04 酒場の乱闘
翌日の仕事はなんとか無事に達成できた。
町を移動してからの一件目の依頼達成はいつも慎重になる。
験担ぎと停滞阻止が目的だが、なにより、この町の周辺に自分達でも達成できる依頼が存在するということが大事なのだ。次の依頼も受けやすくなる。
環境が変われば、見慣れない場所に苦慮もする。それで仕事が出来なくなって落ちぶれたり居着いたりする冒険者はありふれていた。
日々の糧を命懸けで得るのが冒険者だ。青いと言われる始めの頃は何とかなるが、やはり脱落するものは多い。
マルクパーティーにとって、この街は5番目に訪れた街である。街の移動に慣れ始めたところだ。
移動して初めての収入を必ず酒盛りに費やすのは先輩冒険者に教えて貰った験担ぎの一種だった。
「ねえー、マルクぅー。まぁあるぅうくぅうーっ。」
「何?アリー。」
まだ酔いも回りきらない飲み始めでアリーが絡んできた。今日はいつもより酔うのが早いみたいだ。
四人が座れる席でオレの隣は三人の交代制だ。今日の順番はアリーだった。
アリーは、ヘヘッ、と緩みきった顔をしてオレの腕に抱きついた。
パシャリと少し酒が零れ落ちる。
「私ぃいー、マルクが好きぃいー。すっごい好きぃいー。」
「あーもー、はいはい、わかったから手を放して。酒がこぼれたじゃん。」
「えー。お酒より私の方が好きでしょー?」
ホレホレ、と胸を押し付けてくる。
ふに、ふに、と柔らかく形を変える肉の塊に、その吸い付くような肌を知っているだけに生唾を飲むのを抑えきれない。
ニィ、と心底嬉しそうにアリーは笑った。
「ね、ね、そろそろ……私達子どもじゃないんだし、ココにマルクの……ね?」
そういって絡めた手でオレの手を握ってアリーのそこに導かれて……。
真横を拳が飛んで行った。
シャリアが壮絶な形相でアリーの顔面を殴っていた。
メキリと嫌な音が鳴って鼻から血を流したアリーが白目をむいている。
サアァ、と血が引いていく音を、オレは、聞いた。
そこからは泥沼だった。
冒険者ながらの頑強さで直ぐに目を覚ましたアリーがシャリアに切りかかって、それをミーアが抑えようとして切られてキレて、シャリアが魔法を打って……。
耳を覆いたくなるような罵倒と隠語の嵐に当事者だとわかっているだけに息もつけないほどだった。
周囲の同業者たちは面白そうに見るか、嫌そうに見るかで、助けてはくれない。
こんなに騒いだら兵がくるかとも思ったけれど、これくらいの騒ぎはいつもの事なのかそんなこともない。
ただオレは、此処から立ち去りたい一心で後ろに下がって。
流れ弾の魔法を腹に決められて意識を失った。
目が覚めてもそこは地獄だった。
宿に監禁されたオレはかわるがわる女たちに責められ、結婚を迫られ、結婚をしないならパーティーを出ていくと言われ、他の女と結婚したら出ていくと脅され。
その中でミーアは優しかった。
彼女はオレの事を慮って好きですと告白してくれた。微笑んでくれた。
出来れば結婚も考えたいけれど、二人に恨まれるくらいなら今のままでいいとすら言ってくれた。
感動した。
こんなにも素敵な女性がいたのに、オレは何を昔を引きずっていたんだと思った。
ミーアと一緒に生きていきたい。
もうこんな所でアリーやシャリアといるのはごめんだ。
一緒に逃げよう。絶対に俺が守るから。
そう言うと泣きそうな顔で、……うん。と言ってくれた。