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ちょきんさんがゆく。  作者: おっふぅとぅん
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05 逃亡

夜中に二人で宿を出た。

アリーもシャリアも今は寝ている。ミーアにオレの監視を引き継いで交代で寝たためだ。

交代の順はアリー、ミーア、シャリアなので今は真夜中。

月と星がオレ達の逃避行を照らしている……なんていうとロマンチックだが、本人のオレ自身にそんな余裕はない。

これまでの人生史上最高に神経をすり減らしながら夜の街を走る。

早く宿から遠ざかりたい。そして門の近くで夜を明かして朝一番で街を出るのだ。

冒険の旅で使った馬は使わない。アリーの足は馬よりも早いし、隠れて一夜を明かすのにはそぐわないからだ。


「マルク……絶対に幸せになろう。」

「勿論。オレがミーアを幸せにしてみせるよ。」


そう目を合わせて語り合った時。


「みぃいーつけたぁ。」


そんな、よく聞き知った声が聞こえた。

アリーだ。


「シャリアが、ミーアが怪しいって言ってたから、不安になって途中で目が覚めちゃって……見に行ったら二人ともいないんだもん。私、びぃっくりしちゃったぁ。」


影から現れたアリーの表情には何もない。長い付き合いの彼女の顔からはなんの感情も読み取れなかった。

背に冷たいものが走る。

それにアリーは冒険する時の格好だ。寝たにしては寝間着ではない。

わざわざ着替えたのだろうか?

そう考えると余計に不安が募る。なんだ、これ。なんだ、なんなんだ。


「ぉ……ぁ……お・ぉ、ぁぁ…………。」


何か言いたかったはずなのに、オレから出たのはそんな声だ。

体が震える。

この感覚は知っている……これは初めて魔物に出会った時の、怯えだ。

ミーアの事を考えないといけないのに、オレの意識は全部アリーに奪われてしまっていた。距離をとりたくて足を動かしたいのに足に力が入らない。


「マルクぅ、マルクは、ミーアを選ぶの?」


汗がどっど出た。アリーの目が爛々として、月の光を受けたその目がオレの事を見ている。

本人は小首を傾けて、笑っている。傾けて、傾けて……顔が肩にぶつかっていた。

あんなに首を晒したら、すぐに魔物にやられてしまうだろう。しかし今はその魔物でさえも怯えて逃げてしまうだろうと、しょうもないことを考えた。


「そう、マルクは私を選んだの。」


一歩前に出てミーアが強気で主張する。

やめろ、と思った。何が起こるかわからないモノに刺激を与えては。


「アンタには聞いてない!」


夜の街にアリーの怒声が轟く。

頭にガン、と響く声には魔力が乗って、物理的な圧力が込められていた。

思わずヒ、と喉から音が漏れてしまう。


「マルク、やっと見つけたわ。」


後ろから聞こえた声はシャリアだ。救いを求めて後ろを見れば、そこにはいつも通りのシャリアがいた。

手には杖を握ってローブを着ている。


「マルク……。ふふ、マルクとミーアだなんて。おっかしいわ。ふふ、絶対に似合わない組み合わせよね。」


「お似合いに決まってるじゃない。」


「似合わないわ。マルクはね、私がいないと何にも出来ないんだから。ミーアだってそう。あなた末っ子でしょ、それっぽいわ。あなたじゃマルクと一緒になんてなれない。彼の事を何にもわかってない。あなたと一緒になんてなったらマルクが不幸になっちゃうわ。私のマルクが可哀想でしょ?そうよね?」


「そ……それを決めるのはオレ達で、シャリアじゃない。それにオレはシャリアのじゃ……。」


「私のよ。マルクは私との思い出を否定できない。それでなくても、マルクの全てを受け止められるのは私だけよ。覚えてるでしょ……?」


「シャリア、その話は後でよ。今はそこの性格ブスよ。絶対にマルクは騙されてる。」


「それもそうね。マルク、いい?ミーアはどうしようもない性格ブスなの。絶対にやめなさい。」


「……マルク……。」


寄り添うように触れるミーアを見ると、不安に揺れているように見える。

思い出すのはオレを軟禁して責め立てるアリーとシャリアだ。

その中でミーアだけが心の清涼剤だった。


「オレを責めるのはいい、でもミーアをありもしない事で責めるのはやめろ!」


強い心をもって二人に相対する。ミーアはオレが守るんだ。

二人の目はオレじゃなくてミーアを見て、鬼の形相になる。


「アタシのマルクから離れろクソ豚!!」

「ダークネス!」


襲いかかってきたアリーにオレが向かい、シャリアの相手をミーアが行った。


アリーの短刀を抜剣して受け止める。

ギイィィ、と嫌な音がして力が流れた。

返す刃で応戦すれば後ろに跳んで躱される。何時の間にこんなにも強くなったのだろう。彼女とオレの力の差は明確だった。

突進してくるアリーはギラギラと目を輝かせながらオレを捕食しようと笑っているように見えた。甚振っているのだと思った。

ヒヤリとする。彼女の執着は恋だと思っていた。

これはなんなのだろう。こんなのは恋じゃない。それだけはわかった。


「マルクッ!マルクはアタシが何年も何年も何年も見てきたの!私の、私のなの!他の奴の物になるわけがない、私だけの物なの!!マルクッ!マルクッッ!!」


一撃ごとに短剣が重く、乱暴になっていく。躱せない。止められない。

オレは急所だけを守って他の全てを捨てるように逃げた。

速さでは勝てないことがわかっている。逃げても直ぐに捕まるだろう。しかしそんなことは考えられなかった。ただ本能のままに逃げた。彼女は怖い。彼女はオレを捕食しようとしている。恐怖のままに逃げれば、彼女も捕食の本能のままに追いかけてくる。


「ぎゃ、ぎゃあ、ぎゃああぁっ!ヒィッ!」

「マルク、あぁんマルク。もっと。もっと必死になって。私でいっぱいになって。マルク、私とっても嬉しいわ。」

「ぎゃひ、ヒィイッ!くるな、くるなぁ!!」

「すき……すきよ、まるく、すき、すき、あいしてる……。」


角を曲がって、細い路地に入って、また大通りに戻って、走って、走って、逃げて。

真後ろから囁きかけてくるように呟かれる言葉に恐怖していた時、幻覚でも見たような心地になった。

そこに誰かが、オレをじっと見て話しかけたように見えたからだ。


『助けてほしい?』


考えるよりも言葉が出るのが先だった。


「たすけてっ!助けてくれ!!だれかっ!だれかあぁーっ!!」

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