焼肉電車 シナリオバージョン イントロ
焼肉電車 シナリオバージョン イントロ
パーンと電車が通り、ガタガタと揺れる鉄道高架下の木造ボロ家。
居間兼ダイニング兼寝室の擦り切れた畳の和室で子供達がチャンネル争いの死闘を繰りひろげている。
隣の台所で母親(仲谷美紀イメージ)が吾関せずと、鼻歌(アフリカの月)交じりに葱を刻んでいる。
俳句番組と大相撲中継を交互に映し出すテレビ。終に弟(真治)のリモコンをつかんだ腕を、姉(美紀)が腕拉ぎ逆十字で決める。
弟 「折れるう。 折れるう。母ちゃん、母ちゃん、姉ちゃんに手え折られる。」
姉 「あんたはよリモコン離し。」
弟 「これだけは死んでも放され~ん。」
姉(美紀) 「あんたはよ放さな一生不自由すんでえ。」
弟の手から、無念にも、リモコンが硝子戸の脇にポロリと落ちる
母、包丁を止めて、手拭で拭い、溜息をつき、
母 「あんたらほたえてやんと 仲良う教育テレビでも見なさい。Eテレ見てたら頭が良うなるねんから」
そこへ、国営放送の集金人が店に来る。
集金人 「すいませーん。」
母 「お客さんや!!」
包丁を持ったまま、店への続きの暖簾を分けて、
母 「はい いらっしゃいま、、、」
集金人 「すいません NHKの受信料の集金にうかがったのですが、、、」
母 ピシャリと硝子戸を閉める
集金人 「あ、あのお、、、」
奥の部屋でドタバタ音
再び戸が開き
母 「すいません ちょっと猫のお産で取り込んでるもんやさかいに。」
集金人 「ね猫の、、、」
母 「NHKさんですか? せっかくやけど、家はこんな貧乏所帯やよってに、テレビのような贅沢品はありませんのよ。 どっか他所の持ったはるとこに、、、。ああ そうそう 2丁目の大西フーズさんが、大きな大きな畳ほどもあるテレビ買うたて言うてはりましたで。 あこやったら受信料も二,三倍取れるんとちゃいますやろか。」
集金人 「いや、テレビの大きさと受信料は関係おまへんねけど、、、。それに、テレビあれへんて、さいぜんまで大きな音でかかってましたやん。」
母 「あはははは (姉弟で「あははは」輪唱)嫌やわあ 何を言うたはりますの。夢でも見たはったんとちゃいますか。起きたまま。。。ほれ、このとおり よう見てくださいな。」
母 ガラス戸を全開し
母 「家は枯れても昭和元年創業、正直親切丁寧がモットーの物部本町商店街吉田豆腐店だす。逃げも隠れもしませんで。」
テレビにはダンボール箱で作った仏壇を被せて、その上に姉の美紀が胡坐を組んで座っている。
集金人あたりを見渡してダンボールに目が留まり、
集金人 「お嬢ちゃん、ちょっとそこをどけてちょうだい。」
美紀 「いやや。」
集金人 「せやけど 仏壇の上に胡坐は乱暴やで。 ええから ちょっとどいてみて」
母 「あんたもしつこい人ですなあ。 テレビが無い家から受信料は取れませんやろ。 わかったらさっさと帰っとくなはらんかいな。時分時で忙しいねんさかい。」
母、足でわからぬようにリモコンを隠そうとするが、
集金人 目ざとくさっとリモコンを拾い上げてニマーっと笑い、
集金人 「あれあれ、これはおかしいなあ。 これテレビのリモコンと違いますのんか?」
母 「あはははは (姉弟「あははは」輪唱)何を言うたはりますのん。それはエアーコンディショナーのリモコンですがな」
集金人 「エ、エアコンて、、、そんなもんどこにもおまへんがな。」
弟真治 「痛たたたたたた。母ちゃん、お腹が痛いいいい」
母 「真治 大丈夫か?真治? あかん 白目むいてるわ。 あんた悪いけど今日はええ加減に諦めて帰って。息子の持病の発作や」
真治 「痛たたたたたたたたたたた」
集金人 「じ、持病てなんですのん?」
母 「そんなもん取り急ぎ何でもよろしやろ。 腸捻転だすがな」
集金人 「ちょ腸ねん転。。。」
真治 「痛たたたたたたたったた」
七転八倒する真治
集金人 「しかたおへんなあ 今日のところは帰りますわ。せやけど 又来ますで。わしも集金人の間ではちょっとは知られた、蝮の錦三いいまんねん。ほたらお大事に。」
集金人 錦三、つむじ風と共に去ってゆく。
暫くして真治薄目を開けてニマーっと笑う。
親子三人大声で笑う
真治 「上手い事いったなあ」
母 「ほんま上手いこといったわ」
美紀 「真治 でかした」
ハイタッチしあう姉弟。
大笑いする親子の上を
ガタガタと電車が通り家が揺れる。
吉田豆腐店の上を通る電車が遠景になり 焼肉の香ばしい煙棚引く鶴橋方面に消えてゆき 大阪湾を含む上空からの遠景にフェイドアウト。
「A列車で行こう」のBGMでタイトルバック
『焼肉電車』