02 マルクパーティー
※軽い性表現があります。
設定ガバガバです。
「雨止んだねーっ!」
おさげの赤い髪を風に遊ばせて、少女は御者席に座る少年に微笑んだ。
少年は少し振り向いて
「うん、本当に良かったよ。そろそろ街にもつくし、宿をとってからでも少し見れるんじゃないかな。」
「やった!私アクセサリーがいい!」
「ちょっと、先に消耗品補充でしょ。ポーションがもう心許無いわよ。」
「えー、街中なんだから大丈夫だよぉシャリア。明日からは真面目にするから!だからちょっとだけ!」
「……なら別々に行動すればいい。私とマルクは宿を取っている。二人はアクセサリーと消耗品を先に見に行く。」
「ミーアっ!ひとりだけずるい!!」
「アリーがワガママなだけ。」
「だったら消耗品の補充もワガママだっていうのかしら。ミーアのほうがワガママなんじゃないの?」
「……シャリアは融通が効かない。」
段々険悪さが増していく車内に頭と胃を悩ませてマルクは馬を走らせる。
高い壁に囲まれた街、セシリィまであと少し。
「身分証を見せろ。」
門番の兵士の横に止まった馬車からマルクは降りて4人分の身分証を渡す。
身分証とは誰もが持つ身分証明書だ。
10才にもなると、近くの神殿に行き貰う事ができる。
名前、年齢、職業が記され、犯罪歴があればカードの色が濁っていく仕様。
神官や巫女のものは純白に、平民は生成り色、犯罪者は鉄錆で、貴族は白金にセルフで魔石が飾られているのが普通だ。
その中でも冒険者や軍人などの暴力職の者の色は特別で、黄色から真紅で強さがわかる。それでも犯罪を起こせば鉄錆色になるのだからいかに犯罪と隣り合わせな職業だとわかろうものだ。
マルク達のカードの色は赤交じりの黄色だ。
「……冒険者か?」
「はい。鉄ランクです。」
「馬車を確認する。おい!」
下っ端の兵士だろう若い男が馬車の後ろに回る。
少しして「問題ありません!ヒト、3!」と声が響いた。
「問題ない。入街税は1人10ペリだ。」
「はい。」
入街税はあるところと無いところがあるが、栄えているところはだいたい存在する税だ。
街の名前によって、入町税、入街税、入市税等言い方が変わるが、ようは街に入るための税金だ。
財布から小銅貨4枚取り出して手渡す。兵士はそれを確認して別の兵士に渡した。
「通れ。」
「ありがとうございます。」
マルクは馬主席に戻り、ピシリと馬を叩く。馬車はゆっくりと足を進めて門を潜る。……と、その時。
「馬車の中、みんな女性でした。もしかしたら……。」
そんな密やかな兵士の声が聞こえた。
――――――――――
「はぁーあぁ……」
なんだか凄く疲れた気がして、オレは深く深く溜息を吐いた。
理由は判っている。同パーティー内の女の子達だ。
オレ以外は全員女で、本当は同性のメンバーもパーティーに入れたいがそれができない理由も、しっかりとオレは理解していた。
幼馴染のアリーも、姉のように慕っていたシャリアも、良くない男たちに絡まれていたところを助けたミーアも、何故かオレの事を好きなようなのだ。
男としては正直悪い気はしないが、それもこう連日顔を突き合わせていると疲れてしまう。……一番心安らぐ時が恋愛の絡まない戦闘中っていうのもなあ……。
普段は仲がいいのだが、ことオレの事になると牽制合いが凄い。今回もアクセサリーで「どれが私に似合う?」なんて質問が来た時は思わず胃を抑えた。
お願いだからオレの事が好きならオレの事にも気を使ってほしい……。
牽制合いも煽り合いもオレを使ってやらないでほしい……。
せめて見えないところでやってほしいと思うのは、贅沢なんだろうか…………。
また溜息を吐こうと息を吐き出しかけた、その時。
「マルクーッ!どこー!?」
「ヒュッ……!!」
アリーの声が聞こえてきて色々引っ込んだ。
反射的に建物の陰に隠れて息を潜めてしまう。
耳でアリーの位置を確認して警戒しながら離れていく。戦略的撤退というやつだ。
心臓がドッドッドと少し大きく跳ね、呼吸が浅くなる。早く離れなければ。
女の子の執着はすごい。四六時中自分の隣にいようとする。それがライバルが近くにいるなら尚更に一緒に行動しようとする。
マルクの自由時間はトイレと風呂だけだった。いや、そのどちらももう時間の問題だった。
隙を見てはベッドに誰かしらが潜り込み、朝には修羅場で責められ、昼にはデートだなんだと外出を急かされ、夕暮れには乙女化する仲間を宥め、夜になんとか宿屋に戻れば夕食にまた修羅場が待っている。
マルクはだからこそ一人で冒険者組合に行って仕事を取ってこなければならなかった。隙を突いては休日デートを画策する仲間から逃げて仕事に癒しを求めた。仕事中なら真面目なあの少女達は文句を言いつつもこなすのだ。
マルクパーティーは誰もが知らないうちに拗れに拗れていた。
「いらっしゃいませ。セシリィ冒険者組合にようこそ。」
「拠点移動願いと、採取の仕事をしたいんだけど。」
「はい、拠点移動ですね。身分証を拝見させていただきます。……鉄ランク、マルクパーティー。ヴェーリアからのお越しですね。他メンバーは3名。増員や欠員はございますか?」
「ないです。」
「承知いたしました。改めまして。マルクパーティー、セシリィの街へようこそ。これからの活躍を期待します。早速ですがご希望の採取のお仕事を斡旋いたします。中級薬草のマーマリーの採取依頼がございます。群生地への道中にギーラ等の魔物が出現する為、少々難易度の高い依頼となっておりますが……。」
「内容は?」
「こちらになります。」
どこまでも事務的な挨拶や内容に内心都会怖いと萎縮しつつ、受付の綺麗な女性の手からス、と一枚の羊皮紙が机を滑る。
「契約書を読み上げさせていただきます。期限は3日、数は出来るだけ。一本3ペリ。料金は出来高となっております。」
「受けたいと思います。」
「はい。では受領書をお渡しいたします。」
サラサラサラッと書く手をボーっと見つつ、マルクの精神は彼方へ飛んでいた。
それはすこぶる暑い、夏の日の昼。
日の光が肌を焼いて痛いとアリーが訴えたので、農作業を一旦休んで日陰へと避難した。
日の下では眩しくてよく見えていなかったが、アリーの肌は可哀そうな程に赤く焼けていて、これは確かに痛いだろうなと井戸から水を汲んできて布に含ませ、赤い肌につけてやる。
「ありがとう、マルク。」
「どういたしまして。……まだ痛い?」
「うん……ヒリヒリする。」
「大人たちの言うとおりに、ちゃんと長袖着てないからだよ。注意されたでしょ。」
「だって……暑いんだもん……」
「それでこんなにしてるんだから自業自得だよね。」
ぶー、と膨れるアリーに「真っ赤に焼けた顔でやられても 可笑しいだけだよ」と笑ったらしっぺ(腕を強く叩く事)された。
滅茶苦茶痛くて痛がると、アリーは嬉しそうにケラケラ笑うから、こっちもやり返してやる!と真っ赤になっている腕をギュッと掴んでやったら。
「…っぁん」
艶っぽい声が二人だけの日陰に落ちた。
えっ、とアリーを見ると、アリーもわかってない顔をしながら、徐々に赤い顔を真っ赤にさせて目を潤ませて顔を隠した。
そんな姿が変に印象的で。じっと目を皿のようにして見ていたらアリーが弱弱しい声で。
「み、……見ないで……。」
なんて。
一瞬で理性が沸騰するように吹き飛んだ。
掴んでいた腕を引き寄せて両腕を片手で拘束し、そのまま唇を奪った。
むしゃぶりつくように乱暴に口を暴いて、口内を蹂躙して、アリーが息も絶え絶えになった時に漸く我に返った。
「っご、ごめんっ!」
「マルク……」
農家の娯楽は少ない。
心のときめく”遊び”があれば、それに熱中してしまうのはすぐだった。
それからのアリーとオレは、時間があれば人に見つからない場所で……。
「……マルクさん?いかがされましたか?」
「……あ、い、いや」
変な事を思い出していた自分に知られたくなくてマルクは焦った。
初対面の受付嬢がそんな事に気づくはずは無いのだが、日頃から女の勘を働かせまくる女たちに慣れてしまったマルクは常に気を張っていた。
受付嬢は気づかなくても、離れた場所にいる仲間たちには気づかれているかもしれないとも思う。最早強迫観念にも近かった。
出来る女の受付嬢はさっさと仕事を済ませたいと話を続けた。
「こちらが受領書になります。依頼が満了すればこちらの枠に依頼主のサインをお願いします。この受領書はなくされると報酬の受け取りが遅くなる場合がございますので仕事完遂まで保管しておいてください。」
「気を付けます」
慣れた方法での仕事だったのでマルクは少し肩を軽くした。
内容を確認したらサッサと仕事に行けるかといえば、そうでもない事は学習済みなマルクである。
昔それで失敗したことがあった。冒険者ギルドの受付は各町によって微妙に受付方が違う。
ここは比較的楽な場所だが、以前とても面倒な町で仕事をしたことがある。その時はろくに話を聞かなかったせいで報酬も貰えず、すぐに街を出てしまった。
同じ轍は踏まない。
受付嬢がこんなに時間を割いてくれるのも初回だけだ。ここで聞き逃すと印象が悪くなったりもする。いいことが何一つない。
マルクは受付を終え、ギルドの中を回る。地形把握などの情報収集もマルクの仕事だった。
よくあるギルドカードの代わりの身分証設定。
カード内容:
名前、年齢、職業
色:
神職 白 →貴族 白金 → 平民 生成り → 騎士/冒険者 黄色・赤 → 犯罪者 鉄錆~黒
お金/ペリ
1ペリ=小銅貨 5ペリ=半銅貨
10ペリ=大銅貨
100ペリ=小鉄貨 500ペリ=半鉄貨
1000ペリ=大鉄貨
10000ペリ=小銀貨 50000ペリ=半銀貨
100000ペリ=大銀貨
この後、金・白金 と続く。