が、こんなとこで暮らしてるより面白いってね」
俺は判断を求めてルロを見る。ルロがどう復讐するつもりなのかは知らないが、ロナさんのいう通り、彼女がいた方が資金的に楽だろう。だが同時に、バレるリスクだって大きくなる。ロナさんが裏切らないとも限らないのだ。
ルロはロナさんの背中を数秒の見つめてため息をついた。
「わかったわ。一緒にやりましょう。ロナさんの言った通り、私たちがやろうとしているのは復讐よ」
「それはニシュト様への? それともシャロントさん?」
「父よ。シャロントは──いずれ、仲間に引き込むつもりでいるわ」
「そう、わかったわ。それで、具体的には何をするの?」
まだ決めていないわ、とルロは答える。
ロナさんはそれを聞いて、やっと振り返った。
「じゃあ、この復讐は何回目? そして、ハルさんの立ち位置は?」
やっぱりルロの『リトライ』のことも知ってるのか。
俺の立ち位置は──微妙だよなあ。別に何ができるってわけじゃないし。むしろ足引っ張る側だし。
ルロが俺をこの世界へ連れて来たのはハルが復讐に協力していて、それをリトライしたからだが、そもそも未来のハルはなぜここへ来たのか。どうしてルロと出会ったのか。
「なあルロ、俺も聞きたいことが」
「わかってる。とりあえず、この復讐は七回目よ。ハルは前回もその前も、毎回協力してくれてたわ。ハルと私が出会ったのは本当に偶然。さっきも言ったように、私の家の前に現れたの。私が企んでいることを不思議と見抜いて、復讐の計画の穴を埋めていってくれたわ」
そうだ、今はロナさんがいるから俺は、ハルは違う世界から来たことにはなっていない。本当のことを聞くのは帰ってからになるだろう。
「なんどリトライしてもハルは同じように私の前に姿を現したわ。今回も、そう。立ち位置は、そうね、友達よ」
ふーん、とロナさんは頷く。俺のことはさして怪しまれていないようでよかった。
ルロは「他に質問は?」とでもいうように俺を見る。
「確か、ニシュト様がルロの父で王で、シャロントさんが双子なんだよな?」
「ふふ。ハルさんは確か記憶もなく自分の出所もわからないんでしたよね。シャルロラさんが気にされていないようなのでここではいいけど、人前ではシャルロラさんに敬語を使った方がいいわ。一応召使いなんですし」
「まあ、人前でだけ気をつけてくれればいいよ。で、話の続きは?」
「ルロは王に、自分を捨てたことの復讐をするんだよな?」
そう、とルロは短く答える。
「わかった」
「なにが?」
「いや、俺だけ状況ちゃんと飲み込めてなかったからさ」
「じゃあ、この話はこれで終わりにしましょう。また復讐の計画を立てる時は話に混ぜてくださる?」
ロナさんはそう言って部屋の隅にある机の引き出しから小さな手鏡を二つ取り出した。
小さな貝殻や宝石があしらわれたそれを、片方ルロに渡す。どうやら二つは全く同じもののようだ。
「これを使って。使い方はご存知よね?」
「ええ。キーは?」
「そうね……これでいいんじゃないかしら」
ロナさんはどこからか紙とペンを取り出してさらさらとなにか書き付ける。それを見て頷いたルロは渡された鏡を俺に渡した。
「壊さないように、持っててくれる? その服のポケットに入れておけば大丈夫だから」
俺手鏡とか持ち歩いたことないからあっさり割りそうで怖いんだけど。
ロナさんは一度も手をつけていなかったケーキにフォークを入れながら俺をちらりと見た。
「それで、ハルさん」
「は、はい」
「私の告白、受けてくださる?」
「え、いや、あの、それは」
ロナさんが告ったのって変装したシャルロラだって知ってて、今日こうして会うためじゃなかったのか。てか、告られたのは俺に化けたシャルロラであって俺じゃないしなあ。
「ダメ?」
「いや、えと、ロナさんは、その……俺のどこがいいと、思ったんですか。ていうかルロの変装じゃなくて俺が好きなんですか」
「ふふ。ハルさん初ねえ。前にも言った通り、顔と声がすっごく好きなの! シャルロラさんの変装も素敵だったけど、やっぱりハルさん本人のほうがかっこいいわ。ものすごくタイプ!」
褒められているんだろうけど、あんまり嬉しくないな。そりゃ悪い気はしないけど、これだとただのミーハーっつうか。
顔が好みっていうのも、裏でなにか企んでいるんじゃないかと疑ってしまう。だって今までそんなこと言われたことないし。
声がいいとはたまに言われるけど、容姿を褒めてもらえたことはほとんどない。子供の頃に、「かわいー」と言われたことがあるくらいで。
「どうかしら。お付き合いしてくださる?」
「あの、そういうのはもっと相手のことを知ってからというか」
俺は男子中学生かなにかか。いや、今時小学生でももっとうまくやるんじゃないのか。
もちろん告られて嬉しいし、付き合うのが嫌とかそういうわけではないけれど、何かが違う気がする。
ただ自分が恋愛慣れしていなさすぎて価値観がズレているのだろう。中学生くらいまではクラスで好きな子もいたけど、高校、大学と可愛い子を遠くから眺めるだけで過ごしている。
好きだけど、そういう意味の好きになることはなかった。
「ハルさんは私のこと嫌い?」
「いや、好きですよ。けど、なんていうか、ロナさんのそれだと、俺の顔と声だったら誰でもいいってことになるじゃないですか。それはなんか、違うっていうか……」
「このヘタレ」
ルロがばっさりと切り捨てる。悪かったなヘタレで。
ルロはさらに続ける。
「王女から告白されるなんてそうそうないわよ。うだうだ言わずに付き合っときゃいいじゃない。それからお互いのことを知れば」
「まあ、ハルさんがそういうんなら仕方がないわ。復讐のこともあるから、これからも会うことはあるでしょうし、その間にハルさんに私のことを好きになっていただきましょう」
「あ、えっと、よろしくお願いします?」
ふふ、とロナさんは笑う。可愛い。
彼女と付き合うことになったらきっとそれは幸せだろう。
別にロナさんが嫌いなわけじゃない。恋人はつくらないと決めているわけじゃない。
強いていうなら、自分が嫌いなだけだ。
今日はこの辺でお開きにしましょうか、というロナさんの言葉をきっかけに俺とルロは彼女の城をあとにする。
王国を出て、再びシュワ王国へと向かう俺たちは、背後で起こっていることを何一つ知らなかった。
いや、ルロは気づいていたのかも知れない。彼女の思惑に。それに巻き込まれた、復讐の行き着く先を。
◆◆◆
ロナは貝や宝石の装飾がついた手鏡を壁に投げつける。ごとっと床に落ちたそれは、鏡面は割れていないようだったが蓋が取れてしまっていた。
鏡の付いている方を拾い上げてロナは嗤い、ぽつりと零した。
「ばかみたい」
◆◆◆




