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聖杖物語(セインステッキストーリーズ)シリーズ

聖杖物語 黒の剣編 エピソード2 巫女の娘 

作者: さば・ノーブ

冴騎 美琴は、学園高等部1年生ブラコン・ボケッ子。

獅騎導士と出会うことにより、やがて過酷な運命に翻弄されていく。

ー古より聖なる者と邪なる者との闘いは続いてきた。聖なる者が光なら邪なる者は闇。

 あなたの居る街にも光の当たらぬ闇がある。その闇の中で今夜も・・・・


 ズシャッ

「きゃあ。」女の子が悲鳴をあげ転がった。

「げへへっ、お嬢ちゃんこんな所に入っちゃあもう出られないよ。」

闇の中からひからびた男の声が響く。

「いやっ、だ誰?」

怯えた女の子が叫び声をあげた。

「ひひひ、旨そうなガキだ。」

<ズズズー>

闇から現れたのは頭が猿、服はボロボロの背広を着た式鬼(シキだった。

女の子は蒼ざめ「いやっ、なに、うそ、こないで。」後ずさりしてビルの壁に背をつけた。

式鬼は女の子の目前に瞬く間に近寄り「ひっひい。」涙声を上げたその口元に長い舌をのばしてくる。

うねうねと蠢く舌が自分の顔に着いた時、女の子は気絶してしまった。

「いただきますー。」式鬼が舌を女の子の口内に潜り込ませようとした時、

ービッー式鬼が仰け反り

「ぐぎゃああああ!」

口を押さえてもんどりうった。女の子の足元には千切れた舌がビチビチとのたうちやがて消えていく。

式鬼は己の舌を切り取った相手を探した。

「キ、キサマ」

その相手は闇の間を少し月の光が当たる場所から近づいて来る。

「キッキサマ、獅騎導士ビーストナイツ

式鬼が後ずさりして間合いを取ろうとしたが、

<斬> 相手の剣で胴を2つに斬られてしまう。

式鬼は相手の足元に胴を2つに斬られた形のまま消え去った。

獅騎導士と呼ばれた男が、倒れたままの女の子の元へ近づく。手にした剣を女の子に向けた。

「コーガ兄!」獅騎導士の後ろから元気な女の子の声が響き渡る。

「美琴、また着いてきたのか」獅騎導士は倒れた女の子に走り寄った学園制服を着た少女に声をかけた。

「黙っててよ。虎牙兄」美琴はそう言い放つと、そっと右腕のブレスレットをかざした。

ブレスレットが光を放つと、光の中から聖導器<ハープ>が現れ美琴の手に収まる。

「癒風(癒しの息吹)」

美琴の<ハープ>が音色をたて、倒れた女の子の体を包む。

「これでよし!」

嬉しそうに美琴がうなずく。

「虎牙兄!」

「わかってるって。」

虎牙が女の子を抱きかかえて立ち上がる。

「虎牙兄!エッチなことするんじゃないよ。」

「・・・ウルセぇ」

闇から出る虎牙と美琴を闇の奥で見張る2つの目があった。


「んー。」澄んだ朝日がそそぐ中、あたしはうーんと背筋を伸ばし学校に向かっていた。

あたしの後ろから足音が近づいて来る。

「おっはー」

「おはようです。」

ーああ。今日もお二人さんは元気印いっぱいだねー。-

「おはよー」

「あらー。今日も相変わらずボケッてんねー」

ーう、うるさい!-

「寝不足は美容の天敵なのです。」

ーうう。美容って・・・-

「ほら、ちんたら歩いてたらチコク、チコク!!」

「ですうー」

ーあわわ、本当だあー。-

「走るよ!」

「あわわ。待ってよー」

ーこの二人はー。オサゲメガネのヒナ、ツインテで男勝りなマコ。同じクラスの友人だ。あたしの通っている、西都学園高等部一年生!華の16歳!!!


ーすぴー・・・すぴー・・・-

・・・さん!・・・冴騎 美琴さん!!

ーんん?あたし寝ちゃってた?

「冴騎 美琴さん!!」

「ひゃい!」思わず立ち上がる。

「よーほど私の授業が退屈のようね。」担任の白井 久音先生が厭味を言う。

「そのまま、立ってなさい。」

「ふぁい。ぐすん。」(くす、くす)クラスのみんなに笑われちゃった。

ーうう。はずかしいよおー早くお昼になってー。-

キンコンーカンコンー・・・・

「ううーん」あたし

「ミコットおー。」マコ

「ミコッタン」ヒナ

「泣くな美琴!」

「です」

ーあうあう。また怒られちゃったよー。皆の前で立たされるし・・・-

お昼を食べながら二人に励まされ?ていた。

「ここんとこずっとだねえ。」

「です」

ーううーん。夜あんまり熟睡出来てないもんなー。-

「はあー。」思わずタメ息でちゃった。

「およ。もしかしてー。」

「恋煩いなのです。」

ーへ?こ・こいつらわあー!-あたしが目が点になっているのをいいことに -

「禁断の兄弟愛ってかあー」

「お兄様かっこすてきーです。」

ーえ? -

「獅道兄様ー。」

「ねらってますです。」

ーはあ? -

「あ、あのお二人様?」

「なあーんでミコトん家美男子二人もいんのよ。」

「ミッコッタン」

ーな、なに? - 二人がズイズイっとにじり寄ってあたしに言った。

「お兄様頂戴!(です)!」

ー ぷかあー - 思わず口からエクトプラズム!!!


「ただいまー。」

鍵を開けて入っても誰もいない。街外れの一軒家。庭付一戸建。どこにでも有りそうな普通の家。

とんとんとん、二階の美琴の部屋に入る、一応女の子の部屋なのでそれらしい感はある。カバンを置いて

制服を着替える。

-ああ、そう。今日はあたしだけなんだ。夜になっても・・・。-ふうっと、息を吐く。

ー虎牙兄が今朝あたしが家を出る時言ったんだっけ、今夜は帰れないと思うって。

「美琴は明日も学校があるんだから、今夜ぐらいゆっくり休んでろよ。」って。

ーうーん、本当はついて行きたかったんだけどね。-

だったら、セーターだけでいいや。制服を脱いだあたしの姿がドレッサーに写る。

「はああ。」

-出るとこでてもう少し背が欲しいよー。-

「美琴はダメージを受けた・・・・」セーターを着ながら愚痴ってみました。はい。

ベットの上で膝を抱えて、うとうととしてた。

うとうと ー虎牙兄か獅道兄さん、帰ってこないかなー うとうと

<カチャ> - んん?ちょっと寝てたかな?あ、もうこんな時間だ -

時計は零時を廻っていた。

ー 虎牙兄、大丈夫かな。あの日以来、あたしが聖導士になってから、兄さん達が獅騎導士だと知ってから、夜一人でいると心配で堪らない。・・・心配したってしかたないってわかってるけど・・・ -

とんとんとん・・・階段をおりて様子を伺うけど

ー まだ、帰って来てないんだ。しょうがないな。もうお風呂入って寝よう・・・ -

「あれ?お風呂場電気付けたままだったっけ?」

お風呂場のライトが点いている。確かめる為に脱衣場へ<ガチャ>入った。

「あ!」

「ふえ?」

あたしの前にすっぽんぽんの虎牙兄があああああっ!!!

「ひっぎ、やあああああー」あたしは咄嗟に両手で顔を隠す。

「うわっ、み・美琴いつの間にいい!」

「あわあわ、ま・前かくしてよオ」

「み・美琴が出ろオ」

ー そ・そうだったあ。でも、な・なんで虎牙兄が。虎牙兄がいるのよ。今夜は帰って来ないって言ってたじゃない!なんでお風呂入ってんのよ!! -

慌ててリビングに逃げ出した。心臓がバクバクいってる。

ー虎牙兄の裸見ちゃった。 -

「悪かったな。美琴」 - ビクッ -突然後ろから虎牙兄の声がした。

あたしは振り向きながら、「帰ってるなら声ぐらいかけてよ。」ちょっと拗ねてみた。

「ワリイ。わりいー。」虎牙兄は、いつものあかるい笑顔でシレっと言って手を軽く振る。

ー ん?虎牙兄、腕怪我してる? -

「オレ、寝るから・・・」

そう言って自分の部屋へ行こうととするのを呼び止めた。

「虎牙兄!怪我してるじゃない。」

「あーなんでもないから・・・」

「うそ。隠さないで診せてよ・・・」

「なんでもないって・・・」

そう言う虎牙兄の腕を掴んだ。

「痛!」虎牙兄の顔が引きつった。

「ほら、なんでもなくないじゃん。ちゃんと診せなさいって。」

あたしは虎牙兄の怪我が腕だけじゃない事を知った。シャツの首筋から痣が見えた。

「虎牙兄・・・ちゃんと診せて・・・」

あたしの目を見つめて虎牙兄はソファに腰を降ろす。

「上着脱いで・・・手当てするから・・・」

虎牙兄は黙って上着を脱いだ。

「えっ!?どうしたのこれ。」

あたしはビックリして声を掛けた。首筋から胸・背中まで、切り傷・青痣が着いている。

「く・薬、塗るから・・・」

薬箱から、傷薬を取り出して虎牙兄に塗っていく。

「あ、あのね。痛かったら言ってよ?」虎牙兄は、あたしの顔を見つめて、

「すまんな。美琴。」あたしは照れ隠しに、あえてボケてみた。

「い、言っこなしですよ。おじいさん。ほら、今度は背中。横になってね。」

ソファに横になった虎牙兄の背中に薬を塗っていく。

ー 虎牙兄の背中・・・こんなに広かったんだ・・・ -あたしはちょっとドキッとした。

「あーダンナーコッテますねえー。」ドキドキを隠そうとボケたネタを口に出して虎牙兄の反応を見ようと顔を覗くと、何時になく真剣なまなざしの目が遠くを見据えていた。

「しくじっちまった。」

「え?」

突然な口調に指が止まる。虎牙兄の口からつづく言葉は出ない。

「ねえ。コーガ兄あたしも一緒に行けば良かったかな・・・」あたしが言うと、

「・・・だからだ・・・。」

虎牙兄がポツリと消え入るように言った。その言葉の意味を考えずに、単に否定されただけだと思ったあたしは、虎牙兄に不満をぶちまけてしまった。

「なにが(だから)よ。あたしは足手まとい?聖導士として未熟者なのはわかっているつもりよ。でも、コーガ兄の力になるって決めたのに。なのに、ひどいよ!」

虎牙兄はあたしの顔をじっと見つめている。

ー なにか言ってよ。あたしもっとひどい事言っちゃうよ。虎牙お兄ちゃんに・・・ -

「コーガ兄のバカア!人が心配してんのに!あたし一人をのけ者にして!・・・あたしのバージン返せぇ!!」

ー ああ。だめ。こんなこと言いたくなかったのに・・・あたしってほんと、ばかだ・・・ -

あたしの頭の中はグチャグチャだった。虎牙兄をリビングに残し、自分の部屋のベットに倒れこんだ。

ー虎牙お兄ちゃんのバカ。あたしってそんなに力になれないのかな・・・ -

あたしはそんな自分勝手な事を考えながら、一晩を明かした。


「ミコトー」

「ミコッタン」

「おいおいっ大丈夫かよ。」

「です。」

学園からの帰り道でマコとヒナが心配してくれている。

「あー、ちょっと寝不足なだけだから・・・」マコが、

「あらー、寝不足になる位の恋わずらい?」ヒナも、

「です。」

ー つ・つかれる・・・ー 

「はあ・・・・。」

「これは重症ね。」マコがあたしの顔を覗き込みながら、言う。

「恋煩いには、気分転換が必要なのです。」ヒナ。

「おおー。ナイス、ヒナ。」

ー こ・こいつらわー。ひとの気も知らないで勝手な事を言ってくれちゃって -

「ねえ、美琴。これから、カラオケしない?」

「へ?カラオケ?」

「そうですうー。声を出すっていい気分転換になると云いますのです。」

「行こうよ。いいじゃん美琴。」

「行くのです。」

ーううー。なんかかなり強引なお誘いだなー。 -

ズイズイ二人が迫ってくる。 

-でも、なぜか二人の心配がうれしいかな。 -

「う・うん。ま、いいよ。」

「よしゃー(です)。」

二人があたしの手を取って、喜んでくれる。

「あ。ワリカンね!」

ーう。まっ間違ったかな。-


「あー、うたった。歌ったー!」

「マコさんは、ガナッてただけですう。」

「アンタこそ、私と美琴の歌ハモッてただけじゃん。」

「うー。ミコッタンがうますぎなのです。」

「そーそれ!」

あたしは慌てて、手をふりながら、

「そ・そんなことないって。」マコがそれを制して、

「ほーんと!どっかのオーデション受けりゃいいのにってレベルだよ。」

「です。」

「そ・そんなー。」

 -うれしいな。そんな事言ってくれるのマコとヒナだけだよ -マコは照れるあたしを見ながら、

「まあ、ルックスがもっとこう、ボン・キュ・ボンなら最高なんだけどねえー」

「です。」

ー 前言撤回。・・・でも、アリガトネ。マコ・ヒナ、励ましてくれて。 -

カラオケ屋さんからの帰り道。いつもの通り道を歩いていると、

「おや?」

「です?」

マコとヒナの足が止まる。

二人の横に見慣れない路地があった。

「あれ?こんな所に路地あったっけ?」

「知らない間にできたのです?」

すでに夕暮れから時間がたち、あたりが暗くなり始めた夜道をあたし達がふざけ合いながら、歩いていた。

マコとヒナが立ち止まった路地は、奥へ行くほど暗くその先にポツンと鈍い灯りの様な物が灯っていた。

「帰ろ。マコ・ヒナ。」あたしが二人に声を掛けたとき、すでに二人の表情が変わっている事に気づいた。

笑い顔が失せて、目に光が無くなっている。

「あっ!だめだよ!マコ・ヒナ!」

二人を止めようと手を掴むが何かに獲り付かれた様にあたしの手を振り払って路地に入っていく。

「だめだったら!その闇はー!」

ーそう。その闇は魔獣界へと続く。その闇の中には魔獣鬼が居て人間を襲う。闇に呑み込まれた人間は出られない。 -

「お願い!マコ!ヒナ!目を覚まして!」

あたしの声は今のマコ・ヒナには届かない。闇に二人は吸い込まれてしまった。

ー 助けなけきゃ・・・。あたし一人でも・・・ -

意を決してあたしも闇の中へと足を踏み込もうとした時、あたしの脳裏に虎牙兄の顔が浮かんだ。

ー虎牙兄・・・ごめん。あたし二人を見捨ててはおけないよ。 -

ぎゅうっと手を握り締め、学生カバンをその場に置いたあたしは闇の中に入った。

<シュン>闇に入った瞬間にそこは全く違う空間になった。

見えるのはあの薄暗い光だけ・・・。

「マコー、ヒナー。どこ?」光の元へ向かう途中、二人の気配を探る。

「いらっしゃい。御嬢ちゃん・・・」

突然、耳元で声がする!

ー !! -

振り向くと闇の中であの光が揺らめきながら近づいて来る。

その光の中には、十字架に繋がれたマコとヒナの姿が・・・!

「お友達・・・おいしそう・・・食べちゃって・・いい?」どこからともなく、ゲスいた声がする。

「二人を放して!」あたしは、声の主に叫ぶ。

「こんなご馳走、はなさないよ。・・・聖導士さん。」

ーあたしを知っている? -

「あなたのお連れさんが斃したのは私の下僕でしてね。代わりが欲しいと思っていたんですよ。」

ー この間の式鬼! -

「キキッお二人とも喰らってしまおうと思っていますんで。聖導士さんは私の下僕になっていただきますよ、キキッ。」

ーそんな事絶対させない! -

「誰がそんな事させるものか!」あたしはハープブレスレットを掲げ、

 -はっ!-かかげた手を何かが掴む。

「あぐっ!」お腹に凄い衝撃を受けて、あたしの息が詰まる。堪らずつっぷしたあたしの前に醜悪なサルが立っていた。

「うきき、旨そうだー。」サルはあたしの顔を持ち上げて長い舌を首筋に近づけてくる。

「あっ、ううっ。」気が遠くなる。おぞましい顔が近づいてくる。

ー助けて、獅道兄さん、虎牙兄。 -

意識が遠のく中、耳に聞こえたのは聞きなれない女の声。でも、どこかで訊いた様な気がする。その声は

「その娘を放せ、差留牙!」あたしは、その声の主を見る事なく気を失った・・・。


「美琴のヤツ、遅いな。」

<ピコピロ、ピコピロ・・・>携帯が鳴っていやがる。

ーなんだ。獅道のヤツか。 -

「ああ、オレだ。」

「虎牙兄さん、実は西都学園の近くでダークホラーの反応があったんだ。」

「なんだと。」

ー ん?いやにまどろっこしい話し方しやがるな。 -

「他には何があった?」

「・・・美琴の、ピンク水晶の反応も同じ場所で途切れた。」

ー !! -

「今から現場に向かうよ。取猫も一緒に。」

「わかった、オレも向かう!」

ー なんで美琴が・・・よりにもよって一人で! -

家を飛び出たオレは、足早に現場とされる地点に向かった。

ー無事でいてくれ、美琴! -胸が痛む。昨日たどたどしい指で手当てしてくれた美琴・・・オレの一言であんなに剥きになって怒ってしまった。ちゃんと誤解を解いておけばよかったのに、オレは美琴に本当の意味を教えられなかった。オレが強くないから、大切な美琴を守ることが出来ないから。だから・・・ユキの様な目にはもう味わいたくないから・・・。あの時、オレに力があればユキを守る事が出来た。「虎牙、虎牙先輩・・・私一緒に居られて、うれしかった・・・」そう言って消えてしまったオレのパートナーで聖導士だったユキの事が忘れられない。

「無事でいてくれ。」オレは心の底からそう願った・・・


「虎牙様、こちらです。」目の前に丸渕メガネを掛けた取猫が獅道と共に1つのカバンを見つめていた。

「それ・・・美琴のか?」

「ええ。その他に2つ。」獅道がメガネの枠をツイッと持ち上げながら言う。

ーマコちゃんとヒナちゃんも一緒か。 -

そこはビルの一角であり、そこに人が入り込める場所なんぞはなかった。

「取猫。反応はあるか?」

「ございません。ですが・・・」

「追う事は出来るな?」

「はい、美琴様がおられますのであれば・・・」

「ならば、早く追わないと・・・」

「聖導器を使いますので・・・」

「わかった。」

取猫は自分の懐から銀色に光る容器を美琴のカバンの上に載せ、呪文を唱えだす。容器から、方位磁針の様な物が映し出されて美琴の姿が写しだされた。美琴は手を縛られて椅子の上で気を失っているようだった。

ー 美琴! -

「そんなに離れておりません。こちらです。」

取猫は容器を翳し、ビルの壁に呪文を映し出す。

<ボウっ>壁に深い闇空間が現れる。

「行くぞ獅道!取猫はここでサポートしろ。」

「わかりました。虎牙様。」

オレは弟、獅道と共に魔獣界へ入っていった。


「美琴、美琴。」

ーんん。誰?あたしを呼ぶのは・・・あれ?ここは一体どこなんだろう?身体がふわふわしてる。 -

「私のかわいい娘、美琴。」

ーあたしどうしちゃったんだろう?それに誰なの?あたしのほっぺたをやさしく撫でてくれている。とっても暖かい・・・気持ちいいな・・・心が安らぐってゆうか・・・あっそうか! -

「お母さん?」

「私のかわいい娘、さあ、目を覚まして。」

「お母さん?お母さん!」

ーこれは、夢?夢ならもう少し覚めないで!お母さんと一緒にいさせて!!お母さんの顔が見たいの、お母さんの声を聞いていたいの!お願いだから・・・ああ。優しい光に包まれて、手を伸ばせば届きそうなのに・・・手が、手が動かないよ・・・ -

「美琴!」

ーハッ! 目が覚めちゃった・・・ -

目覚めたあたしの前には・・・

「うっ!あなたは!」

「どうやら目が覚めたようね。」

目の前に居たのは、魔導士パクネ、相変わらず露出度の高い服を着た性悪女だ。

「なんであなたが居るのよ。」

「あーら、ご挨拶ね。ここは魔獣界、魔導士が居ても不自然じゃないわよ。」

ーそ、そうだった。マコとヒナを助けようと魔獣界に入ったんだったっけ・・・そうだ!二人はどうしたんだろう! -

「マコとヒナは?」

恐る恐る気がかりな事を訊いてみた。

「生きてるわ。ただ・・・」

「ただ?」

「差留牙の下僕、式鬼にされてしまったようだけど。」

ーな!なんてことを!ひどい、酷すぎる! -

「酷い!どうして!どうしてそんな酷い事を!」

「まっ、私の知った事ではないわ。」

「あの二人は普通の人間よ、邪な人間じゃないのに!お願いっ二人を、二人を解放して!」

「言ったでしょ。知った事ではないって・・・」

ー !そうだった・・・式鬼にするのは魔導士ではなく魔獣鬼、つまり二人を捕らえたあの差留牙とか言うサル男だけ。あのサル男を斃すか直接二人を倒すか、解放する手段はないって事を思い出した。 -

あたしがうつむいているとパクネが、

「美琴、アンタを連れてこいってあのお方に命じられたんでね。」

あたしを縛っていた魔界縄を後手に廻しながら言う。

「あの方?」

「遭えば判る。」パクネがぶっきらぼうに言い放つ。

「さあ。来な!」パクネの命じられるまま暗い廊下を暫く歩くと大きな扉の前に連れてこられた。

「マスター。パクネです、連れて来ました。」パクネが恭しく声を掛ける。

「入れ。」

扉の中から声がしたと同時に開いた。

妖しく揺れる松明の光の中にフードを被った人がいた。

ー誰? -

その人がフードを外してこちらを振り向いた。

ー ! えっ!うそ!そんな、この人は!! -


「おいっ美琴ーっ!」

「美琴、どこだぁー?」

2人は美琴を探して闇の中を彷徨っていた。

「くそう。切りがねえ。」

「何か手がかりでもあれば・・・」

虎牙と獅道が闇の中で動く者を見つけたのはその時だった。

ー声がする。女の子の声だ。美琴か? -

オレは声の主の方に注意を集中した。

「虎牙お兄ちゃん。」

「獅道兄様。」

声の主は闇の中からゆっくり現れた。

「西野さん、野間さん。」

獅道が呼びかける。オレも「マコちゃん、ヒナちゃん大丈夫か?」

二人がゆっくり俯きかげんで近づいて来る。獅道が二人に駆け寄ろうとするのをオレは遮った。

「待て、獅道・・・」

「え?・・・はい手遅れだったみたいですね。」

ーそう。手遅れ・・・あの子達は魔獣鬼の下僕、式鬼となってしまった。 -

俯き加減の顔の表情はもはや人といえないほど醜く、それはサルの顔と同じく赤ら顔となっていた。

目は赤黒く鈍い光を放っていた。

「ききっ。お兄ちゃんあそぼ?」

「お兄様遊ぶです。」

式鬼と化した二人がそう言うが早いかオレ達に襲い掛かって来た。

「獅道!」

「判っています!斬りません!」

ーなんとか、二人の戦闘力を奪わないと。 -

そう云いつつ右手のブレスレットを翳す。「白銀虎爪ホワイトタイガクロウ!」

オレの右手に鉤爪が現れる。マコの姿の式鬼が打ち出す触手をクロウで跳ね除け切り裂きながらチャンスを窺う。

「うききっ。お兄ちゃん!ほらほらどう?もう手詰まり?」

ヒナの姿をした式鬼が獅道に攻めかかっている。オレは触手をはじき返しながら考えた。

ー逆に触手を引き寄せて近づいた式鬼を弾き返せば!! -

そのチャンスは一瞬でやってきた。

「うきいいいっ!死ねええ。」

式鬼が巨大な触手を繰り出してきた。<サッ>触手をかわし、掴む。

「?うきっ?」

式鬼が驚く暇を与えず思いっきり引き込んだ。式鬼の体ごとこちらに近づく。

「バーニング・クラッシュ!」クロウを式鬼の胴体に叩き込んだ。

「ウッキーッ!!」

式鬼はもんどりうって転がり、動かなくなる。

振り向いた時、獅道もヒナの姿の式鬼を倒していた。

ーやったか。それにしても腕を上げたな、獅道も。オレもあいつの力を認めないといけないな。 -

「キキッ、お二人様お見事です。」

そして、そいつが現れた。

「ききっお二人様、お見事です。」

「キサマッ,貴様か!二人を式鬼にしやがったのは!」

オレの見つめた先には昨日闘って逃げられた差留牙が居た。

「ききっ、また痛い目にお会いになられに来られましたか。獅騎導士さん。」

その時オレは怒りに震えていたかもしれない。

「美琴を何処へやった。」

「うきっ?あの娘ですか?うきき、さるお方が連れていかれましたよ。」

「何?どこのどいつだ!」

「それは私を倒せたらお答えしましょうか。うきき。」

「なら、答えさせてやる。」獅道が身構える。

「獅道!最初から全力でやるぞ!」 

ーこの間みたいにはいかねえぞ。 -

クロウを高く掲げながらオレは獅道に呼びかける。そして

聖召還ビースト!」高く掲げたクロウが発光し光の剣が現れ、闇に魔法陣が描かれる。光がオレの身体を包み込み・・・

「ガオルルル!」白銀の虎の鎧が咆哮をあげた。

そう、これがオレの獅騎導士ビースト・ナイツの姿。

傍らに立つ獅道も召還し、鬣の目立つ獅子の姿となった。

「ききっ!獅騎導士!!くたばりやがりなさい!」差留牙の攻撃を盾で受け流しつつ、剣を繰り出す。

<ビュッ>

「ウキーッ!」片腕を斬られ差留牙が怯む。その隙を逃さず獅道が切り込む。

「ぐぎゃあっ!」差留牙が仰け反る -今だ!決めてやる。 -

獣破斬ビースト・スレイヤー!」

気を虎鋼コテツに込め必殺の一撃を打ち込もうとした時。

「うききっ、ぎいー!」

差留牙が咆哮を上げる。差留牙の容姿が邪悪な姿に変わっていく・・・

もはやそこには、差留牙ではなく、ダークデーモンと化したサルのバケモノが体中に触手を生やして蠢いていた。

「バ、バーサクモードか?」

魔獣鬼差留牙の全能力を飛躍的に増幅させるバーサクモード。その姿から元へ戻るには、相手を倒すか、己が倒されるか、しかも自分の意識が失われればもう元へは戻る事は出来ない。

差留牙は相手を倒す為に、最悪の方法を取ったのだ。

「うごぎきき。」

差留牙の触手攻撃が始まった。虎鋼を振るい攻撃を弾くが、かわし切れなかった一撃がオレを吹き飛ばす。

「ぐっ!」

「兄さん!」横に居てる獅道にも一撃が!

「獅道!」気を取られ、隙を与えてしまったオレに手痛い一撃が

「うおっ!」腹部に一撃を喰らって跪いてしまった。

圧倒的な力の差を感じるがここで怯んではいられない。

ーコイツを倒さなければ美琴を救う事は出来ない。 -

「くそっ!何か手はないのか?」

ー ヤツの弱点は? -

差留牙の本体、触手を繰り出してくる体表にばかり気がいっていたが、ヤツは目で見ている物だけしか攻撃出来ない。ヤツの目を潰せば、一瞬でも気をそらせれば、・・・やれる! 

「獅道!ヤツの目を潰すぞ!!」

「え!?」

オレは虎鋼に気を込めて「炎騎斬ファイアースレイガー」振り下ろす。

真紅の炎が差留牙を包む。

「うぎきっ、きかぬわ!!」差留牙が炎を振り払おうと手を翳した瞬間を捉えて、オレと獅道が突っ込む。

虎鋼が白銀色のオーラを放ち「獣破斬」

二人の一撃が同時に差留牙を捉えた。

「うぎっ、ギガアアアア!」

断末魔の悲鳴と共に差留牙が崩れ落ちた。

ー倒したぞ! -

剣を、元の姿に戻った差留牙に突き付け

「美琴を連れ去ったヤツを教えろ!」

オレの言葉に息が止まる前に差留牙が云う。

「魔導士の女だ、魔獣騎士様が娘を欲しているそうだからな。」

「そいつの名は?」

「ぐっき、ぐふっ。パ・・・パクネ・・・ぐはっ・・・」

ーな・なんだと?あの女が? -


ーそ、そんな!うそ!!・・・なんで・・・お父さん? -

目の前に魔導服を着た男、それは5年前突然姿を消したお父さん。その姿、顔忘れもしない。

ー でも、なぜ? -

「ふふふ、感動の御対面ね。」パクネが横から、茶化す。

お父さんの姿をしたこの男が、パクネに

「下がっていろ。」と、静かに言うと、パクネは一瞬身体を強張らせたが、深々と会釈し何も言わずに部屋から出ていった。

それを見送った後、

「美琴、私と共に黒王様の元へ行くのだ。」

ーその声、間違いないお父さんだ。でもなぜ?今になってあたしの前に現れたの?それに黒王って

誰なの? -

「お父さん、なぜ?どうして今まで帰って来てくれなかったの!」思わず叫ぶ様に訊いた。

じっとお父さんの顔を見つめて初めてその顔の変化に気付く。5年前の記憶にある面影はなく、何かに執りつかれたかの様な無表情さ、そして瞳の色。赤黒く不気味なその瞳の色。

「お父さん?何か言ってよ!」震える声を出すのが精一杯。

「ねえ!狼牙お父さん?」-あたしが11歳のになる日、突然いなくなったお父さん。それから今までどうしていたの? -

「父ではない。」 

- え?何?何を言ってるの? -お父さんの口から、絞りだすように言われた言葉に頭が混乱する。

「おまえの・・・美琴の父ではないと言っている。そして我が妻、美久の子でもない。お前の母は聖姫。聖獣界の巫女、聖姫がお前を産んだ母親なのだ。」

ーえ?ええっ?何を言っているの?お父さん!どういうこと、わけわかんないよ? -

突然の告白にあたしの頭は真っ白になる。狼牙は続ける。

「お前には聖獣界の巫女の血が受け継がれている。力を失った聖姫の代わりにお前が必要なのだ。黒の大王を復活させる為にはな・・・」

ーは?何を言ってるのか解んないよ。あたしが聖獣界の巫女の血縁?聖姫様の子?なんで?あたしはお父さんとお母さんの子供、美琴だよ。頭がグルグルおかしくなりそう。お父さんどうしちゃったの?それに、どうして黒の大王の復活にあたしが必要なの?教えてよお父さん、昔の優しかった頃のお父さんに戻ってまたあたしの頭を撫でて、抱きしめて! -

狼牙の手が美琴の腕を掴もうと伸びてくる。

ーああっ、いやっ。こんなのお父さんじゃない。いやっやめて触らないで -

<ビシッ>狼牙の手が美琴に触れようとした時、髪飾りがピンク色の光を放ち狼牙の手に電撃を加えた。

「水晶の欠片か・・・」狼牙の手が美琴からはなれた。

「これが聖姫の娘とゆう証だ。」

ーえ?これはお母さんの形見・・そうお父さんがあたしにくれたんじゃない。忘れたの?お父さん? -

「邪気を放つ者から継承者を守る聖姫の念が篭った物だ。」

ーえ?それじゃあお父さんが邪気を放つ者?何で?お父さんは獅騎導士じゃない。魔獣鬼なんかじゃないのに。 -

「くくく、美琴。私はダークホラー・・・魔獣騎士なのだよ。」

ーお、お父さんがダークホラー?うそ!そんな筈はない。 -

「観るがいい、私がお前の父ではない事を!」そう言い放った狼牙が黒色の剣を翳すと、暗黒の闇が狼牙を包む。美琴の目の前で狼牙の姿は暗黒魔獣騎士ダークナイツ鋼狼鬼<メタルウルフ>になっていた。

ーいやっ!いやだよお父さん。あたしの知っているお父さんはこんな人じゃない。 -

あたしの目から、涙が溢れてきた。


 「おやあ、珍しいわねえ。お二人揃ってなんて。」

オレ達の前に露出度の高い魔導服を着た女が現れた。

「パクネ!」-オレは搾り出す様にその女に向かって呼んだ。獅道が、

「美琴をどこに連れて行った!!」と、言いながら近づく。

「いきなりなご挨拶ね。ほんと、獅道坊ちゃまは!」

「うるさいっ!」獅道が剣を振るうがパクネの動きは早い。あっさりかわされた。

ーこいつは本当に掴み所がねえヤツだ。 -

「美琴は、どうしている?」オレがかまをかまして訊く。

「ふふふっ、感動の御対面ってやつ。は!」

ーアッサリ引っかかってくれたな! -

パクネはしまった、という顔でこちらを睨んだ。

-よし!もう一息だ。 -

「おやじは、あのバカ親父はこの奥か?」パクネの顔が引きつる。

-よし、かかったぞ! -

「どうせあのバカおやじの事だから感動の対面で娘の様な子に、ちょっかいを出してんじゃねえのか、あのバカ親父も男だからな。」しらじらしくそっぽを向きながらパクネに言う。パクネの表情がさらに強張った

ーよし、とどめだ! -

「自分の娘じゃないし、もう美琴も女扱いできるんじゃねえの。結構かわいいし・・・」

-うえっ、美琴をかわいいっていっちまった。-

「早く止めた方がいいんでないの?」

パクネが口をパクパクさせて、何か言いたげだったが

「ダッダメ。ダメですう。狼牙様ーっ。」

-けっ!容易い女だぜまったく! -慌ててパクネが奥へ走り出す。その後をオレと獅道はつけていく。

やがて大きな扉まで来たとき、パクネが扉の中に入って行くのが見えた。

続いてオレ達も突入する。が、パクネが扉の裏側に隠れたのに気付いた。パクネの口元が、薄ら笑いを浮かべていた。

-ち!騙されたのはオレの方か・・・ んっ!?あれは! -

オレの目の前に美琴が倒れていた。その傍らに立つ異様な姿が目に突き刺さった。

「オヤジ!てめえ!美琴に何をしたんだ!」

「ふふふっ、何もしていない。ただ・・・」

「ただ、ただ何だよ!」ゆっくりとオヤジいや、ダークホラー鋼狼鬼は言い放った。

「真実を美琴に告げたまでだ、己の生れをな・・・」

-な・なんだと! -

「オヤジ!てめえっ!」オレは言い放ちつつ剣を振るう。

<ガッキイイン>オレの振り下ろした剣は鋼狼鬼の剣に阻まれる。

「その様な太刀が私に利くとでも思っているのか?」

-くっ!相変わらずへらず口を! -

「お前と遊んでいる程、私は暇ではない。」

「獅道!美琴を連れ出せ!」オレが鋼狼鬼から目を逸らさず命じる。

「ふはは、安心せよ今日の所は引く。次は美琴を北の黒王の所へ連れて行く。それまで巫女を預けるぞ。」

ーなんだと!北の黒王の所だと?美琴を黒王に渡すつもりかよ、オヤジ -

「させるかあ!」オレは剣を鋼狼鬼に振り下ろすが鋼狼鬼の周りを闇が覆う。

闇に消えた鋼狼鬼の声だけが辺りに響いた。

「間も無く北の黒王配下、四天王ギガントが現れよう。その時、また、遭おう。」

ーくそっ!消えやがったか。- オレは鋼狼鬼が消えた空間を暫く見つめていた。

ー親父、もうだめなのかよ・・・-

「虎牙兄さん、美琴が・・・」

ーはっ!そうだ、美琴は?無事なのか?-獅道が抱きかかえた美琴は気を失っているだけの様に見える。

だが、その顔には涙の跡がはっきり残っている。

-本当にオヤジに告げられたのか? -

「獅道、美琴を頼む。オレはマコ、ヒナちゃんを連れ出すから。」

「・・・わかりました。」獅道は何か言いたげだったが、美琴を抱きかかえて出て行った。

ー本当に美琴は知ってしまったのだろうか?もしそうだとしたら・・・オレは、美琴に何を伝えればいいのだろうか? -



ー(美琴・・・美琴・・・)誰かがあたしを呼ぶ声が聞こえる。声の主は男の人と、女の人の声だ -

ーはっ!-目を開けると目の前にお父さんとお母さんの顔があった。

-あれ?ここは何処?狼牙お父さん美久お母さん? -

「お父さん、お母さん!!」思わず抱きつこうとするとあたしの手は宙を舞う。

ーえ?どうして? -

あたしの前に居た狼牙お父さんが、あの優しい微笑みをしていた顔が消え、赤黒い瞳をした鋼狼鬼の顔に変わっていた。

(「お前は私の娘ではない。美琴!」)「美琴・美琴。」

ーいや、いやあ!そんな事言わないで!お願い、お願いだからうそだと言って、お父さん! -

はっ!本当に目が醒めた。

「美琴、気が付いたか?」

ーえっ?虎牙兄?あたしどうしちゃったんだろう?確か鋼狼鬼に・・・ -

「うっうわああ。」思い出した。鋼狼鬼・お父さんに会ったんだ。そしてあたしは・・・

『大丈夫だ、ここは美琴の部屋だよ。」あたしの震える肩にそっと虎牙兄が手を掛けてくれる。

また、涙が溢れてくる。

「うっうっ、ぐすん、うわああん。」虎牙兄の手を握り返して、胸に頭を付ける。

なんだか、少し落ち着く。

ー虎牙お兄ちゃん、ごめんもう暫くこうしていさせて。-虎牙兄は黙ってあたしの気が落ち着くまでこのままでいてくれる。

・・・・・どの位泣いただろう?頭の中が白い靄が晴れるように、次第にはっきりして来る。

ー虎牙お兄ちゃんなら話してくれる。ちゃんとあたしの問いに答えてくれる。そう信じる、信じてる。-

虎牙兄の胸に頭を付けながらそっと訊いてみる。

「あたし、コーガ兄の妹だよね。狼牙お父さんと、美久お母さんの娘だよね。」声が震えているのが、自分でもわかった。

ー怖い。虎牙兄の答えが怖い。お願い、妹だと言って、虎牙お兄ちゃん・・・ -

なかなか答えが返ってこない。

ーいやっ、いやだよ、虎牙お兄ちゃん。早く答えて、妹だと言って、お父さんとお母さんの娘だと -

<ギュッ> -え?虎牙お兄ちゃん? -

あたしを虎牙兄がそっと抱いてくれた。

『美琴、お前はオレの大切な妹だよ。」

ぱああっーああっやっぱり。良かった、うれしいよ。虎牙お兄ちゃん! -

あたしは、ほっとして虎牙兄の胸に身を寄せた。だけどその後の言葉は動転させた。

「けれど、おやじと母さんの娘じゃ無いんだ。」

ー!、それって、どういう事なの? -

「美琴、これからオレが言う事を信じて欲しい。」虎牙兄が一言一言、搾り出す様に言う。

ーああっ、どうしよう。そんなこと聞きたくないよ。-

あたしはその気持ちを訴えようと虎牙兄の顔を見上げた。その瞳は何かを必死に堪えているかの様に真剣で、思いつめた目をしている。

ーああっ、そんな目を見たら嫌って言えないよ -

「うん、信じるよ。」

あたしは虎牙兄と同じ位、真剣に頷いた。

「美琴が母さんと家に来たのは、オレが8歳の時だった。赤ちゃんだった美琴をおやじと母さんが妹として育み、オレ達は本当の兄妹として成長していった。母さんが消えるまでは・・・。そうだよ、母さんが13年前にダークホラーに消されてしまうまでは。」

ーお母さんがダークホラーに?消される? -

あたしが黙って聞いているのを確認すると虎牙兄は続ける。

「オレが美琴が実の妹ではない事を知ったのはこの時なんだ。母さんから頼まれたんだ、美琴を頼むって。美琴は聖獣界の巫女の血を継ぐ人だから必ず守ってくれって・・・」

ーうそ・・・そんな、鋼狼鬼の言った通りなんだ。 -

あたしの目の前がまた白くなっていく。-でもだめ、虎牙お兄ちゃんを信じなきゃ。虎牙お兄ちゃんもこんな辛い話をしたい訳ないんだから・・・ -

「そして、母さんはダークホラーに消されてしまった。それから6年後今度はおやじが北の黒王の手で魔獣騎士にされちまったんだ。」

ー北の黒王!そうだ、鋼狼鬼も言っていた。あたしを北の黒王の元へ連れていくって・・・ -

「おやじが家を出る前に言ったんだ、母さんを連れ戻すって。オレも一緒に行くと言ったけどオレには大切な役目をさせるって。それは美琴、美琴を守る事なんだ。」

<ギュッ>あたしを抱いてくれている虎牙兄の力が少し強まり、あたしの身体は一層寄り添う。

ー虎牙お兄ちゃん、その日からずっとあたしを守ってくれてたんだ。記憶が蘇ってくる。あたしが小さい時のことが、「えーん、えーん。」あたしが一人で泣いていると虎牙兄ちゃんが「ほら、泣くなよ。美琴。」そう言って背中におんぶしてくれたっけ。そしてあたしを元気付ける様に「美琴!オレが守ってやるから。絶対なにがあっても!」そういってくれた・・・それであたしはこう言ってたっけ。「ありがとう!コーガお兄ちゃんだいすき!」笑顔でそう返事してたっけ・・・。ああ、そっか、そうだったね。小さいときからずっと・ずっと。今も、変わらないね・・・ -

「ありがとう・・・本当の事を言ってくれて・・・」

虎牙兄は黙ってあたしを抱いてくれている。

ーあたしは虎牙兄、獅道兄さんの妹じゃないいんだ。これからどうして2人と接していけばいいのかなー

「美琴、最初に言った通り、美琴は大切な妹なんだよ。冴騎 美琴なんだよ、何も変わりはしない。心配するな。いいな。」

虎牙兄が優しい言葉であたしの心を揺さぶる。<ドクン、ドクン>

あたしの心臓が早鐘の様に脈打つ。

「うん、わかったよ。虎牙お兄ちゃん。」

虎牙兄の顔を見上げる。優しい瞳があたしを見つめている。<キュンッ>

ーだめっ、そんな瞳で見つめられたら、胸がきゅんきゅんしちゃうよー。-

「美琴。」虎牙兄の顔が近づく、

「お兄ちゃん・・・」<ドキン・ドキン>

あたしはこの時初めて兄妹の枠を超えて、異性として虎牙お兄ちゃんを好きになっている自分に気付いた。虎牙兄の瞳があたしを求めている。そっと目を閉じる・・・

ーおでこにキスしてくれた・・・・ーあたしは真っ赤な顔をしているんだろう。

ードキン・ドキン心臓が飛び出そう・・ー

「あのー、虎牙兄さん美琴。」

ー  !!! -

ーふえ?獅道兄さん!!-

思わずあたしは、虎牙兄から飛びのいた。

「マコちゃんと、ヒナちゃんを治さないと。」と獅道兄さんが言う。

「そうだ!美琴。お前の友達の事、忘れてた!」

ーんーっもうっ。いっつもこんな感じなんだもん!虎牙お兄ちゃんったら。ー でも・・・

( ありがとう、虎牙お兄ちゃんだーいすき。)

あたしは涙をふきながら、くすっと笑った。


「うーん、おはア」

「ですう」

「おはよー」

ーいつも元気印お二人さんが、さすがに今日は重たいよね。 

いつもの登校風景、何も変わらない。その何の変哲も無い日常が、こんなにもうれしいものだったなんて

気付かなかったな。ー

あたしは良く晴れた青い空を見上げながらダラダラ歩く二人を急かす。

「マコ・ヒナ!ぐずぐずしてると遅刻!遅刻!!」

二人の手を引っ張りながら笑いかけた。

髪飾りが朝の光に反射してキラキラひかった・・・・・。



  Episode 2 巫女の娘  END


エピロローグ

学園へ向かう娘達をビルの陰から見つめる女魔導士。

「ふふふ、せいぜい今を楽しむ事ね、冴騎美琴。もうすぐ、闇があなたを覆う事になるから・・・」

そう言うと女魔導士は闇の中に消えていった・・・・・


次回 エピソード 3 白銀の狼










聖杖物語シリーズ「黒の剣」編。そのエピソード2をお送り致します。

ヘタレな小説ですが、いかがでしたでしょうか?

シリーズ全編を宜しくお願い致します。


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