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想いを告げる



 ロバートにエレンに正直に話した。

 ロバートの女性関係が華やかだったのは任務のためであること、今回のクリスティネーテに関しても任務で近づいただけだということ。

 言える可能な範囲で正直に真相を告げた。そんなロバートの話を聞くエレンの表情は冴えない。


「…あなたが嘘をついているとは、思わない。でも、信じることもできないの…」


 そう戸惑ったように言ったエレンにロバートは微笑んでみせた。

 すぐに信じれ貰えないのは承知の上だ。


「これまでの俺の言動から言って、すぐに信じて貰えるとは思っていない。エレンに信じれ貰えるように、今日からきちんと行動で示す」


 だから、俺を見ていてくれ、エレン。


 そう告げたロバートにエレンは顔を真っ赤にさせながらも、頷いた。



 その日から、ロバートは女性に甘い言葉をかけるのを一切やめた。

 しばらくは任務も休ませてほしいと王太子殿下にもお願いをした。すると殿下は呆れた顔をし、「さっさとエレン嬢を捕まえてこい」とロバートを激励した。

 そんな殿下に励まされ、ロバートは毎日せっせとルース伯爵邸へ通った。


「君の理想の男性像、というのを聞いたよ」

「え…?」


 いつものようにマッシュと戯れているとき、唐突にロバートは言った。

 エレンはそんなロバートの台詞に不思議そうな顔をし、意味を理解するとぽっと顔を赤く染めた。


「マッシュを可愛がってマッシュと一緒に遊ぶ一途な人がいいんだって?」

「な……っ! そ、それをどこで…」

「情報源は言えないな」


 くすりと意地悪く笑うロバートの表情は前と変わらない。そのことにエレンはほっとする。最近の甘い熱を孕んだロバートの視線に、どうにも慣れないのだ。異常に胸がどきどきしてしまう。


「その条件、俺にぴったりだと思わないか?」

「ど、どこが?」

「俺ほどマッシュを可愛がれる男はいない。マッシュのことを可愛がる自信なら世界一だからね」

「まぁ…! なにを言っているの。わたしの方がマッシュを可愛がれるわ!」

「いや、俺の方が……っと、今はそれを言い争っている場合じゃないな。えっと次はマッシュと一緒に遊ぶ…これも問題ないだろ?」

「次が問題でしょう。あなたのどこが一途だと言うの?」

「俺ほど一途な男は存在しないと思うけど。もう10年近く君を想っているのだから」

「え……」


 不意打ちの告白にエレンは固まる。

 そんなエレンにロバートはにっこりと微笑み、告白をする(とどめを刺す)


「君が好きだ、エレン。ずっと昔から、俺は君一筋だよ」


 ロバートのその台詞に、エレンの顔は更に赤くなった。




 今日もエレンの様子が大変可愛らしかった、と機嫌よくルース伯爵邸を去ろうとすると、ばったりと久しぶりの人物に遭遇した。


「…あれ。ロブ兄さん、来ていたんですね」

「お邪魔しているよ、トーマス」


 エレンの弟であるトーマスである。

 トーマスは現在寄宿学校に入っており、休みの時くらいしか家に帰ってこない。

 そういえばそろそろ寄宿学校が長期休みに入る頃だったか、とロバートは思い出す。

 トーマスはロブを見ると、エレンによく似た面差しの顔を緩めて「お久しぶりです」と朗らかに挨拶をしてくれた。

 いつもツンツンしているエレンとは正反対の反応である。そんなトーマスの反応が可愛らしく、ロバートもトーマスのことを実の弟のように可愛がっている。

 それにこのトーマスはロバートの気持ちを応援してくれている。よくできた弟分だと心から思う。


「聞きましたよ、兄さん。とうとう姉さんが気付いたと」

「直球で言ったからね。あれで気付いて貰えなかったら俺は泣いていたよ」


 ロバートの台詞にトーマスはははっと笑ったが、この台詞は本気だった。あそこまで言って気付いて貰えなかったらロバートはきっと立ち直れなかったに違いない。


「だけど…自業自得とはいえ、なかなかエレンに信じて貰えなくてね…」

「なるほど…」


 情けなく笑って告げると、トーマスはふと真顔になった。

 そしてにっこりと綺麗に微笑み、ロバートに告げた。


「大丈夫ですよ、兄さん」

「大丈夫…?」


 いったいなんのことだと、ロバートは疑問に思った。


「姉さんは自分に正直になれていないだけなんです。あとひと押しできっと正直になれるはず。そのあと押しは僕に任せてください」


 なんと頼もしい台詞だろうか。

 ロバートはきらきらの笑顔を浮かべているトーマスに「よろしく頼む」とお願いをし、ルース邸をあとにしたのだった。




 エレンはロバートが帰ったあともマッシュと一緒にいた。

 無意味にマッシュを撫で、そのもふもふとした毛並みに顔を埋める。


(…なんだか、最近のロブはロブじゃないみたい)


 正直言って、ロバートのあの態度に戸惑っていた。

 戸惑ってはいるが、決して嫌なわけではない。


「ねえ、マッシュ。わたしはどうしたらいいのかしら」

「わふ?」

「わたしは…たぶん、ロブが好きなの。だけど、ロブはあの通りのひとでしょう? もし、このままロブの気持ちを受け入れて、婚約して結婚することになったとしたら、わたしはきっとロブの女性関係の噂を聞くたびに胸がざわざわして、嫌な気持ちになるわ。そしてロブを疑ってしまう…。ともに人生を歩んでいく人を疑っていくのなんて、嫌なの」

「きゅぅん……」


 マッシュは困ったように尻尾を下げた。

 そんなマッシュの様子にエレンは慌てて笑みを作る。


「…ごめんなさい、マッシュ。あなたを困らせたかったわけではないの」

「わん!」

「慰めてくれるの? ありがとう。本当にあなたはとても賢くて優しい子ね」

「わんわん!」


 ペロペロとエレンの頬を舐めるのがくすぐったく、エレンは思わず笑い声をあげると、「やっぱりここにいたんだ」とすぐ近くで声がし、ハッとして周りを見た。

 するとそこには呆れ顔のエレンの弟──トーマスの姿があった。


「トーマス。帰ってきていたの?」

「たったいまね」

「そう…そういえば、今日帰ってくるって手紙に書いてあったわね。お帰りなさい、トーマス」

「ただいま、姉さん」


 エレンはマッシュから離れ、久しぶりにあった弟の頬にキスをすると、弟も同じように返した。

 久しぶりに見たトーマスは少し背が伸びているようだった。それ以外は以前にあったときと何ら変わらなく、そのことにエレンはほっとした。


「そういえば、聞いたよ」

「なにを?」

「ロブ兄さんが姉さんに猛烈アタックしてるって」

「もっ…!」


 エレンはトーマスのストレートな物言いに即座に返すことが出来なかった。

 トーマスは普段は寄宿学校に寝泊まりをしており、そのことを知るはずがない。そのはずなのに社交界などの話題に疎くならざるを得ない環境にいるトーマスがそれを知っているということは、つまりそれだけロブのことが噂となっているということだ。

 そこまで噂になっていると、まったく思っていなかったエレンは言葉を失った。


「あのロバート・スペンサーが一人の令嬢に心を射止められたらしいってすごい噂になってるよ」

「う、嘘でしょ…!」


 嘆くエレンにトーマスが笑顔で「嘘じゃないから」と告げる。

 なんて薄情な弟だろうか。エレンはトーマスをきっと睨んだ。


「で、どうするつもりなのさ」

「どうするって…」

「ロブ兄さんのことだよ」

「…それは…」

「悩んでいるんだ? 僕、姉さんは昔から兄さんのことが好きなんだと思っていたけど」

「は…? わたしがロブのことが好き…?」

「だって、そうだろ? 姉さんはロブ兄さん以外に見向きもしなかったじゃないか」

「…それは、だって…」

「そうやって口ごもるってことは僕の言っていることが事実だってことでしょ。いい加減、自分に素直になりなよ、姉さん」


 口ごもったエレンにトーマスはニタリとした笑みを浮かべて、少し勝ち誇ったように言った。

 そんな弟にエレンは反論をしようとして、結局言葉が見つからずに口を閉ざしたのだった。

 

 


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